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CREEK HALLに日常が戻る。


3種類のこけら落とし公演が終わり、今週はカフェのマスターと化している。

今日はまだ誰も来ない。たぶんこのまま誰も来ないような気がする。朝の9時にホールをオープンして17時に閉める。誰もいないときはひとり黙々とデスクワークをする。いまは6月に出版する『マーラーの姪』の再校戻し。仕事がはかどると思うときもあれば、売り上げが上がらないことを悔やむときもある。

3月31日にホールのオープンを迎えてから、僕の生活はある意味、シンプルになった。

毎日ホールを開ける。お客様がいらっしゃったら精一杯おもてなしをする。その繰り返し。そうすることでほんの少しでもまわりの風景が変わればと期待する。高望みはしない。そう自分に言い聞かせている。
 
思えば、こけら落とし公演に来ていただいたアーティストたちは、みな何かしらの啓示を与えてくれた。

實川風さんと田原綾子さんはいち早くホールの特性を見抜き、プログラムにはないドビュッシーやファリャの曲を演奏してくれた。「月の光」のナイーブさと「火祭りの踊り」のダイナミックさを、生まれたばかりのピアノとホールの両方に課してくれたのだ。

木村麻耶さんの25弦の箏の迫力と言ったら。伊福部昭の作品がまるで巨大な音の洪水のように聞こえた。アンコールはゴルトベルク変奏曲の最終変奏。なんとも心憎いではないか。

歌劇弾のソプラノ川島沙耶さんの「ある晴れた日」を間近で聴ける喜び。高音でホール全体が震えても決して耳障りではない。バリトン下司貴大さんとの息もぴったりで、ふたりの絶妙な掛け合いをピアノの山本真平さんが見事にサポートする。これほど「歌う喜び」に溢れたユニットはおそらく東京にも見当たらないだろう。

3公演とも満員御礼だった。この記録を継続させることが今後の目標になる。なによりホールの響きを気に入ってくれる人が増えていくことを願うばかりだ。
 
近くの遊歩道では桜が咲き始めた。雪解け水の急流も終わり、旧中の川はまたいつものように穏やかな水の流れを運んでいる。

次なる手は着々と進行中だ。

夏には音楽評論家の林田直樹さんをお呼びしてレクチャーシリーズを始めるつもりだし、念願の落語会も計画している。そして十月にはヴァイオリンに愛された女神、石上真由子さんの公演が控えている。

その前に、まずは毎日きちんとホールを開けること。そう肝に銘じて、明日もおいしいコーヒーを淹れるぞと、誰もいないホールで僕はひとり意気込むのだった。

竣工式のお供え物


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