ペット
私が高校生の頃父が一軒家を建てて引っ越した。
それと同じ頃に近所のおたくで生まれた仔犬をもらってきて飼い始めた。
普通に名前を付けて普段は家の中で飼っていた。
普段の面倒はいつも家にいる母がやっていた。
無論私達も一緒に面倒を見て可愛がっていた。
ま、普段散歩以外はリードをつけていないからよく隙を見て脱走をしていた。
しょうがねぇとばかりに追いかけるのだがこちらをチラチラ見ながら先をウロウロしていた。
だいたいは三十分もせずに諦めたか飽きたかはわからないが捕まっていた。
私の住んでいたところは結構犬を飼っているところが多く庭先や駐車場の隅に犬小屋を建てて飼っているおたくがあった。
ある日また脱走したうちの犬があるおたくの駐車場にリードをつけていた犬にちょっかいをかけだした。
まったくこいつはと思いながら捕まえるチャンスとばかりに近寄って抱え上げたらそこのうちの犬が勢い余ったのか私のふくらはぎに噛み付いたのだ。
噛み付いた犬はすぐ離してなんか申し訳なさそうな顔をしていた。
勝手に入り込んでちょっかいを出したうちの犬が悪いし勝手に駐車場に入った私が悪いからそそくさとうちの犬を抱えて退散した。
帰って傷を見ると綺麗に二つ穴が空いていたが血もそんなに出ていなかったのもあり自分で消毒してそのままにしていた。
今でもその傷はかすかに残っているけどそれのせいで何かあったかと言えばなにもない。
ある日のことその日は焼肉をしようと母がちゃぶ台に食材とホットプレートを出して準備は万全とはかりにそこにいたみんなはテレビを見ていた。
多分私が最後に帰ってきて今に入ってちゃぶ台を見たらものの見事に肉だけがなかった。
ふとちゃぶ台の横にいたうちの犬を見たら満足そうに口の周りを舐めていた。
そこにいた家族に言ったらみんな呆れていた。
よくもまあ気づかなかったもので気づかれずによく平らげたものだと怒る気にもなれず残った野菜とソーセージなんかでその日の夕食は済ませたように覚えている。
そんな犬も母の通夜のときは棺のある部屋の隅でじっとしていた。
そんな犬も私が看護学校時代実習を終えて夜遅くに帰ったらいつものところにいない。
父は呑んで起きる気配がない。
そのまま探しに出たが見つからず周りも真っ暗で探しようがなく明日も朝早いから取り敢えず寝た。
次の日も朝早く実習に出たのだが犬は帰っておらず寝ている父を尻目に後ろ髪をひかれながら実習に向かった。
帰宅後起きていた父がうちの裏の崖下に落ちて死んでいた、と告げていた。
だいぶ老犬になっており足元もおぼつかなかったのは確かだった。
そっか、と一言返事をしただけだった。
庭の隅のあそこに埋めといた、と指を指した方をみたらきのいたが刺してあった。
あっけないお別れだった。
こんな思い出も遥か彼方になってしまった。