創り手が考える「高島ちぢみ」が夏場のマスク素材に向いている理由。
わたしは滋賀県に北西部・高島市(繊維産地的には高島産地と呼ばれています)で 株式会社杉岡織布 (すぎおかしょくふ)(http://www.biwa.ne.jp/~sugi-tex/)という会社で機屋(はたや)をしている杉岡定弘といいます。この度はnoteにて、あなた様の目に留めて頂きありがとうございます。
数か月前にnoteに登録していたものの、特に ブログ (https://ameblo.jp/sada-blog/)との併用でこちらをどうこうしたい・・・という欲が湧かず、恥ずかしながら放置しておいたわけですが、この度どうやら「noteが良いらしい」ということを巷で数人にお聞きしましたので、遅れ馳せながら、活用させていただきます。
いきなりですが、生地を織り、売っている立場の手前どもが言うのもなんですが、今、「 高島ちぢみ 」(https://www.facebook.com/takashimachijimi/)が夏用マスクの生地としてたいへん人気があります。
今回はその理由を思いつくまま書かせていただきます。
話しはいきなり昔に戻りますが、この写真は、明治初期に「高島ちぢみ」が販売されていた「販売所」のイラストです。上の方は今でいう高島市の安曇川町北船木にあった「駒井半左衛門」(屋号は「やまきゅう」さん?でしょうか)さんのお店、下の方は今でいう高島市勝野にあった「村田庄右衛門」(屋号は「かねまさ」さんか「かくまさ」さん?)のお店。こういった販売所から全国の百貨店や卸商のもとに運ばれていったようです。
(資料「高島織物全史」より)
当時は織物生地はおしなべて高級品で、おそらく「高島ちぢみ」も人気があった部類の布生地だったようではありますが、それでも着物生地と比較すれば安価だったように推測できます。
また、高島織物工業協同組合
(http://www.takashima-orikumi.shiga.jp/)
の資料には、以下の様な文言があります。
「高島織物の起源については詳かでないが、今から350年前近江聖人中江藤樹先生の遺物の中に「縮」がみられることから、現在に伝わる我々の事業の源をこの頃に求めてよいと考えられる。」
中江藤樹 先生(http://www.scl.city.takashima.shiga.jp/www/contents/1134379418441/index.html ・・・リンクは高島市のHPでのご紹介につながります)
中江藤樹先生は、高島地域の偉人なのですが、江戸時代の方で、今でも市民の中では先生と呼ばれて尊敬されておられる方です。そんな先生が没されたのは1648年のことですから、「高島ちぢみ」も400年以上の歴史があるのは間違いなさそうです。
今では、すててこ・ランニングシャツなどの肌着やパジャマ生地、寝装寝具など広く使われています。
(↓肌着として使用した弊社製シャツの例↓)
さて表題。「なぜ夏のマスク生地に相応しいのか」という点で考えると、歴史的に古くから日本に住む人に愛されてきたことには理由があり、その理由こそが今回の答えだといえます。
理由その1 綿だから。
(↑無料で画像を使えるサイト「写真AC」さんからいただきました↑)
綿の特徴・・・まずメリットとしては、清涼感や肌ざわりなどの良さ、伸縮性があり、とても親しみやすい素材だ、という性質が挙げられます。
これをもう少し科学的な面で申し上げます(わたしは文系ですが・・・)と、綿そのものが吸水性が高く、吸着した内側の水分(衣類などに使用するとして、汗や水滴などをイメージしてください)を外側に出そうとする性質があります。その際、熱も一緒に放出するので、その際は涼しく感じると言われています。
デメリットとしては、毛羽がたちやすかったり、縮みやすい性質があったりしますが、「高島ちぢみ」としてはこの「縮みやすい性質」にさらに追い打ちをかけるかのように?強い撚糸加工を施したものを緯糸(ヨコ糸)として使用しています。また経糸(タテ糸)には、撚糸が掛かっていない単糸(撚りをかけていない糸)を使用しています。撚糸に関しての他の良き要因は、後ほど「理由その3」で詳しく解説いたします。
理由その2 表面(肌に当たる面)が凸凹しているから。
弊社HPにも掲載させていただいている上の図をご覧いただけるとお分かりになるように、生地が波打っているのがわかると思います。冒頭の写真にありますように「高島ちぢみ」の特徴は、「凸凹している」「しぼがある」「しわがある」ということが、強くお伝えすべきことです。
肌に「凸凹」であたることで接触面を減らし、なおかつ あたっていない肌との間に適度な空気を含ませることで、肌の温度などの影響で布生地そのもの温度が上がりすぎる作用を減らすような構造になっています。
弊社でも織って納めているので大きな声では言えないのですが、「ガーゼ」や「ダブルガーゼ」は、マスクにはとても向いている素材ですが、夏場に着用するには少し暑いです。前述「理由その1」の理屈でいえばこちらも同じく綿を使用しているので熱を放出するはずなのですが、なぜなのでしょうか。
おそらくですが・・ガーゼなど、フラットな生地は肌に触れる面に凸凹が少なく、当然 直接に肌に当たる面が多い状態=接触面が多すぎ、暑く感じるのだと推測します。(空気の逃げ場がない、暑い空気がたまる状態)
また、綿のメリットとデメリットの中間に属する「中空」(ちゅうくう)という特徴も挙げざるを得ません。綿の糸は、マカロニ状とでもいうか、繊維の中間に空気を含む造りをしています。このため、実は保温性にもある程度優れており、実は冬場でもズボン下などでは(ある程度の寒さまででは)、綿製品は、合成繊維などの「あたたか素材」と比しても充分、温かいのです。
なお、「高島ちぢみ」ではこの「中空」の性質を、強い撚りを掛けて糸を撚り、ひねることで少し緩和させているとも考えています。まさに夏用のマスクとしては、最適な素材ですね。
理由その3 撚糸が活きているから。
(撮影・高島市マキノ・吉原敏三撚糸さま)
「理由その1」「理由その2」でも共に少し触れましたが、撚糸という技術は、「高島ちぢみ」には切っても切れない関係性があります。先程は中空の性質の内側を少し「締める」ような意味合いとしてお伝えしましたが、それ以上に糸の強度を強め、伸縮性を強める助けとなります。
例えば40番手の綿糸の場合、メートル間に1000回から1200回、多いときはさらにそれらの1.5倍の撚り回数を設定し、イタリー式やリング式の(水撚りではない)乾式撚糸機で撚りをかけます。(「腕によりをかけて・・」の語源かと思われます)
その後、「セット」と言われる「蒸す」ような工程で撚りを止め、製織時の緯糸向けとして出荷され、機屋のもとで緯糸として用いられ、製織されます。
撚られ、セットされていったん真っ直ぐに近い形になった糸は、生地加工でお湯に付けられたあと、撚られた後の形に戻ろうとして縮みます。ここで、「トルク」と言われる「縮む力」が生まれ、生地そのものが横方向に縮もうとします。
(撮影・高島晒協業組合)
この「縮む力」こそが「高島ちぢみ」の語源であり、なおかつ着用時に快適な伸縮性をもたらす大きな要因となります。ポリウレタンのようなゴムが入っているからでもない、化学薬品で縮められたものでもない。天然繊維「綿」の持つ特徴である、自然由来の伸縮性をより特徴付けしたような織物だから、「高島ちぢみ」には不快感が少なく、むしろ快適な着用感があるのだと考えられます。
理由その4 「高島ちぢみ」だから。
理由になっていないようですが、「高島ちぢみ」ほど長く、人様の肌に触れてきた、触れ続けてきた素材はないと考えております。
(ここで話が先程の明治初期の「高島ちぢみ販売所」の写真の時期に戻ります。)
事の興りは明治時代、洋装が盛んになった時期から、高級下着として「高島ちぢみ」は愛用されてきております。背広やスーツなどの洋装の中着・下着として発展してきた「すててこ」や「ランニングシャツ」、「U首シャツ」はどこか懐かしいレトロなものですが、長く愛され続けてきた理由は、まさにその涼感と、実用性にあると考えます。
実用性として。今のようなクールビズスタイルの無かった時代の夏場に、背広やスーツの内側が肌に貼りつかないようにして早く傷むのを防ぎ、クリーニングが少なく済ませられる工夫を果たしてきたのは、まさに「すててこ」などのズボン下や「U首シャツ」「ランニングシャツ」が活躍してきたからに他なりません。
また最近では、春夏秋を通じてパジャマ素材として、また敷パッドや寝具として、眠りの時間にも幅広く、ご使用いただいております。
こう考えると、日本人の朝から昼、そして夕から夜まで、つまり一日を通してカバーしてきたという、稀有な織物生地素材であることをお伝えせざるを得ません。
マスクとして着用するのは、一日を通して相当長い時間になると思います。息苦しさ、暑さ、不快感を生じさせる織物素材や不織布では、やはり夏場は苦しいですよね。
そんな要件を満たすため、わたしは布マスクの素材として「高島ちぢみ」を強く強くお勧めします。
ただ、「高島ちぢみ」をプロデュースする側の意見として捉えられるかとも思いますが、ここしばらくガーゼ素材のマスク、ニット素材のマスク、不織布素材のマスクを使い、比較した上で確信を得たという「個人の感想です」ということで、どうかよろしくお願いいたします。
番外編 オススメの使用方法
番外編その1・・・マスクに使うときは、口が大きく開く水平方向にしわのスジを合わせる
わかりにくいので、図で。
不肖わたくしです。わたくしの姿はともかく、マスクにご着目ください。
普段、衣類に使うとき、シワの筋は縦方向に伸びていますが、マスクの場合は横方向が良さげです。
縦方向にすると口が開けづらく、また使用している間にあごや頬の方向までマスクがどんどん大きくなってしまう感覚がありますが、口が開く方向のことを考えると、この向きが妥当だと感じました。
番外編その2・・・ハッカ油などを使用する
わたしは夏場、ハッカ油を水で薄めたものを持ち歩いています。(ハッカ油2滴に対して50mlくらい?の水をスプレーボトルに入れ、振っただけのもの・・濃いと危険)普段はそれを、首に巻くタオルに吹きかけて涼感を得て、工場での仕事や事務所での仕事に勤しみます。
マスクにそれを使用してみたところ、とても良い感触を得ました。香りも、涼感も一挙に得られた感覚です。何よりニオイ消しとしても有効です。
※これはあくまで個人の使い方なので、ご使用時はご注意ください※
いずれにしても日本の夏は暑いです。しかしながらコロナ禍の中、自粛が解禁され、都市間、都道府県またぎの封鎖が解けたとしても、自身で自分の身を守るためにはマスクは必要となりますし、また大事なご家族や周りの方も守る必要があります。
まとめ そんな中「高島ちぢみ」が涼感素材だということをどこかでご記憶いただけたら、たいへん嬉しく思う次第です。
長々と書いてしまいましたが、各社様からリリースされる「高島ちぢみ」布マスク。どうぞよろしくお願いいたします。
(もちろん衣料や寝具など、本来の需要向けのご購入としても、皆様のご購入を心からお待ちしております!!)
(「高島ちぢみ」
・・・地域登録商標所有者 高島織物工業協同組合 / 運営者 高島晒協業組合)
厚かましいお願いですがよろしければサポートお願いします!!