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しずかな、それは和解

ひとりで悶々と悩む夜が、まるで私を待っているかのような風貌でこちらを覗いている。睡眠の深さには自信があったけれど、冬の訪れを身体の芯で感じるようになってからは悪夢と手を繋いで、毎夜蹲りながらなんとか飛び越えている。
悪夢、といったが別にファンタジー的な、異世界的なものを見ているわけではないというのがつまらない。昔あった苦しい思い出が波のごとく私の隣に忍び込み、わたしが眠りに落ちた途端にぐわっと牙をむく。荒波のごとく私を押し倒し、後悔と懺悔と希死念慮に揉みくちゃにされて、ふと気づくと波は過ぎ去っていて。はっ、と殺されたような生き返ったような心地でこちらに戻ってきて、乱れた呼吸を愛おしむ。そういう無駄な寛容さだけが、心に棲みついてしまった。
ねむる時間で壊れかかった生活を修理していたはずなのに、夢の中でも生活をつづけている。
模倣された世界の本当の部分だけが、新しい世界として私の前にあらわれてしまった。このままいったら精神をやられてしまうかもしれない、などと戦々恐々としていたけれど、星野源のラジオと一緒に眠った夜だけはほんものだった。ふたつあった世界は、その瞬間だけは一つに重なっていた。

(11/26放送回は、「眠れない夜にすること」について、リスナーのお便りをもとに話されていました。尖った心がすこしだけやわらいだので良ければ聴いてみてください)

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