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「交差」。すべきか、避けるべきか

タイ国立チュラロンコン大学医学部のウイルス・感染症の権威、ヨン博士。

その博士が、ボランティア500人以上を対象に、「交差接種」の実験を行いました。これは主に、1回目の接種でシノバック社製ワクチンを受けた人に対し、2回目はアストラゼネカ社製ワクチンを接種し、その健康障害や効果について確認する、というものです。

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「交差接種」による効果については、引き続き被験者の追跡調査が必要ではあります。しかし中和抗体はシノバック社製ワクチンを2回打った人よりも8倍多いということですから、効果に期待はできます。また少なくても「交差接種」をした直後の健康障害については、特別な懸念事案はなかったということです。

これは、シノバック社製ワクチンが、タイ国内で主流になってきているデルタ株に対し、予防効果も、重症化防止効果も、当初の期待よりもかなり低いようだ、という推定に基づく動き。武漢で流行した頃のコロナウイルスには有効であったとしても、変異株に対しては、その有効性に大きな疑問が生じている、ということです。なるほど、これを鑑みれば、ワクチン接種が世界でもトップクラスの中国(接種回数では第1位、100人あたりの接種回数では同6位前後)が、相当厳しい水際対策を続けていることでも理解できます。中国政府は、変異株の国内流入にかなり危機感を抱いているのでしょう。

さてこの暫定的な実験結果を受けて、保健省は「交差接種」を始めることを宣言。アストラゼネカ社製ワクチンに余裕のあるところでは、希望者にはすぐに「交差接種をしてもよい」とのGOサインが出されました。

ところが。

WHO(世界保健機関)が会見を開き、「交差接種」の安全性に懸念を表明。これを受けてプラユット首相も「交差接種」に疑念を表明。「シノバック社製ワクチンを2回打っただけでは、ほんとうに変異株に有効性がないのか。もっとしっかり調べる必要がある」。この発言により、保健省は沈黙。「交差接種」を始める準備をしていたいくつかの病院も、急きょ予約受付をキャンセルしました。

ネットでは、「シノバック社系列企業の株主であるタイの財閥、CPから圧がかかったのではないか」とか、「中国政府が抗議したのではないか」という推測が出回りました。ワクチンの絶対数が足らずにすでに混乱しているのに、さらに混乱に拍車をかけたタイ政府。ここに、タイ政府の Covid-19対策本部(CCSA)でアドバイザーを務めている10人の大学医学部長が、「交差接種」支持を表明。科学的データに基づいて、有効な接種をすべきだと提言しました。タイの専門家も、政府と足並みを揃えることに苦労しているよう…。

「交差接種をするべきか、避けるべきか」。いやはや、政府内部でこの混乱。

閣内でのコミュニケーションが十分機能していない証ですね。

政府がもたもたしているうちに。

昨日(7月15日)、CCSAが発表したところでは、過去24時間に新たに陽性反応があった人は、9,186人。亡くなられた人は98人です。重症者は3,200人を超え、人工呼吸器をつけている人は800人を超えています。重症者の定義は日本と異なりますが、深刻な状況であることは間違いありません。

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私はそうは思いませんが、タイもインドネシアのように感染制御不能に陥る可能性が指摘されています。タイに進出している日系企業の中にも、駐在員に「ワクチン接種のための一時帰国」を認めたり、家族を即刻退避させる指示を出したところがあります。

※我が社でも、明日17日、上司が一時帰国します。8月頭と9月頭に予定されている、本社での「職域接種(モデルナ)」に加わるためです。帰国後14泊15日の隔離検疫があるため、明日からの帰国となります。昨日は帰国前のPCR検査を受け、本日結果が出ます。陰性でありますように…。

バンコク都など、最高度感染管理区域に指定されている都県での感染が沈静化する兆しがまったくないことと、地方での感染が増えつつある(バンコク都などの営業規制強化により、無症状感染者従業員が地方の実家に戻ったから?)ので、新規陽性者数、死亡者数はこれからも増えていく可能性があります。

一家全員が感染し、しかしベッドが満床で入院もできず。かといって感染しているので買い物にも外出できない家庭が増えてきています。ご近所さんが食事などの差し入れをしていますが、もしご近所さんがそうした奉仕をしている中で感染してしまったら、このような家族に支援する人たちは激減してしまうことでしょう。大きなリスクが、常に身近にあるようです。

下の写真は、クラスターが発生した食品工場内に準備された簡易寝具。これ、タイの森林内にある寺院で瞑想修行に励む人たちが使用する、寝具です。仮設病院の設置が間に合わないことから、こうした蚊除けネット付寝具が活用されているのです。

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