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#26 ショートショート

題名: 【陽炎】

8月上旬。
太陽がギラギラと頭上を照らしている。
アパートの玄関から外へ出た僕の身体からは、一瞬で汗が吹き出した。
汗が身体を伝っていくのを感じながら、僕は太陽をみる。
太陽が放つ白い光が歪む。
まるでゴッホの絵画のように。

「今日も暑いな...。」

そう心の中で呟くと、近所のコンビニへと向かう為に視線を戻す。

1歩目を踏み出す前に、不意に足元へ目をやる。すると、セミの死骸が僕のアパートの玄関の前にいた。
仰向けに倒れ、胸部・腹部は白くなっている。
6本の脚は全て先程の太陽の方へ向けられ、伸ばしている。
短い生涯を悔やむように。  

僕はそこへしゃがみこみ、セミを見下ろした。
すると、腹部の白い部分が所々、茶色に変色している。
アリだ。
いつも見るあの光沢のある黒々としたアリではなく、もっと小さな茶色のアリだった。
その茶色いアリの集団は、目の前の獲物を貪り食っている。
その中の1匹と目があった気がした。
セミの腹の部分の白いキャンパスに、それを獲物として群がりながら動き回る茶色のアリ。
白色が、動く茶色で歪む。
この歪みはどこかで....。

僕は今、歪みに挟まれている。
白い光と熱を放つ歪んだ太陽。白い腹が茶色の蟻の移動によって歪んだセミ。

「早かったな...。もう俺の番かよ...。」

恐怖感や焦燥感を感じ、先程の汗とは違う種類の汗が身体を伝う。

目線を前に戻すと、そこには陽炎が見えた。


#小説  #ショートショート #蝉 #太陽 #陽炎 #ゴッホ  
#エッセイ  #大学生 #2作目


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