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会計指標の独り歩き

こんにちは。SSKC会計グループの岩田です。

「脱炭素」という言葉を最近よく見かけますね。脱炭素とは何なのでしょうか。

2020年10月、第203回臨時国会の所信表明演説において、菅義偉内閣総理大臣は「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。

カーボンニュートラルとは 脱炭素ポータル/環境省

温暖化の原因となる温室効果ガスの排出をゼロにする取組みを「脱炭素」と言っているようですね。

様々な企業が脱炭素の取組みをしている中、このような記事を見つけました。

今回私が注目したのは脱炭素方針についてではなく、記事の中で出てくる会計指標についてです。

総還元性向を6割から5割に

記事を読みますと、これまで総還元性向の目標を「6割」としていましたが、脱炭素投資を手厚くするため「5割」に下げるようです。

総還元性向は株主への還元割合を表す指標です。記事にある説明を引用すると、

総還元性向は配当と翌期の自社株買いの合計額を連結純利益で割って算出する。

東京ガス、株主還元を縮小 脱炭素投資へ資金創出

とのことです。総還元性向が高ければ高いほど、株主還元について積極的な姿勢を見せているということですね。

それが2022年3月期から「6割から5割に下げる」ことに決まりました。還元割合を減らすことで投資に回す資金が創出されるので、脱炭素事業を加速させていくことになるのだと思います。しかし、この還元方針の見直しは最初に2019年に示唆していますが、市場からの反応はあまり良いものではなかったようです。

では何故、反応が良くなかったのでしょうか。将来のために還元ではなく投資に回すというのは、株主にとってそんなに問題があるものでしょうか。

会計指標が独り歩きをする

そもそも、何故「6割還元」を目指していたのか。その部分について引用しますと、

東京ガスの「6割還元」は株主資本が膨らみすぎるのを防ぎ、自己資本利益率(ROE)を高めることを狙って、06年当時の経営陣が設定した。ROEはリーマンショック後には5%台に落ち込んだが、11年3月期には11%台に上昇し、還元方針を設定する前の06年3月期(9%)を上回った。

東京ガス、脱炭素投資方針巡り市場とギクシャク

とのことです。

ROEを高めることを狙って「6割還元」を目標に掲げたのですね。確かに、内部留保が過ぎると自己資本(利益剰余金)が膨らみ、ROEが下がってしまうという現象が起きてしまいます。

ROEが下がるということは資本効率が悪くなるということであり、投資家は「投下資本に対していくら利益が得られるのか」ということを重視しているため、資本効率が悪いと市場からの反応が悪くなってしまいます。

そんなROEを高めるために「6割還元」ということですが、記事の続きを引用しますと、

だが、時間がたち経営陣が変わると「6割の数字だけが独り歩きし始めた」(国内証券)。還元・投資の政策が柔軟性を失い、投資に回らなかった利益は自己資本に積み上がった。配当と翌年度の自社株買いを足した総還元額を自己資本で割った値は、21年3月期で2.5%程度。11年3月期(6.8%)から大きく低下した。連結配当性向で3割以上を掲げる同業の大阪ガス(2%強)に迫られており、資本効率が良いとは言いがたい。

東京ガス、脱炭素投資方針巡り市場とギクシャク

とのことです。

還元を6割としていましたが、投資しなかった利益(内部留保)によって自己資本は膨らみ、資本効率が下がっているようです。2011年のROEは11.4%であり、2021年のROEは4.3%となっています。

そのため、「6割の数字だけが独り歩きをし始めた」と言っているのだと思います。

ROEを高めるために掲げた「還元6割」でしたが、それが意味を為さなくなってきてしまったということですね。会計指標だけを見ていると本質を見失う可能性があるので、定期的に見直しが必要です。

経営者と出資者の対立

総還元性向を減らす方針について、2019年から何度か示唆していましたが市場からの反応はあまり良いとは言えないものでした。

最初に還元方針を見直そうとした19年11月から直近までの株価は18%下がった。日経平均(24%上昇)や大阪ガス(2%上昇)と比べて見劣りする。市場からは「株主還元をやめれば資本効率を落としかねない。むしろ還元を高めるのも選択肢だ」(国内証券アナリスト)との声も上がる。

東京ガス、脱炭素投資方針巡り市場とギクシャク

このように、経営者と出資者はしばしば対立します。経営者は出資者から委託されて経営を行っており、出資者は出資している代わりに利益の還元を求めています。そのため、利益還元率が低くなることは、出資者側にとっては気持ちの良いものではありません。

しかし、経営者の経営方針を必ず否定するとは限りません。将来的に利益が見込めるような経営方針であれば出資者も否定的になることは少なくなるのではないかと思います。経営方針を変更する際には、出資者や市場関係者に対して納得してもらえるような説明をする必要があるということですね。

将来ビジョンを明確にし、納得いただくような計画を立てることは大切です。SSKCではサポート(将来ビジョンを達成するために必要な課題解決・提案など)も行っておりますので、よろしければご連絡ください!




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