839 無縁遺骨6万柱 時代に応じた扱い検討を山陽新聞社説2023.6.18

  時宜を得た指摘である。
 人間の遺体の法的性格を国民に問うているのだと考えたい。 

 親族が亡くなった。ここで考え方が分かれる。

「遺体は無価値物であり、ごみと同じ。火葬すれば量がいっきょに減るから、廃棄物処理法を根拠に火葬場が産業廃棄部として処分すべきである」。こういう議論を唱える人がいたが、もちろん国民感情に反する。当然却下される。初めてこういう声を聞いたときは腰が抜けるほど驚いた。あなたには親への恩の心情がないのかと問い質したものだ。

 遺体の処理は墓地埋葬法に基づいて処理されることが求められ、これに反する行為は違法であり、取締り対象になる。

 では墓地埋葬法で何を求めているか。土葬と火葬の方法で遺体を処理しなければならない。それ以外の方法を認めないということだ。

 インドでの川に流すとか、チベットでの鳥葬などは認めない。これが一点。ところで土葬は現実には国民が好まないから、実質的には火葬しかあり得ない。

 次に火葬後の焼骨をどうするか。これも墓地埋葬法に規定がある。行政許可を得た墓地内に埋葬、埋蔵、収蔵せよとなっている。(これらの三つの形態の差異についてここでは省略する。)

 つまり火葬場で収骨して骨壺に納めたならば、最終的には募地内に納めることになる。ここで「手元供養」としてリビングルームの目立つ場所に骨壺を鎮座させることの是非を問う声がある。先にも言ったように最終的には墓地内に納めなければならない。ただわが墓地埋葬法ではその期限が明記されていない。例えばスウェーデンでは火葬後「1年以内」とされている。墓地収容までの猶予期間と考えるべきである。

 親の骨壺を日々眺めている子どももいずれは死ぬ。それまでには親の焼骨を墓地に納めよとするのは常識的判断であろう。なかには例外的に孫が引き継ぐこともあろうが、あくまでも例外事例。しっかり保全されている限りにおいて、手元供養を認めていればよいのだ。

 さてここで社説が指摘する「焼骨を持ち帰ろうとしない」遺族への対応をどうするか。

 墓地埋葬法は、葬儀などは国民の宗教感情に則っておごそかにやりなさいというのが趣旨。遺体もただ焼けばいいというのではない。そこで火葬場も行政の居を要することにしており、そこに必要な施設基準は下位法令や自治体条例で定めることになっている。

 問題はその先。火葬後の焼骨を遺族が(骨壺に納めて)持ち帰らなければならないのか。

 結論を言おう。火葬場敷地が墓地を兼ねているなどの要件を満たしていれば、そこにそのまま埋蔵、収蔵をしてもよい。弔意をもって焼骨を納めることで墓地埋葬法の要件を満たす。

 今日では墓石建立をしない者も多くなっている。そうした者にとっては焼骨を持ち帰る誘因がそもそもないわけだ。

 そこでこれから火葬場に求められるのは、遺族(喪主)との契約を明瞭にして、①焼骨をすべて骨つぼに納めて持ち帰る、②焼骨のごく一部に限定して持ち帰り、残余部分は火葬場内墓地に納まるようにする。③焼骨を一切持ち帰らず、すべてを火葬場内墓地に納まるようにする。この3類型の選択になるはずだ。

 ところで散骨についての法的整理が十分ではないようだ。私見によれば散骨場所があらかじめ「墓地」として許可を得ていれば、樹木葬などと同じであり、ことさら騒ぎ立てることではない。ただ、公共水面をその場所とする場合卯などではその海底部分に焼骨を大量沈殿しないよう、火葬後の焼骨については②の方式に依ることが望ましいであろう

社説本分

骨は親族が引き取るものという考え方が必ずしも通用しなくなっていると言える。全国の自治体が引き取り手のない「無縁遺骨」を2021年10月時点で計6万柱保管していたことが総務省の調査で分かった。 

 身寄りのない独り暮らしの高齢者らが死亡し、市区町村が葬儀を行ったケースなどである。9割に当たる5万4千柱は身元を確認できたものの、引き取り手が見つからなかったり、親族らが引き取りを拒否したりしていた。 

 回答した自治体数が異なるため単純比較はできないが、直近の3年半で1・3倍に増えた。人のつながりが希薄化し、今後も増加が見込まれる。内閣府の高齢社会白書では、20年、65歳以上の人のうち、独り暮らしの割合は男性の15・0%、女性の22・1%と過去最多となっている。 

 一方で、こうした遺骨の保管を巡る統一ルールは整えられていない。時代の変化に応じた取り扱いを国は検討し、方向性を示すべきだ。 

 調査によると、無縁遺骨につながりやすい身寄りがない人の死亡は18年4月から3年半で10万6千件あった。主に市区町村が葬儀を行って、遺骨を引き渡す親族らを探すことになる。 

 だが、どの範囲の親族まで引き取りの意思を確かめればいいのか判断に困ったりすることがあるという。業務やコスト面の負担も大きいに違いない。 

 引き取り手のない遺骨は庁舎内の棚や倉庫のほか、運営する墓地や納骨堂などで保管していた。時代の変化に合わせて「家族の有り無しや、お金があるかどうかにかかわらず、希望する人は皆が等しく葬られる共同の墓を行政が設けるべきだ」と指摘している識者もいる。検討課題の一つだろう。 

 残された現金や預貯金の扱いも問題である。法律に基づき自治体は葬儀費などに充て、残りは法務局への供託などで清算することになっている。ただ、処理できずに自治体が保管している「遺留金」が増え、計21億5千万円に上っていた。

  厚生労働、法務両省は21年、遺留金の処理方法を示した自治体向け手引を作成した。手引に沿って預貯金を引き出そうとした際、金融機関から「相続人以外は引き出せない」などと断られるケースがあった。実際は関連法で引き出しが認められており、総務省は厚労省に金融機関への周知を求めている。 

 法務局への供託についても「相続人の意思確認が不十分」などの指摘を受けてできず、保管せざるを得なかった自治体があり、総務省は法務省に運用改善を勧告した。 

 このままでは、自治体が管理するだけで、実際には使えない遺留金がさらに積み上がる恐れがある。国は相続人の調査に活用できるようにすることを検討するなど、一層の対応が求められる。

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