712生と死の価値に10倍の差 健康保険での扱い
生と死を見つめよう。あらゆるものに始まりと終わりがあります。
人の場合、「おぎゃー」と生まれ落とされたときが始まりです。(もっと早く卵子が受精したときとの説もありますが、ここでは細かいことにこだわらない。)
そしてお医者さんに「ご臨終です」と宣告されたときが終わりです。(もっと早く脳死状態をもって死亡とする説もありますが、ここでも細かいことにこだわらない。)
ポイントは「出生」と「死亡」は必ず対(つい)になっていることです。生まれてこなければ死ぬことはなく、死ぬためには生まれていなければならない。
生老病死のうち、病気では生涯一度も医者にかからない健康優良者がいるでしょうし、老いる前に夭折(ようせつ)する人もいます。それで病気や老齢は保険になじみます。それを制度的に実行しているのがわが国の「皆保険」。健康保険や年金保険がそれですね。
ところが出生と死亡は実現率100%。ですから保険制度にはなじみません。生まれたら給付金支給、死亡したら給付金支給ということであれば、保険事故に遭う確率は全員同じなのですから。
でも現実には出生や死亡についても健康保険は給付金を支給します。それが「出産育児一時金」であり「埋葬料」です。純粋保険理論的には理屈に合わないが、制度加入者に気持ちよく保険料を納付してもらう説得材料としていいのではないか。多分、そういうことでしょう。理解できますよね。
「これから加入者になるのだからお祝い金ですよ」。これが出産育児一時金。
「今までご苦労様でした。脱退祝い金です」。これが埋葬料。
このうち出産育児一時金は近年給付額がどんどん引き上げられています。今は42万円ですが、50万円に引き上げる案も出されているようです。理由はいろいろあるのでしょうが、まとまった金額です。ただし健康保険全体のカネの動きからすれば大した比率ではありません。ちょっと計算をしてみましょう。年間に80万人の出生があるとして、50万円かける80万人で4,000億円。医療費40兆円のわずか1%。保険料の未納者対策のちょっとした強化で捻出できる金額です。ということで給付金額の引上げは無理なくできます。参考までに42万円から50万円への引上げ(約2割アップ)での新規必要額は、8万円かける80万人で640億円です。
ではもう一方の脱退時の給付金、すなわち埋葬料はどうでしょうか。こちらの金額は基本的に5万円。50万円に比べての5万円はいかがなものでしょう。出産育児一時金の金額では「産院への支払額」が目安にされています。であれば埋葬料の5万円は何を目安に算定されているのでしょう。
埋葬料という名称から想像されるのは墓地や墓石の購入費でしょうが、5万円では手付け金にもなりません。「埋葬料」はサラリーマンの健康保険法での名称であり、自営業者の国民健康保険法では「葬祭費」となっていますが金額は同じです。では並みのお葬式を葬儀屋さんが5万円でやってくれるか。無理でしょう。
葬送の一連行為の中で本質部分はどこか。わが国は世界でもっとも火葬率が高く99.99%と言われます。その料金は都内で7万円から10万円程度のようです。縁者が少なく会葬振舞(ふるまい)などいっさい省略の場合でも、火葬だけは省けません。健康保険の給付金では火葬料金にも足りないというのはどうなのでしょう。
必要額を計算してみましょう。死亡者数が急増中とされますが、多めに140万人としても5万円かける140万人では700億円。この際思い切って5倍増、といっても25万円で出産育児一時金の半額ですが、必要額は25万円かける140万人で3,500億円。
25万円の支給であれば、こじんまりした家族葬を火葬とセットでできるのではないでしょうか。
出産育児一時金を50万円に引き上げ、埋葬料(葬祭費)を25万円に引き上げる。そのために必要な新規財源は最大見積でも併せて3,440憶円(出産育児一時金640億円、埋葬料2,800億円)。健康保険の財政全体では微々たるものです。加入者の満足どの観点から検討する価値は十分以上にあると思われます。
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