見出し画像

711 火葬場の読み方「場」は“じょう”と読むか“場”と読むか

 なぞなぞです。現代日本でだれもが世話になる施設とはなんだ?
 ヒントは「二つある」です。
 
 人を含む生物個体で避けられないもの。それが「生まれること」と「死ぬこと」。
 生まれるときにお世話になるのが「産院」。そして死んだときにお世話になるのが「火葬場」。現代日本では火葬率99.99%。法律(墓地埋葬法)には、火葬と並んで土葬が書かれていますが、現実には土葬はほぼ禁止状態。つまり選択肢は火葬のみ。ちなみにいわゆる散骨は、火葬が前提になっています。
 
東日本大震災で火葬が間に合わないというので、自治体が土地を確保して土葬したのですが、心の区切りがつかないと遺族から猛反発。腐敗途上の遺体を掘り起こして東京などの火葬場に運ぶことになりました。東京の火葬事業者の協力ぶりは後世に伝える必要があります。中心になったKさんの活躍ぶりは今でも語り草です。
さてその火葬場。墓地埋葬法ではれっきとした法律用語。2条7項で「この法律で「火葬場」とは、火葬を行うために、火葬場として都道府県知事の許可をうけた施設をいう。」と明記されています。
 
 この「火葬場」を発音するとどうなるか。日本語は同じ文字について複数の発音があるのが特色です。大きく「音読み」と「訓読み」。「火葬」については“かそう”と音読みすることでほぼ異論はないと思います。訓読みすれが〝ひとむらい“も可能でしょうが、そう読む人はまずいません。そこでポイントは「場」の読み方。
 火葬場をかそう“じょう“と読むか、かそう“ば”と読むか。先に紹介したように火葬場は法律用語なのですが、どちらで読むかについての解釈例規はありません。それで論者ごとに言い方が違うことになっています。この際、読み方を統一してはどうか。そういう話になりました。
 そうなると各自が意見開陳するのが民主主義社会。
「火葬をする場所なのだから“かそうば”でいいのではないか」という意見があれば、「現場を普通は“げんば”と言うけれど、刑事ドラマでは“げんじょう”と言うよ」の見解が紹介されます。
 火葬のマニュアル本を出している団体のO 理事長が割って入り、「いわゆる重箱読み、すなわち音読みと訓読みを混同するのはよくないとされている。その理論に従えばいいのだよ」と元法制家であった昔の知識を披露します。
「ということは火葬を“かそう”と読むのは音読ですから、場も“じょう”の読みで決まりですね」と若手のSさん。
「だけど“かそうば”の方が使い慣らされている感じだぜ」と異論をはさむYさん。伝統を持ち出して頑張ります。
 たまたま居合わせた大学のT先生は、「規模が小さければ“ば”でしょうが、大きくなれば“じょう”ではないでしょうか。市場を“いちば”と読むか“しじょう”と読むかは施設の大きさによるのではないでしょうか。最近は大規模な火葬施設が増えていますからねえ」と発言します。
「名は体を表すと言うではないか。この際ケリをつけた方がよい」と断定したのがMさん。火葬場技術管理士という火葬場職員資格者団体の会長さんです。以前は県庁所在都市で、市役所の火葬責任者を勤めた現場感覚からの意見です。職員の士気に関わることだからと妥協を許さない姿勢が見えます。
「野外で遺体に薪を積み上げて野焼きする場所は“かそうば”だが、近代設備を整えた屋内で荼毘に付すのであれば“ば”ではなくて“じょう”だろう。仮に法制定時に“かそうば”と読む人が多かったとしても時代背景の変化によって読み方を変える融通性が重要だ」。
 思い出しましたが、労働基準法の前身である工場法も、“こうばほう”とは通常言わず、“こうじょうほう”と言い習わされています。
 われわれの祖国「日本」自体が、“にっぽん”とも“にほん”とも読まれます。「日本国憲法」もどちらで読んでも正解のはずです。要は関係者にとって語感が大事ということでしょう。
 
 役所はどう読んでいるのか。厚生労働省でこの分野を取り仕切っている生活衛生調整企画官に電話してみました。
「関係のみなさんはどちらがよいのですか」。火葬場技術管理士会会長のMさんを筆頭に断然“かそうじょう”が圧倒的であることを伝えました。
「受けたまわりました。今後はそうしましょう」。K企画官のお言葉でした。今後火葬場の読み方は「かそうじょう」で統一されることになるでしょう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?