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456マクドナルド訴訟

標題の事件を二つ取り上げる。
日本で「マクドナルド訴訟」といえば、いわゆる「名ばかり管理職」の事件だろう。労働法における管理職の扱いに変革をもたらしたことで知られている。
マクドナルドのある店長(2店舗兼職)の体があまりの多忙に音(ね)を上げた。朝4時に起床し、5時半頃から開店準備。その後駐車場の車の中でわずかな仮眠をとってから店舗業務に就き、2つの店舗の間を往復する。閉店後、家に着くのは午前1時頃。この繰り返しが続いていた。2005年、彼は手のしびれを感じるようになり、受診したら脳梗塞の一歩手前であった。
店長とはいえ、雇われの身だから、勝手に休むわけにはいかない。さりとて店長として店舗をきちんと回し、利益を上げる義務がある。このまま仕事を続けて名誉(不名誉?)の過労死をするか、それとも退職して家族で路頭に迷うか。実直なサラリーマンとして、当人はハムレットの心境だったのではないか。
労働基準法では、労働者の健康障害起こさないよう、労働時間が規制されている。規制をきっちり守っていれば、①労災に該当する過労死や過労自殺が起きないはずであり、②逆に労働時間規制が無視されている状況での病死は、過労が主原因として疑われることになる。
ただし労働基準法の労働時間規制は、「監督もしくは管理の地位にある者」には適用されない(41条)。労働時間に制限はなく、また時間外手当支給も必要なくなる。マクドナルドで争点になったのは、店長がこの適用除外に該当するか否であった。本件では、提訴後にマクドナルドが店長への労働時間規制適用を認める形で和解が成立し、時間外手当1000万円を支払った。当人が体を壊すこともなく、他の店長の処遇も改善された。いわゆる「名ばかり管理職」問題解決に寄与した事例として知られている。
ただしすべての会社がそうとは言えない。過労死や過労自殺が後を絶たないのが、それを物語る。いわゆるブラック企業である。その種の事業所では労働者が体調を壊して居着かない。その穴埋めで人員募集をする。その者も長時間労働で体を壊す。そうした中で過労死や過労自殺が生じるわけである。こんなサイクルを許してはならないとだれもが考えるはずだ。どう対処すればよいのだろうか。

ここで参考になるのと思われるのがもう一つのマクドナルド事件。「マクドナルド・コーヒー事件」とされるアメリカの事例(1992年)である。ドライブ・スルー店舗でホットコーヒーを買った客が、それを股に挟んでふたを開けてミルクと砂糖を入れようとした際に容器が傾き、こぼれたコーヒーで大火傷を負った。コーヒーの異常な熱さが傷の重さの原因であるとして訴えたところ、一審裁判所では陪審の判断により、治療費の8割相当16万ドルに加え、その3倍48万ドル、計64万ドルの懲罰的賠償を認めたのである。最終的には和解で60万ドルが支払われている。
実損額を超える支払いを命じるのが「懲罰的賠償請求」であり、社会正義を実現するための制裁手段とされている。アメリカは特別で日本の国情には合わないとされるようだが、調べてみると隣国、台湾でも、特定分野(消費者保護法、営業機密法、著作権法など)で懲罰的損害賠償制度が実施され、侵害の情状により3倍(著作権法ではなんど100倍)以内の賠償を裁判所が決定できるという。

労働基準無視から生じた過労死や過労自殺問題に戻ろう。これらを放置することは、どの角度から見ても許されないはずだ。悪質の場合に懲罰的賠償を求められないか。改めて労働基準法を読むと、その趣旨の規定が置かれている。114条に規定する「付加金」制度である。労働者からの不払賃金請求(解雇予告手当・休業手当・時間外・休日労働等に対する割増賃金・年次有給休暇中の賃金)に関して、裁判所の判断で不払賃金と同額までを余分に払わせることができるのだ。
これをさらに進め、過労死、過労自殺を生じさせた事業所については、付加金の上限倍率を同額(1倍)から3倍ないし5倍程度に引き上げ、裁判官に悪質事例に積極適用するよう促すことで、労働時間規制への悪質な違反は根絶されるのではないか。なお、労働基準法では責任追及の対象となる「使用者」の定義を、事業主に加えて「事業の経営者その他労務に関して事業主のために行為をするすべての者」と広げている。悪質な労働時間規制違反に加担した幹部社員等にも懲罰的賠償を負わせることができるように設計されているわけだ。この仕組みを活用しない手はない。

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