656生態系を守ると勇ましいが…
所長:アメリカザリガニはその名のとおり、アメリカから入ってきた。その目的が食用の養殖だったことを知っているかい。それが逃げ出して野生化し、在来の小型エビを駆逐してしまった。
子どもの頃、アメリカザリガニは糸にミミズを括ってぶら下げると面白いように捕れた。それを祖母がまな板で細かく叩き潰してテンプラにして食卓に出した。母親は「寄生虫は大丈夫か」と眉をひそめていたけれど、しっかり熱を通したから、だれもお腹も壊さなかった。
そのザリガニが政府の方針で厄介者扱いになっている。
輝明:このニュースのことですね。
アメリカザリガニを水路に放流 「外に流れた」自然体験の主催者謝罪:朝日新聞デジタル (asahi.com)
子どもたちに自然体験させようとしたのでしょうね。水路を仕切って付近で獲った魚に含めて、買ってきた金魚とエビを放した。このエビがアメリカザリガニだったことから問題視され、事業の主催者が謝罪する騒ぎになった。
何がいけなかったかというと、アメリカザリガニが外来生物法による規制対象である「特定外来生物」に指定される見通しであること。にもかかわらず敢えて、このザリガニを放流するとはどういうことかというわけだ。
香澄:主催団体も法改正の動きは知っていた。それで仕切り済みの水路に放して、子どもたちに回収させた。手づかみで捕まえる体験に子どもたちが歓声を上げた様子が目に浮かぶわ。きれいな金魚を追いかけるのは楽しいし、ザリガニのハサミを避けて背中側から掴むのはスリルがある。コツがあるのよ。
私がその町の教育委員だったら記者会見を開いて「何が問題なのか分かりません」と主催者の肩を持つわ。1匹か2匹逃げ出した可能性があるのではないかと在来種保護団体は言うのだろうが、ではこの水系にアメリカザリガニが既に住み着いていないと断言する証拠があるのですかと問えばいい。
輝明:そこまで挑発するのはどうか。でも正論ではあると賛成しよう。アメリカザリガニは在来固有種ではないと言うが、いつの時点に遡って判断するのだろう。所長の家族が野生のザリガニを食べたということは、少なくとも60年の昔に日本の自然水系に住み着いていた。ザリガニさんは実質的に日本の永住権を得ているのではないか。だって政府が、これまでアメリアザリガニの全面駆除に乗り出した事実はないもの。
香澄:ザリガニを擬人化してみよう。アメリカから生きたまま連れてきた。養殖池から出てはいけないということであったから、人に照らせば、国籍付与とは言えないけれど、技能実習生並みの制限された居住権はある。逃げ出せば不法残留者になるが、それが検挙されず、野放しになってきたのはご案内のとおり。今になって厳しく管理すると言っても実効性はかぎりなく疑わしい。
輝明:金魚とアメリカザリガニは買ってきたとなっている。法律改正の実施前だから販売は合法ということだろうか。では購入者はサリガニをどうしているのだろう。今どき食用にする人はいないだろう。飼育していて間違えて逃がしたり、飼えなくなって放流したりする人はほんとうにいないのか。その事実把握が必要だ。
香澄:自然界への放流という点では金魚は問題ないのかしら。金魚は人間がフナを品種改良して作り出した。飼育鑑賞用であり、自然界で生きていけるとは思えない。そちらのほうは「逃げ出してもどうせ死んでしまうからいいや」ということだとすると、この法律の趣旨はなにかと改めて疑問に思う。
輝明:自然界に逃げ出してもはや手が付けられない外来種は少なくない。これを本気で駆逐する覚悟は政府にあるのだろうか。一例がミシシッピ・アカミミガメ。参拝客でにぎわう亀戸天神は境内の池のカメでも有名。ところが今ではカメのほぼ全部がアカミミガメ。日本固有の在来カメなんか見当たらない。政府の本気度を知らしめるには、天神様の池を日本カメに戻すことから始めるべきだろう。
香澄:日本古来のカメを放す前に、アカミミガメを一網打尽にしなければならない。池を干せばできるとして、捕まえたカメをどう処分するか。スッポン料理屋と提携してカメ鍋を売り出すとして、果たして客がつくかどうか。
輝明:船橋のイケアのレストランでザリガニを姿茹でして出していた。味はロブスターに似ていたが、食べる部位が少なく値段に比べて損した気分だった。ザリガニはもっと小さい。10匹200円がいいところだろうが、レストランは採算に乗るか。
香澄:ところでザリガニの繁殖率は今では大きくないらしいわ。バスなどの大型外来魚の餌になっているらしい。そのバスは政府が駆除の号令をかけても、釣り人が負けずに放流するらしい。食いつきがよくて釣りファンを虜にする。この放流は「逃げた」とは違う確信犯。外来種撲滅を宣言するならば、バスの放流犯には罰金に加え、釣の永久禁止と週末ごとにバス駆除作業への強制参加義務を課す。このくらいをセットで実施しなければ、外来生物の駆除など掛け声倒れになる。
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