220529ウクライナ停戦、終戦、平和回復の段取り
ロシアの侵攻で2月24日に始まった今回のウクライナ戦争は3か月を経過した。その間に破壊された街、殺された人々は数えきれず、ロシアの戦争方針が継続されるかぎり増え続ける。それに加え、ロシアがウクライナの輸送手段を攻撃するため、ウクライナの主要産物である小麦などの食料品を輸出できず、その輸入先であるアフリカなどでは深刻な飢餓が起きるのではないかと心配されている。
「ロシアへの経済制裁を西側諸国がやめれば、ウクライナ小麦の輸出船の黒海航行を認めるのではないか」などと、ロシアのプロパガンダに沿った説を唱える者がいる。西側諸国のウクライナ支援を制約しようとする暴論だが、ニューヨークタイムズや外交の大家を自認するキッシンジャー氏が「ウクライナも現実を直視して妥協すべきだ」と言うと、停戦後の経済利益に釣られて賛同する声が高まる。ようやく反転攻勢の準備が整いつつあるウクライナの人々にすれば、とても容認できない背信行為に見えていることだろう。
もっとも世界中の一般市井人の倫理観では義はウクライナにある。力も声も小さいが、数では圧倒的に勝る人々は、民主主義、人権の観点からウクライナを支援している。それはSNSなどでも明らかだ。
そうしたことを前提においてこの戦争をどのように終結させればよいのかを考えよう。当事者双方をクールダウンさせて、戦争を最終終結させるには、まず「停戦」があり、続いて双方が武器を置く「終戦」があり、その後に外交条約を締結して「平和」があるのだと考えられる。
キッシンジャー氏などの「ウクライナの妥協譲歩」はこのうちのどの段階を指しているのか。側聞する限りでは「停戦」を言っているのではないか。戦争の惨禍を拡大しないためには早急な「停戦」が求められるが、停戦は往々にして気休めに過ぎず、すぐに破られて戦闘が再開されるのが、各紛争地で見られる現状だ。平和回復へのたしかな見通しがなければ、一時しのぎに過ぎない。
そこで両国が折り合える恒久的国境線を考えてみよう。基本的には次のような案が考えられる。
①停戦時に双方が占領していた領域をもって新たな国境とする。
②2014年にロシアが占領したクリミア半島のほか東部ドンバス地域をロシアに正式割譲することで国境線を確定する。
③1991年のウクライナの再独立時の国境とする。つまり2014年のロシア侵攻前。
④第二次大戦後ソ連が併呑した最大領域に国境線を戻す。
プーチン氏の本音は④である。ウクライナの首都制圧を目指したことからも明らかだ。彼の主張を認めればウクライナという国は存続を認められず、ウクライナ併合の次は隣のモルドバであり、リトアニア・ラトビア・エストニアのバルト三国などと広がっていく。
これに対してウクライナの主張は③であろう。第二次世界大戦終結後46年目にしてようやくにして独立を回復した。その際の国境線こそ神聖なものである。クリミア統治が厄介だからと放り出すことはできない。一体性維持が国家存続の前提条件なのだ。
ということであるから①や②は停戦ラインとしての意味しかあり得ない。最終的な国境線については、③か④しかないのである。そして③はソ連の崩壊による冷戦構造の終結とセットでの平和の条件であった。プーチン氏の④はこれを全面否定するものなのだ。
そこでわが日本の立ち位置だ。プーチン理論は、第二次大戦中およびその後にソ連がしたことをすべて受け入れ、その後の情勢変化を承認しないという主張であるから、わが国の北方領土に関する要求を認めるはずがない。それは彼の「日本の北方領土は第二次世界大戦の結果、ロシア領になった」という言葉に表れている。彼にとって正当性などはどうでもいいのだ。ソ連が攻め取った領域はそのままロシア領であるというだけのことなのだ。
それに対して日本はどう主張すべきなのか。第二次大戦の終戦後にドサクサに紛れて掠め取ったという不法性の主張は当然であるが、それだけで済ませてはならない。世界情勢は変わっていることを主張展開すべきなのだ。ソ連の崩壊がその一つ。その際、ソ連から多数の国が離れて独立し、ロシアはあるべき領域に縮小した。そのときの解放領域の一つがウクライナであった。独立の根拠は、歴史的にウクライナはずっとロシアの領土ではなかった。独立していた時代もあったという歴史的事実である。
第二次世界大戦でソ連が新たに得た領土の大半は解放された。にもかかわらず北方領土はソ連からロシアに平然と引き継がれている。(ほかにも飛び地のカリーニングラードなどが残っている。)この矛盾を指摘すべきなのだ。サンフランシスコ平和条約で日本は南樺太を含む旧北方領土の領有権を放棄したが、この条約にソ連は参加していないという事実もある。日本政府が認める世界地図では、南樺太などは領有国がない白色になっているはずだ。そして第二次世界大戦での戦勝国を主張するソ連という国家はもはや存在しないのである。
よって日本の外交主張は①国後・択捉島など4島はサンフランシスコ条約でも領有権を放棄していないから、当然わが国の領土である。②それより北の千島列島と南樺太については改めて領有権の復帰を求める。③ロシアの領有権主張は、第二次世界大戦の戦勝国は領土拡大を求めないという当時の連合国の合意に反する。その違反をしていたソ連は1991年に崩壊しているのである。
ロシアのほか中国は日本軍国主義の復活策動と騒ぐかもしれないが、ロシアや中国からの領土的脅威にさらされている周辺諸国のほとんどは心情的に日本の領土主張を支持するものと思われる。