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763映画『決算忠臣蔵』を見る リーダーに必要な公私のケジメ

 Amazonプライムで見た映画。風邪で外出できない時間潰しだったが、文句なしに面白かった。忠臣蔵事件がなぜ起きたか、についての解説はいくらもあるが、吉良邸攻撃がなぜ成功したか、についての財務面からの分析は寡聞にしてこれまで未体験だった。 
 揃いの戦闘装束に当時の最新攻撃装備を備え、山鹿式兵法に則って堂々討ち入る。ヤクザの闇討ちではない。本格的組織的な攻撃である。事前の作戦計画に基づき綿密な演習を重ねたはずだ。
 武器調達と訓練。その間の糧食。赤穂浪士は討ち入りの後でどの方面に対しても債務や焦付きを残していない。金銭管理に潔癖であったわけだが、どこから資金が提供されていたのか。映画はその謎を明かしてくれる。
 赤穂藩は塩の専売で相当に裕福であった。城を明け渡す際に藩の残余財産を浪人として散っていく藩士たちに退職金として配分したが、財務担当者が「先々のことを考えて」予備費として留保しておいたのだ。これには切腹した藩主の弟を頭目に藩の再興工作に充てることのほか、仇討ちの準備資金としての用途も考えられた。
 さまざまな状況変化に翻弄されつつ最後は仇討ち決行に決まる。軍事参謀が準備すべき装備を数え上げる。上着の下に着込む鎖帷子(現代の防弾チョッキ)や脚半、脛当てまで。(吉良側の半数以下だから攻め手が致命傷を負うことは避けなければならない)。
 大石内蔵助が打ち鳴らす銅鑼(どら)も購入対象。予算は準備資金を超え、財務担当は肝を冷やす。「カネが足りなくなったので軍事作戦を中止」などとは恥ずかしくて口にできない。「吉良が自邸にいる日が限られる」との情報か入ったことで討ち入り決行日が早まる。それによって衣食住費が節減されることになり、装備整備の支障を回避できる。討ち入り決行後は幕府に自首して逮捕される計画であるから、それ以降の財務を考える必要がないのだ。
 討ち入り成功の第一の功労は必要資金を工面した一味内の財務担当者である。これを明らかにしたのがこの映画のポイントだ。作中、内蔵助が決断を下す場面がある。京都に集結した元藩士は百人以上いた。彼らは仇討ち参加の血判条を出している。しかし江戸までの旅費を出せるのはその半分も無理。泣く泣く参加を断念させなければならない。「私費参加」を申し出るものがいそうだが、大石によれば「藩主の思い(賄賂に染まった高級幕府官僚の排除」を実現するための公務遂行」なのだから、仇討ち費用は「公的資金」で実行しなければ筋が立たない。江戸へ連れて行けない元藩士それぞれの個性に即して、理詰め、うそ、泣き落としで断念させる。討ち入りという義挙に加わらなかった者たちやその子孫の名誉感情を考えればまさに断腸の思いだったはずだ。公私のけじめがついている。山科での遊女をあげての豪遊は「幕府側の目を欺くための業務遂行費」として公費対象になる。
 忠臣蔵がなぜ日本人の琴線を揺さぶるのか。映画はその回答を示している。無論違う解釈もあるけれど、当時と同じ平均的日本人のD N Aを引き継ぐボクは映画をすんなり受け入れることができた。

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