見出し画像

378フライの取り方

草野球あるいはソフトボールは誰にも経験があるだろう。バッターが打ち上げた。ボールは伸びて来る。外野手はどうするか。
ボールを注視しながら走り出し、ボールの飛ぶ角度やスピードに合わせて、走る方向や速度を調整する。ボールが落下し始めてからも同じだ。風の影響で落下点は微妙にずれるから、それに合わせて位置を変え、最後にグラブを差し出して補給する。たまに目測を誤り、ボールを取り損ねてエラーをする。一生懸命追いかけたが、ボールがフェンスを越えてホームランになることもある。
以上は野手が人間の場合だ。
ロボットであればどうするか。
バッターが打ち返した直後のボールの速度、角度を計測する。回転スピンについても同様だ。それらを事前に把握しておいた、風速、気圧、湿度等の気象情報と組み合わせてボールの最終落下点を割り出す。このロボット野手は超高速コンピューターが内蔵されているから、計算は100分の1秒単位で計算終了する。
見ている者の眼には、ロボット野手は打撃と同時に走り出したように見えるが、実は計算を終えているのだ。ロボット野手やボールを見ずに一直線に走る。そしてある一点に到着すると向き直り、グラブを固定する。そこにボールが吸い込まれるように落ちて来る。ホームラン性の場合、アウトにできる可能性がないから、ロボット野手は一歩も動かない。
人間の野手とロボット野手。いずれが高い捕球率を示すだろうか。
ロボット野手に軍配を上げる人が多いかもしれない。通常はそれでいいだろう。
だがごくまれにコンピューターの計算プログラムに入っていないことが生じる。突然近くで竜巻が起き、その影響で風向きが一瞬反対方向になって、ボールが失速するかもしれない。
人間野手は体勢を崩しつつも捕球に成功する可能性が高い。
しかしロボット野手では、差し出したグラブの10センチ前に落ちてポテンヒットになるだろう。またホームラン性の打球が風に押し戻されてフィールド内に落ちるかもしれない。この場合は悲惨だ。野手はボールを追いかけていないのだから、ボールは転々、ランニングホームランになるかもしれない。
学者の経済予測はなぜ当たらないのか。『経済理論の終焉』という本でリチャード・ブックステーパーが用いている比喩だが、説得力がある。なぜ経済危機が避けられないのか。経済理論に組み込まれていない事態には理論は対処できない。そして構築者が予測できない、あるいは予測したくない事態は理論に組み込まれない。

いいなと思ったら応援しよう!