618スポーツ賭博 目的は手段を合法化しない
スポーツ賭博(とばく)の導入を政府の一部局が研究していると報道されていた。冗談半分で勉強をしているのだろうと思っていたら、大真面目に主張している国会議員もいることを知った。「賭け事はよくない」は常識のはずだが、なかにはそうではない人がいるということか。
賭博がなぜいけないか。それに夢中になり、働くことがおろそかになる。周囲の人間関係を壊す。麻薬などと同様、「ダメなものはダメ」なのだ。
それでわざわざ刑法に罪状を設けて、賭博行為を禁じている。
(賭博)
第185条 賭と博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭かけたにとどまるときは、この限りでない。
(常習賭博及び賭博場開張等図利)
第186条 常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。
2 賭博場を開張し、又は博徒を結合して利益を図った者は、3月以上5年以下の懲役に処する。
賭博合法化を主張する者は、この刑法の条項削除を先に国民に訴え、国会で刑法改正を実現させなければならないはずだ。それが順序というものだ。
スポーツに限定しての処罰をしないことにできないか。そう主張している国会議員のインタビュー記事をみた(読売新聞2022年6月22日)。佐々木紀(はじめ)衆院議員(自民党)。おおむねこういう論拠のようだ。①スポーツ市場を活性化できる。②スポーツ振興の財源にできる。③海外で容認されているスポーツ賭博に日本国民が参加して金を浪費している。そのカネを国内に還元できる。
素朴な疑問は、スポーツはやりたい人がやればよく、見たい人が見ればよい。賭けを煽ってまで振興、市場化するものではなかろう。スポーツ振興に政府がカネを投じる財源にすると考えのようだが、その際のスポーツの範囲はどこまでか。市民のジョギングやサイクリングのための専用道路整備資金も対象なのか。海外の賭博に当てられているカネを回収するとも主張しているが、賭博に海外送金している国内居住者がいるならば、その摘発操作方法を考えるべきだろう。
教師の負担軽減のために学校の競技種目の指導を地域に委ねようとの声がある。先般終わった木村拓哉さんの『カウント10』というテレビドラマでは、学校の方針として、自校ボクシング部をライバル校に勝たせる元ポロボクサーを招聘していた。技量を上げるためには、優れた指導者を活用することが有効である好例だ。甲子園常連組の野球部の監督、コーチを見ればわかる。その費用をだれが負担すべきか。木村さんのドラマでは学校(私立高校)が負担していた。それは詰まるところ、生徒の親が負担することになる。当然だろう。さらに親や学校(PTA)が地域の商店街や有力企業に寄付を求めるのは自由であり、工夫である。政府がスポーツ賭博の上前をはねて資金を作り、甲子園野球大会に参加するすべての学校野球部の資金一式、コーチ派遣代を含めて補助する。そういうことにでもなったら、応援団が熱暑の甲子園に詰めかける盛り上がりは昔日のことになるであろう。
佐々木議員には失礼だが、国会で定めた実体法の正しい適用の政務活動をしてもらいたい。
繁華街の中心部には決まってパチンコ店がある。勝って一万円札を握りしめて引き上げる者、負けてションボリ空っぽの財布を叩いている者。好ましい光景ではない。常識的に見てパチンコは賭博だろう。なぜ許されているのか。これは刑法185条の但し書きの読み方で、景品として渡すのはボールペンなどでカネではないかという理由からだ。だが裏に回れば、そのボールペンを万冊と引き換える換金所が堂々と開帳している。よほどのバカでなければ、パチンコの玉がボールペンを介して、万円札に交換されるわけで、「パチンコの玉に現金価値があるという合意」が前提で、パチンコ事業は成り立っている。どうしてもスポーツ振興資金を政府が作りたいのであれば、パチンコ業態を刑法185条但し書きに加え、返す刀でパチン売り上げの30%程度(公営ギャンブル並み)の運上金を召し上げればよい。わざわざ新しい賭博の業態を考えるまでもない。
それに賭博の横行で依存症者が増えれば、その治療やカウンセリングなどの福祉費用が増えるではないか。労働損失による国民経済のマイナスもある。百害あって一利なし。
そもそも賭博は貴族など指導階級の遊びだ。世の中の指導層として必要な判断力形成に役立つ面はあったのだろう。彼らは生まれて以来の教育で節度をわきまえているから、破産するまでのめり込む具は侵さない。あくまでも判断力、決断力を鍛えるゲームなのだ。
ならば日本でも同様にと言いたいところだが、残念ながらわが憲法は14条2項で「華族、貴族」の存在を否定している。全員が平民という無階層の平等社会。生まれついての指導層を必要としない国是になっている。平民に賭博は必要ない。それが刑法の賭博罪の前提になっている。どう転んでもスポーツ賭博解禁は筋が通らない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?