836不信任案否決 解散風もてあそんだ首相 新潟日報 2025年6月17日
衆議院解散はよほどのことだ。議員内閣制のわが国では立法府(国会)が行政府(内閣)より上位にある。国会には内閣総理大臣の選任権があり、国民のためになっていない内閣総理大臣の首をすげ替わることができる。これが内閣不信任。
でもその人を内閣総理大臣に選んだのは衆議院である。選んだのはいいが、メガネ違いでとんでもない奴だったから引きずりおろす。これが不信任決議なのである。
不信任ななった内閣総理大臣が「ならば道連れ」と不信任決議した衆議院を解散する。これが本来の「総理の解散権」。
衆議院が民意を反映していれば、解散後の総選挙で選出された衆議院が新たな内閣総理大臣を選出する際に、前に不信任した者を再び選ぶはずがない。解散権を行使しようがすまいが、不信任を受けた総理の再登板はない。つまり政治家として致死的ダメージになる。
こうしたことを踏まえれば、今回の立憲民主党の不信任案のバカバカしさが分かる。立憲民主党は岸田さんを総理選出にもともと賛成していない。
学級委員選挙になぞえればわかりやすい。選挙で負けた者は勝った者に協力するのが民主主義。負けが納得できなければ研鑽を積んで、次の選挙で勝てばよい。次の機会を待たずに、再選挙をすべきだと主張するのはフェアでない。
しかも与党議員の大量造反がなければ不信任は可決にならない。そして造反の兆しは見えていない。
いろいろ考えると政治手続きをもてあそんだのは立憲民主党のほうである。解散すべくは、政局をもてあそび、国家国民をないがしろにしている立憲民主党や共産党ではないか。
社説本分
衆院解散を判断するのは時の首相であり、解散権行使は首相の専権事項とされている。「伝家の宝刀」とも呼ばれるのは、軽々に扱うものではないからだ。
しかし岸田文雄首相は、最重要法案の採決が迫る会期末に与野党の駆け引きに使い、国会や国民を惑わせた。解散権をもてあそぶような姿勢は看過できない。
立憲民主党は16日、岸田内閣不信任決議案を衆院に提出し、反対多数により否決された。
これに先立つ15日夜、岸田首相は「先送りできない課題に答えを出していくのが岸田政権の使命だ」とし、今国会での衆院解散を見送る考えを表明した。
首相は従来、解散は「今は考えていない」としていたが、13日の記者会見で「会期末間近になり、いろいろな動きがあることが見込まれ、情勢をよく見極めたい」と含みを持たせたばかりだった。
そしてわずか2日で発言を翻した。これでは首相が解散風をあおり、国民や国会を振り回したと批判されても仕方がない。
解散しない理由については、複雑化する国際情勢の対応、持続的な賃上げの実現、子ども子育て戦略の実行などを挙げた。
ただ状況に特段の変化はなく、理由を取って付けた印象だ。
首相が解散を見送ったのは、内閣支持率が頭打ちになる中で、有利な解散環境が整わなかったためだと指摘されている。
自民党内では5月の先進7カ国首脳会議(G7広島サミット)を追い風に、解散・総選挙に打って出るシナリオがささやかれた。
しかしその直後に、首相長男の翔太郎氏が公邸での記念撮影問題で政務秘書官を更迭され、サミットの成果は帳消しになった。
マイナンバーカードはトラブルが次々と明らかになり、国民の不信を招いている。
衆院選の候補者調整で自民、公明両党が対立したことも、解散見送りの一因になっただろう。
だが政権にとって有利かどうかを背景に、解散を恣意(しい)的に判断することは許されない。
不信任案は、今国会の最重要課題であった防衛費増額の財源確保特別措置法の成立後に提出された。成立前の提出なら、法制化を阻んだとして解散の大義にもなり得たが、その機会は失われた。
政府は防衛増税を2024年以降とする従来方針から1年先送りする案も検討している。しかし財源論はつまびらかでない。
本来は今国会で負担を示し、議論を徹底するべきだった。国民に信を問うとしても、その後だ。
不信任案は共産党が賛成した一方、日本維新の会と国民民主党は反対し、野党の足並みは乱れた。
野党が結束できなくては、巨大与党にあらがえない。次期衆院選に向けて、各党がどう連携を探っていくかも注視したい。