657親族間殺人の背景 家族の機能
所長:新聞(8月28日)に親族間の殺人が二件並んでいる。一つは、大阪府高槻市で28歳の男が養母を殺害したもの。
https://news.yahoo.co.jp/articles/827024d0443f76b23ba2c07b4831a8c78c480a99
もう一つは、神奈川県横浜市で30歳の男が義父母を殺害したもの。
https://news.yahoo.co.jp/articles/6d159125a236cc457f841f318a7e1786a2f3f369
扶け合うべき親族間での殺人だからよほどの事情があったのだろう。こうした事件が連続するようだと、結婚して子どもを作って…の将来を夢見ている若い人の行動に水を差すのではないかと心配だ。
輝明:最初の事件、これはもう加害者が一方的に悪い。同情の余地はないと思う。殺害された54歳の女性がどういう経緯でこの男を養子にしたのか。新聞には書いてないけれど、男の意図は明らか。その女性は1億円の預貯金を持っていた。これを相続するつもりだった。そのためには法律上、血族関係になる必要がある。その手段として「養子縁組」をした。
香澄:民法は養子と実子を差別しない。そもそも養子制度はなぜ必要なのかが問われる。この男との養子縁組は2年前だから、男は26歳で成人後。養育を受けるためではない。多分,家格が高い家柄で、その継承者として迎え入れられた。そいつに殺されたのだから眼鏡違いだったことになる。
華道、茶道の家元など名称を継がせる必要がある場合であっても、その暖簾、看板は譲るが、預貯金など自身の老後に必要なものまで相続させる必要はなかった。そこを明瞭にしておけば、殺されずに済んだ。
輝明:親殺しは相続人資格を失う。この男も得るものはなかった。生命保険の受取人はこの男ではなかったようだし、養母も全面的に信用していなかったのかも。だとすれば養子縁組をするべきではなかった。
「家督」制度の廃止で、財産は世襲の家にではなく、各個人に属し、遺言等で自由に処分できる。でも民法のこの規定(※1)はあまり活用されていない。
香澄:女性には認知症の高齢母親がいた。若い養子がいることで世話をしてもらえると期待したのだろうが、なんと男は、養母殺害後に養子縁組解消手続きをした。養母との縁が切れれば、その老親、つまり養祖母との縁もなくなり、扶養の責任(※2)がなくなると判断した。養子縁組もれっきとした契約。つまり約束。人間関係の本質理解に欠けている欠陥社会人。私が裁判員になれば、断固極刑を主張するわ。
輝明:横浜の事件も不可解だ。殺害犯人と目されている男は、殺された60代夫婦の娘の夫。夫婦が母屋に敷地に別棟を建て、そこに娘の家族は子ども二人連れで2年前に移り住んでいた。町内会長によれば「とても感じのいい家族だった」とのことで、サザエさんのような仲の良い三世代家族だったのだろう。
殺害は明け方のこと。このとき娘は親の家にいた。両親は就寝中を襲われたのだから、娘も別室で寝ていたのだろう。家は敷地内の別棟なのに、なぜ夫がいる自宅に帰って寝なかったのか。子どもたちはどこにいたのか。
香澄:他人には話せない家族内の揉め事があったことは想像できる。でもそれがなぜ殺害に発展することになったのか。一つ目の事件は、養子縁組で親族にしたのが不幸を招き寄せた。2件目では離婚という方法が選択されずに、不幸に突入した。
輝明:殺害した若い夫は、自宅に戻って自殺している。残される子どものことをどう考えたのだろう。
香澄:その点が重要。家督制度がよかったとは言わないけれど、家族の絆を政策的に応援することが求められている。来年4月に内閣府に子ども家庭庁という行政機関ができることになったことを評価するけれど、家庭とはなにかの本質を突き詰めてほしい。保育所などの経費をドカンとばらまくのでは「仏作って魂入れず」。家族や家庭の基本機能として、社会の宝である子どもの健全育成責任をまっとうさせること。
今の憲法24条(※3)は夫婦の相互自立を強調するものの、子どもを育てる役割、機能については一言もない。他国憲法に比べても異質とされている。
輝明:そうだね。民法も改正が必要だ。養子縁組を「親がいない子を養育する場合の限定制度」とするとか、老親からの成人の子への相続非課税は「孫を育て上げた場合に限定する」とか。
二つ目の事件に関連しては、成人相互の親子関係のあり方が問われる。近居はいいが、家計面ではどうだったのか。娘が親に依存べったりで、夫の自尊心が傷ついていたなんてことはないのだろうか。
香澄:男は自身の実力を過大評価して虚勢を張るところがある。結婚した娘たちが「父よりあなたの方が頼もしいわ」と言い続けて、上手に操縦することが家庭円満の秘訣かもね。
※ 1 民法964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
※ 2 民法877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
※ 3 憲法24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
② 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
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