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575ロシアの非道を追及 ポーランドに続け

ポーランドのドゥダ大統領がソ連時代のロシアの悪業を国際法廷で責任追及することを表明した。

対象は「カチンの森虐殺」。アンジェイ・ワイダ監督の手で映画化もされているから、事件の詳細を知っている人も少なくないだろう。

第二次世界大戦はドイツのポーランド侵攻によって始まったが、ヒトラーにポーランド攻略を決意させたのは、ソ連のスターリンとの間でポーランド分割などの密約が成立したからである(1939年8月)。

ドイツは9月1日にポーランドへの侵攻を開始する。必死の抵抗を続けるポーランドだったが、その背後にソ連が襲いかかる。ソ連・ポーランド不可侵条約が結ばれていたが、それを破ることに躊躇するソ連ではない。そのことを日本も1945年のスターリンによる8月8日の日ソ中立条約を一方的に廃棄しての侵攻で、身をもって味わうことになった。

東西から挟み撃ちになり、ポーランド軍は壊滅。大量の投降捕虜を出す。事件はポーランド軍の降伏、停戦後に起きた。捕虜の処遇規定が国際条約で定められており、交戦国はそれを守らなければならない。しかしソ連はどうしたか。秘密警察部隊を動員して将校級の捕虜2万2千人を銃殺したのである。その現場の一つがカチンの森である。ロシアはその事実を封印した。

明るみになったのは独ソ戦の開始後である。ソ連占領地に攻め入ったドイツ軍が大量の死体を発見した。ドイツ軍は「ソ連の仕業」と公表したが、ソ連は「ナチスのでっち上げフェイクである」と組織的な宣伝戦を行い、真相究明はドイツの敗北とともにうやむやになってしまった。都合が悪い事実は認めない。あるいは別人のせいにする。これを世界中に配置しているスパイを動員して広めるのだ。そしてまったく逆の事実に捻じ曲げてしまう。これもソ連・ロシア風の伝統的広報である。

ポーランド人は気がついていたけれど、戦後はソ連のくびき下に置かれていたから、真相解明しようとはとても言い出せない。ゴルバチョフがソ連の指導者になり、情報公開が始まって「ロシアの仕業」であることを認めなければ、今も闇の中に隠されたままだったか、ナチスの犯行とされていた公算が高い。

ゴルバチョフに民主化は一過性に終わり、その後のロシアはスターリン時代に逆戻りである。ロシアのガルージン駐日大使のTBSテレビインタビュー(4月7日)を見た人はロシアの発想法がわかったであろう。ウクライナの首都・キーウ近郊にあるブチャで多くの市民の遺体が見つかり、世界中の報道機関がロシア軍による“虐殺行為”と断定報道していることに対し、「第二次世界大戦後、最も残虐な虐殺、軍事犯罪、戦争犯罪を起こしているのはゼレンスキー政権です。ロシアに泥を塗るために意図的に挑発的な事件をでっち上げたのはウクライナ側です。ウクライナの自作自演なのです」と平然と答えているのだ。どうしてそう言えるのかとの追質問に対しては、「ロシア軍がそのように発表しているからそうなのだ」。 

インタビューした金平茂紀キャスターは「混乱して頭がくらくらした」とどこかで述べていた。ロシアの政府高官は神経回路も違うのだ。

今回ポーランド政府は、第二次世界大戦中のカチンの森の事件を国際問題にすることを決意した。

ポーランドのドゥダ大統領は「ジェノサイド(集団殺害)に時効はない。この事件が国際法廷で裁かれることを求める。適切な動議を近く提出する」と述べた。いずれの裁判所に提訴するか、また誰を訴えるかは今後詰めることになるようだ。ロシアは例によって「報復措置を取る」などと脅すのだろうが、ロシアに何度も煮え湯を飲まされ続けているポーランドである。国際社会は支援することになるだろう。

ロシアの不法行為で痛めつけられているのはわが日本も同じだ。領土問題もそうだが、ほかにも重要なことがある。いわゆるシベリア抑留だ。およそ6万人が極寒の地で果てた。銃殺ではないが、国際犯罪である点では同じだし、人数はカチンの森より何倍も多い。 

わが国の制裁措置に対して報復するとか、有力政治家が北海道侵攻をほのめかしたりしている。それらに対する冷静な対応措置としては、シベリア抑留、さらに樺太、千島、満洲での在留者虐殺などをポーランドと連携して、国際法廷に持ち出すことができるはずだ。ロシアの残虐行為は常のことであるから、自国もこうした被害に遭っていると同調する国がどんどん出てくると期待もできる。ロシアの過去の悪業を暴き、責任を追及することで、側面からウクライナを支援することにもなる。

岸田総理と外務省は、ただちにポーランドの対応に追随すべきである。

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