455物理学の政治利用
少し前の新聞論考を復習。杉山大志さん(キャノングローバル戦略研究所)が産経新聞の「正論」(2021.10.26)に載せた記事。もやもやしていた疑問を晴らしてもらえた。“ド文系”(高橋洋一さんの造語だと思う)に属するボクは、科学議論の詳細部分は難しい。雑誌『ニュートン』の解説も半分も分かるかどうか。読んでいるうちに大概寝てしまう。
世界の先進国が異口同音に「二酸化炭素排出削減さらには全廃」を唱えることに、そうした決めつけの前提になっている二酸化炭素地球温暖化犯人説がほんとうに正しいのかと疑問が先に立ってしまうのだ。でも、自説を証明できないから、声高く言えない。
杉山さんの指摘は、物理学を政治利用してはならないというもの。現在の多数説を持って「確立した科学」と断定することを間違いとする。かつての天動説を持ち出すまでもなく、科学学説に関して謙虚さが必要だろう。
国連機構変動枠組み条約締結国会議(COP26)では、二酸化炭素排出削減を世界規模で進めたい考えだが、石炭使用を続けたい新興国は抵抗している。そこに割って入るのが中国。中国は二つの立場を使いわけ、自国の排出削減に関しては途上国扱いで、削減しなくてよい。そのくせ石炭火力技術の海外販売で利益を得ている。その開発規模は日本が廃止を迫られている石炭火力総量よりも大きい。中国はその海外石炭火力事業の見直しの可能性を表明した。だが、全面的にやめるとはひとことも言わない。この口先約束で、民主主義諸国は中国の覇権主義、人権侵害への批判を遠慮させてしまった感がある。中国外交は舌先三寸で成果を上げた。
岸田総理がCOP26に出席することになった。衆院総選挙で成果が出て余裕が出たのだろう。岸田さんは外相経験が長い。地球環境問題が国際政治の舞台になってしまっていることの危うさをよく知っているはずだ。現地(イギリス・グラスゴー)でアメリカのバイデン大統領とも会談予定が調整されている。軽々しく脱炭素の時流に乗り、後で間違えたということにならないよう、西側諸国との中長期の視点に立った大戦略の道筋を話し合ってもらいたい。
地球環境の重要性は分かる。海水面上昇などが起きれば、島国日本が蒙る影響は他国よりはるかに大きい。しかしそれ以上に重要なのは、世界人類の平和的生存である。民族が独立国家を営む権利、独裁体制に組み込まれない権利、言論で獄につながれない権利、そして軍事的脅威におびえなくてよい権利がすべての人に保障されることだ。それの障壁になっているものを除去しなければならないのだ。
物理学を政治利用する人たちは脅すであろう。このままでは地球は人類の生存に適しない温熱地獄になるぞと。仮にそうした論者の説く予測が正しいと百歩譲っても、その実現は20年、30年内のことではない。それに引き換え、専制主義の膨張への抵抗を止めてしまえば、全世界が小説『1984年』のようになるのに20年も必要ないかもしれないのだ。
衆院選での民意をどう解釈したか。岸田総理の総合的外交力が試される。