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46/n スチール ヘキサチェーン STIHL Rapid HEXA 36RH チェンソー、ソーチェーン(チェンソー用チェーン)、目立ての正しい理解

ソーチェーンサービスジャパン(略: SSJ)です。

SSJは全国向けにソーチェーンの目立てを事業として行っています。宣伝を兼ねて、タイトルの記事をシリーズ化してnote上に公開することにしました。本記事の内容はXアカウントのhttps://twitter.com/SSJP2023 固定ツイートで先行公開していますが、noteで公開する内容は、Xアカウントで公開中の資料 「4D Sawchain Study」の「 V.1.25」以降の内容となります。

外観斬新 ヘキサチェーン

ヘキサチェーン 外観

 ヘキサに限らず、新旧含めたソーチェーンの正しく詳細な情報を得ることや、体感を超えた原理まで理解するには手間と苦痛が伴うものです。頭が痛くなるほど学ぼうとすると嫌いになってしまうので、痛くならない程度に繰り返し考えることが重要です。情報や原理は最悪すっ飛ばしても支障はありません。答えは常にバーの上にあります。ヘキサチェーンについては過去回で散発的に解説していますが、日本での発売も決まった事ですので改めて「使わずとも分かること」をまとめて解説したいと思います。記事を書いているくせになんだお前と思うかも知れませんが、安直にネットでソーチェーンのことを調べるのはよくありません。

基礎パラメータ

・上刃仕上角 25〜26.5度(=上刃目立角25度)
※新品実測値不明。カッティングポイントとトップエンドには高さギャップ=チルトがある為。

・横刃仕上角 65度以下
※新品実測値不明。当たり面を正六角形の120度と仮定。上刃目立角0度以上であるのと刃厚によるギャップが出る為。

・上刃切削角 60度
※当たり面を正六角形の120度と仮定

・横刃切削角 25度

・デプス 0.65mm

切削効率+10%、その正体

動画抜粋

 随分マーケティング的だなと思ったので、ヘキサの大元の特許(発行元STIHL)を見つけてきました。

 この特許のポイントは「目立てが簡単になる(カッコつけていうと"目立ての再現性が高まる")」ということだけで、既存の新品(例 36RS)や「理想の丸ヤスリの目立て」より切削効率が良くなるとは記述されていません(興味深いことに、この特許の中では理想的な丸ヤスリの目立てとして「水平視点角=ダウンアングル5度」を推奨しています)。話になりません。ではその正体はどこにあるのかというと、冒頭のスチールUKのブログにあります。

RHはRSよりナローカーフとのことです

 比較対象は十中八九36RSでしょう。これは逆に、ナローカーフにしないと既存のチェーンより切れ味が劣るからだと考えてしまいます。この特徴的な横刃の形に切削効率を高める効果があるとすれば、わざわざナローカーフにする必要はありません。囚われた考えをすれば、ナローカーフではないヘキサチェーンを発売→ナローカーフの36RSを発売→ナローカーフヘキサと発売していけば何段階も儲けることができます。以上のことから、ヘキサの横刃の形状自体には切削効率を高める効果は全く無いか、あったとしてもほとんど無いと推察できます(ナローカーフ化=+10%が"今まで"の業界常識)。

 円ではなく直線で、尚且つ上刃仕上角25度なのでカッティングポイントのマウントボリューム(MB)も増えて切れ味の持続性は高いことは間違いありません。
 一応、新品のカッターの頂点周りの画像を再掲載しておきます。車の運転をする時は眼鏡必須の私にでも、36RHより既存の36RSの方が、MBが少なく切削効率に優れているように見えます。

STIHLはディスクのエッジを利用して鋭くした研磨のようにも見えます

ヘキサチェーンから分かる続・バイアスカット(斜め切り)

UKブログより訳: 上刃目立角25度にしたことでバイアスカットの切削効率が上昇

従来、上刃目立角は30度としていたスチールが、ヘキサに限っては25度にしています。25度によるバイアスカットの向上は、カッターがアタック~ジャンプするまでに上刃の抵抗がより早く掛かることにより、フルチゼルによる年輪方向への頂点の上擦り=スタックを軽減しているからだと推測します。円ではなく直線で削っているのでMBも増えて、さらにもう1段階スタックを軽減するでしょう。あくまで分析ベースですが、六角ヤスリで作られるカッターはバイアスカットには都合が良さそうです。
 上刃目立角を30度にすると、横刃仕上角は鈍角になりますが、横刃切削角が鋭くなるので、横刃の形状とナローカーフバーではないバーボディとのアサリも相まって斜め切りでスタックが増加して都合が悪かったのだろうと思います。

3D デプスゲージ

左が従来のRS、右がヘキサ

オンライン上で交流のあるプロユーザーの方から3Dの情報がありました。動画内では「斜め下からの切り上げ(Dutchman's cut)が滑る=カッターが喰いついていかない時がある」とのことで、「画像のようにデプスゲージが外側に傾いてることが原因か、改善策はあるか」との質問が来ました。
デプスゲージの外側の傾きは切れ曲がりを抑制する働きがあります。目立ての許容精度が緩くなるということです。ヘキサはフルチゼルのエントリーモデルですから、この設計には納得です。ですが、この傾きは先行するカッターの横刃のカットラインに引っ掛かりやすく年輪方向へのスタックとは別でスタックしやすくなるでしょう。一応、デプスゲージ天面にチルトが掛かっているのでカットラインへの掛かりを低減している措置はあります。
改善策としては、外に出てる分が邪魔なのですから削れば良いだけです。但し、11BCのデプスゲージのようにツライチにしてしまうと今度は目立ての許容精度が厳しくなるので注意してください。※11BCや11Hを使うデッキソーやハーベスターはビッグパワーなのであまり余計な設計はいりません。

キックバックしやすそうな見た目ですが…

36RHと36RSの新品時の比較では、上&横仕上角の鋭角鈍角がテレコになっているのでキックバックのし易さや程度はトータルではほとんど変わらないと思います。「ヘキサを使いたいけどキックバックも心配…」という方に向けて紹介すると、36RH3(国内発売未定)というグリーンなチェーンがUSにはあります。3まで用意されてるのですから、やはりヘキサはフルチゼルのエントリーモデルという位置付けと思って間違いないでしょう。

36RH…なぜ1.6mmゲージしか無いのか、33RHや35RHは?

 スチールとしては「自社のチゼルオンチゼルのフルチゼル」や「スキップチェーン」の有用性を広める意図があると思われます。

 しかし、フルチゼルは、延いてはチゼルオンチゼルだと更に目立てが難しいこともまた事実です。そこで「目立ての簡単」なエントリーモデルのフルチゼルを用意し、36RHからRS、RSFに載せ変えるユーザーを期待しているのだと思います。

画像はスキップヘキサ(国内発売予定未定)

また、あくまで切削効率は「理想的な丸ヤスリの目立て」の方が優れているのと、各ゲージ分の製造ライン増設もコストが掛かる為、「チェンソーやガイドバーの他メーカー分まで利する可能性が高い1.3mmや1.5mmゲージは必要ない」という経営判断でしょう。

今後の展開

 恐らく、普段から支障なくフルチゼルを丸ヤスリで目立てをするユーザーや、一部の販売店から「36RHは丸ヤスリで目立てをした方が良い」というカスタマーボイス( )が蓄積され、ナローカーフである3/8のRS ProやRM Proにこれから5年を目途に展開していくのだと思います。当たるも八卦、当たらぬも八卦…

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