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SSDC社会課題レポート@対馬編 2日目

こんにちは。SSDCデザイナーの北田です。

SSDCでは社会課題を起点にしたイノベーション創出のために日本の各地を巡り、そこで暮らす人々の営みに触れるとともに、課題の真因に迫るため活動しています。

今回は、2023年2月27日~2月28日にかけて、日本の九州北方の玄海灘にある島『対馬(つしま)』を訪問してきました。
そこで出会った方々と、対馬の抱える課題、その解決方向性についてレポートします!


対馬の概要

長崎県に属する対馬。島全域が対馬市の1島1市体制で、九州本土と朝鮮半島のほぼ中央に位置します。

対馬の地理

1泊2日の視察。このムリな視察スケジュールにも関わらず案内いただいたのは、対馬を知り尽くした元対馬市長の財部能成(たからべやすなり)さんです。(本当にありがとうございました)

財部さんからはまずひと言目に『対馬ナメとんのかっ!!』と怒られました…それもそのはず!対馬は、面積が708.6 km²と日本第10位、島内人口は約2万8千人(2023年現在)。島内の国道382号は、北は上対馬から南は厳原町まで86.8km。それほどに大きな島です。

対馬の大きさをナメておりました💦


対馬視察のスケジュール

1泊2日の対馬視察は以下のようなスケジュールでした📝
今回の記事では2日目の様子をお届けします!

【1日目】
12:55 対馬やまねこ空港着(長崎空港から入りました。)
13:30 和多都美神社
14:00 志多浦で漁業を営む作元さん
16:00 目保呂ダム馬事公園
17:00 上対馬散策
18:00 すし処慎一 あなご漁師の築城さん
21:00 グランピング施設「SLOTH GLAMPING」に宿泊

↓1日目の社会課題レポートはこちらからご覧ください!

【2日目】
8:00 グランピング施設「SLOTH GLAMPING」を出発
8:30 舟志地区古民家見学&林業を営む阿比留さん
9:00 無料カフェと農家の国分さんご夫婦
10:00 長板浦港
10:30 上見坂公園
11:00 いづはら椎根 石屋根の見学
12:30 ランチ(対馬そば)
13:30 小茂田浜
14:00 佐須北部地区
15:00 椎茸ファーム
16:00 厳原町散策&財部さん宅訪問
19:15 対馬やまねこ空港発(福岡空港経由で羽田空港22:30着)


2日目(2月28日):ゴーストオブ対馬

三宇田浜海水浴場

グランピング施設から歩いて15分くらいのところにある三宇田浜は、対馬の中でも有名な天然のキレイな砂浜。
夏には海水浴場として多くの人が訪れるようです。せっかくなので、朝5時に起きて、日の出を見に歩いて三宇田浜まで行ってきました。

海の地平線と岬の先端から出てくる朝日と共に、対馬2日目のスタートです!

三宇田浜から見る朝焼け
三宇田浜海水浴場からの日の出


日の出を見て「SLOTH GLAMPING(スロースグランピング)」に戻ると、『すし処 慎一』板前の順一郎さん(次男)が、あなごの箱寿司を持ってきて下さいました!順一郎さん、ありがとうございました!

あなごの箱寿司
グランピング施設でいただく、最高の朝ごはん

腹ごしらえをした後。2日目は、北対馬から南対馬へと南下していきます。



(体験)舟志地区 古民家見学 林業の課題

最初に舟志地区にある空き家となっている古民家を見学させて頂きました。そこで、定年後に林業を始められた元対馬市役所教育部長の阿比留裕史さんをご紹介頂き、対馬の林業が抱える課題についてお話を伺いました。

舟志地区には、伝統的な小屋組み構造で作られた古民家がたくさんあります。小屋組み構造とは対馬の伝統的な建築様式で、柱と梁を組み合わせた構造です。建物の強度が高められるように工夫されており、地震や風にも強い構造になっています。

舟志地区には、伝統の小屋組が使われた古民家がたくさん

実際に古民家に上がらせて頂きました。建物の柱などはとてもしっかりとしており、部屋の中も整理されておりとても綺麗な状態です。舟志地区には人口減少や高齢化により、こうした空き家となってしまった古民家が複数存在しているそうです。

阿比留さんはこれらの古民家をカフェや民泊施設などに活用して、地域の魅力を発信したり、交流を促進する場としての可能性を模索されています。

古民家の室内


阿比留さんに木の見分け方についてお話を伺うと、
樹齢30年の木は30年しかもたない。100年の木は100年もつ。1000年の木は1000年もつ。」と教えてくださいました。

木は年を重ねるごとに、より多くの栄養分を吸収して、色や艶、香り、強度などが増すようになります。世の中に流通している木材は基本的にはニスを使い艶を出していますが、本当に品質が良い木材はニスを使わずにそのままの状態で艶がでるそうです。

また大きく成長した木は機械では伐採できない場合があります。そのため、伝統的な「てこの原理」を使い伐採するそうです。実際に眼の前で大きな木が倒れる瞬間は日常では体感するこできないほどの風圧で、大人でも吹き飛ばされそうな感覚になるそうです。

都市部の人は自然と触れ合う機会が減っており、伐採の瞬間に感じる自然の迫力を間近で体験したい人も沢山いるはず!と新たな体験の可能性について皆さんと盛り上がりました。

樹齢の長い木には、独特のツヤが

対馬の林業が抱える問題

阿比留さんに林業が抱える問題について詳しくお話を伺ったところ、以下のような問題が浮かび上がりました。

【問題】
木材の低価格化により、品質の良い木材が流通されにくい

木材の低価格化が進んでおり、安価で加工しやすい木材が市場に多く流通しています。これは、商品やサービスの低価格化や住宅着工戸数の減少などが背景にあります。
そのため、長年維持・管理されてきた高品質な木材は、市場での評価が低く、流通しにくい状況です。さらに、製材する際にはサイズに合わせて木材を切り出す必要があります。そのため、製材時に出た端材は活用されずに、廃棄されてしまうようです。

【課題】
木材の品質を適切に評価し、品質の高い木材を流通させたい

品質の良い木材を求めている人に適切に届ける仕組みをつくることができれば、木材の本来の価値が見直されることが期待されます。

古民家を出た後、地域との交流について対話しました。
対馬を訪れて実感することが、一次産業が身近に感じられる機会が多く、地域の人がとても暖かいことです。

観光と合わせて林業・漁業・農業などの一次産業を一緒に体験できるツアーがあれば、一次産業の魅力や課題を肌で実感でき、地域との交流が深まる新たなきっかけを作れるのではないかと意見を交換しました。

阿比留さんに色々なお話を聞かせて頂き、地域が持つ魅力を高めながら、持続可能な地域の未来を常に考えている想いにとても心が打たれました。
貴重なお話を聞かせて頂き、本当にありがとうございました!!

阿比留裕史さん(右から2人目)とともに



(体験)舟志地区 国分さん 農業の課題

阿比留さんに古民家のお話を伺ったあと、車で約5分のところにある農家の国分さん宅へ。ここでは舟志地区のなかでも約2000坪ほどの農地を使い、ご夫妻2人で農業をされています。

舟志地区の山肌に囲まれた農地
不定期で息子さんが運営されている揉みほぐし「癒し処ゆるる」

ここでは様々な作物を育てていますが、中でも赤芽と白目のサトイモが美味しくて、家の前にある直売所(無人)では毎年約2トンものサトイモが売れているとか。一方で、適切な価値をつけて対外的に販売できているかというと、ブランディングや販路開拓に課題があるようです。

話は尽きない…!
みなさんと写真撮影

国分さんご夫妻からは、過去にあった人形の縫製工場のことや、高齢化により農業従事者が少なくなっていることを伺いました。現在、作物は主に自給自足。島内の人たちが喜んでもらえればいいという思いで、みなさんお互いで助け合いながら暮らしています。

国分さんご夫妻


カネは無いけど、カメはあるよ。」という国分さんの柔和な表情が印象に残りました。

その後、舟志のもみじ街道を通りながら、ひたすら南へと向かいます。



長板浦港

長板浦(ながいたうら)港で対馬市営渡海船「うみさちひこ」に乗せていただきました。

うみさちひこ。名前の由来は古代日本の神話より

対馬市営渡海船は、1日目に見学した和多都美神社がある対馬上島の仁位(にい)港を起点とし、長崎県対馬病院がある下島の長板浦港を終点とする航路で、通院船および水上バスとして活躍しています。

浅茅湾の渡海船は、対馬の道路が整備される前から、島民の海上の足として親しまれてきました。

浅茅湾沿岸の6集落に寄港し、対馬の入り組んだリアス式海岸沿いに住んでいて、車での通院が容易ではない主に高齢者・障がい者の便宜をはかっているようです。

船の操縦室には、某有名音楽プロデューサーさんのサイン

当時、道路の開拓の予算とかなかなか厳しく、運輸局にお願いしたが、お金が出ない。道路がつくれないことが問題なのだからと船のルートなどの費用を国土交通省に出してもらったとのこと。


上見坂展望台

うみさちひこを後にして、内陸に入っていきます。
ここでは著者のひとり北村にとって特別な場所でした。

オブジェ

というのも、いまから約50年前に北村の祖父がこの地を訪れていたのです。
祖父は北村が誕生してすぐに亡くなってしまいましたが、当時の写真を偶然この視察前に目にしていたので、財部さんにお願いして立ち寄っていただきました。

北村祖父のアルバムより

そして…発見!

50年前に祖父が訪れた場所で
同じアングルで写真撮影

50年を経て祖父と同じ地を踏めて、感動もひとしおでした。
この上見坂公園、なにより対馬の島々や湾を一望できる絶景の場所。

よろしければぜひ立ち寄ってみてください!

上見坂公園より対馬の島々や湾を一望


厳原 椎根

上坂展望台のあとは、厳原市街から車で約30分ほどの場所にある、椎根の石屋根倉庫を訪れました。石屋根倉庫は屋根に砂石の板石を使用しており、長崎県の有形文化財に指定されています。

椎根の石屋根倉庫
対馬の集落の佇まい

かつては、衣類や穀類などが保管されていたとのこと。現在でも一部が倉庫として使用されているそうです。

特にこちらの地域は風が強かったため、防火上の配慮として火災があった際に倉庫は残るように人屋からは離れたところに建てられていたそうです。
また屋根に使用されている板石は非常に大きく、重機がない時代にどのように持ち上げられたのか、私たちは想像もつきませんでした。

地域の特性に合わせた設計・構造になっており、対馬の人々の知恵と工夫に感動しました。


小茂田浜・佐須浦

対馬の西海岸に位置する厳原町小茂田浜・佐須浦
ここは鎌倉時代の元寇の舞台となった地として知られています。

元寇
日本の鎌倉時代中期の1274年・1281年に、当時モンゴル高原及び中国大陸を中心領域として東アジアと北アジアを支配していたモンゴル帝国(元朝)およびその属国である高麗によって2度にわたり行われた対日本侵攻の呼称

小茂田浜の景色

実際は、少し奥の佐須浦がゲームソフト『Ghost of Tsushima(ゴースト・オブ・ツシマ)』にて世界からも「元寇の対馬」というイメージで見られるようになったとか。
小茂田浜には、元寇古戦場として石碑や小茂田浜神社が設けられ、元寇で戦死した将士の霊が祀られていました。

小茂田浜神社
元寇七百年の平和碑

小茂田浜を眺め、実際の場所に立ち、空気や海の音を肌で感じながら、元寇の歴史について聞くお話は、またひと味違った感動となりました✨
ここでは、ARやMRなど最新の技術によって、当時の情景を投影しながら、当時の話を聞く体験などもできたらいいなという話で盛り上がりました。


一方で、海岸を見ていると、海から流れ着いた多くのゴミを目にしました。

海に漂着したゴミ

ゴミの大きさは大小様々で、バケツや発泡スチロール、ペットボトルなど様々で、実際のゴミを見てみると、中国語や韓国語をはじめとした海外から流れ着いたゴミもたくさんありました。
海岸沿いのゴミの約4割が中国、約3割が韓国、残り3割は海外・日本国内からの漂着のようです。

流れ着いたペットボトル。中国語のもの(左)と、韓国語のもの(右)

対馬でもきれいな海を守るための取組みを進めており、沖で海洋プラごみを一掃する検証(対馬の潮条件では難題で実現化できなかったとか)などをはじめ様々な試行錯誤を繰り返しているとのことです。
現在は、地域の方々の協力により海岸のゴミをキレイにする活動をしているのですが、ここにもまだまだ多くの問題・課題が残っているようです。


農事組合法人樫椎小原 桐谷さん

小茂田浜・佐須浦からほど近くの佐須北部では、農事組合法人樫椎小原(カシコバル)にお邪魔しました。
到着早々、「これ食べてみなさい!」と、さつまいもを渡されます。石焼き芋と、干し芋を試食させて頂きました。これが…旨い!絶品!

石焼き芋(手前)と干し芋(奥)
干し芋の現場

理事長の桐谷政実さんからは、農業に関する課題や取り組みを教えて頂きました。対馬の限られた作地面積のなかでも、土壌を活かしたミネラルとカルシウムたっぷりのカルシウム米や、対馬原種の蕎麦作りなど、新農法を交えながら挑戦しているとのこと。

理事長の桐谷さん

樫椎小原さんでは、生産した作物の販路開拓にも挑戦されていました。
InstagramにTwitterなど。特にInstagramなどは投稿に多くのイイネがついており、地域内外で注目されていると感じます。

Instagramのトップページ
桐谷さん、ありがとうございました!!


椎茸ファーム

日本で一番生産量の多い原木椎茸のファームに行きました。
写真ではごく一部しか映っていませんが、山間に切り拓いた膨大な土地にたくさんのハウスが立ち並んでいます。
開拓には十数億円の費用が掛かったようですが、ここから毎年美味しい椎茸が全国へ出荷されています。

立ち並ぶハウス群
ハウス内の、椎茸原木。

従業員約20名ほどで運営しているこの椎茸ファームも出荷先の開拓などマーケティングなしでは経営もなかなか進まず、コロナ禍においては、飲食店などに制限がかかったこともあり、大きな痛手となったうちのひとつです。
このファームも後継者としての問題を抱えています。

原木に実った椎茸

香り豊かな対馬の椎茸を世の中に届けつつ、この対馬で雇用が生まれる経営を求められておりました。


厳原(いずはら)地区

旅の終わりは、対馬最大の町である厳原地区へ。
ここ厳原地区には、市役所や港など、対馬の主要な機能が集約されており島民の方々の生活を支えています。

厳原港

ここ厳原には、その昔に「金石城(厳原城)」と呼ばれる城がありました。何度かの消失があり、現在は「檜門」と呼ばれる建物のみが復元されています。

檜門(写真右奥)。左手は対馬博物館

城を眺めた後に、旅の総括。
財部さんからは、市長を務められていた時のエピソードを交えながら、地域を活性化するための原理原則を教えて頂きました。

・出会った人の声に耳をすませる
・その人が喜ぶことに近づける
・実現するために、最終目的を共有する
・外の人ともお付き合いすると、想いが広がっていく

まちづくりやまちおこしに関わるうえでの大切な視点として、心に焼き付けておきます。


まとめ

今回の対馬ですが、最初に財部さんに言われた『対馬をナメとんのか!』という言葉、この2日間で実感しました。(反省)

財部さんのご自宅にあった「芳洲訓言」

まだまだ回り切れていなところがたくさんありましたが、その中で、これだけ多くの方々と触れ、たくさんの体験をさせていただきました。ありがとうございました!

この小さくも大きな島の中で、漁業、林業、農業が隣接し、そして島の皆さんが互いに協力しながら生活していることに触れることができました。このレポートで上げた問題・課題について、関心をお持ちになった方は、私たちSSDCにご連絡ください。

そして是非、一緒に社会問題の解決に向けて活動していきましょう。

↓1日目の社会課題レポートはこちらからご覧ください!

↓ SSDCの活動記事はこちらからご覧ください!


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