超短編|世界の終わりを知った日
風の噂で、今日、世界が終わるのだと知った。
見晴らしのいい丘。丘の上から眺める、煌めく海。耳に届くのは、うみねこの声ばかり。
そんな田舎に住んでいると、世界が終わるだなんて大層な噂も、流れ着くのが遅い。
先程、酷く慌てた近所の小母さんが報せに来たけれど、「ああ、そうなのか」としか思わなかった。
表情を変えずに頷いたわたしに、小母さんは喉に小骨が引っ掛かったような顔をした。やがて、眉根をぐぐっと寄せて、どこかへ走り去っていった。
一連の出来事を、指で数えられるほどの年数だけ連れ添った男に話せば、男は穏やかに微笑んだ。「僕たちは田舎者だからね」
わたしたちが田舎者なら、小母さんもそうでしょう。
男は、また笑った。「そうだったね。僕たち以外は、どうにも都会人に見えてしまう」
わたしも笑った。本当に世界が終わるなら、一大事なのに。わたしたちは、最期まで田舎者のまま、緩やかな終わりを迎えるのだろう。
「あなたに出会えて、わたしは幸せです」