患者等搬送事業者を辞めました
※介護タクシー事業は継続中ですよ!
0:はじめに
辞めたというか、正確には事業認定されている介護タクシー事業を法人から「個人成り」したため、資格そのものが消えました。ただし、認可更新する予定はありませんし、また乗務員としては有資格者になりますが、こちらも更新しません。つまり一切足を洗いました、という事になります。
この記事は、以下の記事の続編的なものです。読まなくても内容がわかるようにしますが、参考までに。搬送事業者になってから辞めるまでを、なるべく時系列に沿って書き留めます。これからの介護タクシー事業者さんや、患者運送に携わる人に、参考になればと思います。
1:不正請求事件
介護タクシー川村が、函館市の患者等搬送(車椅子専用)事業者に認定されたのが、2018年9月4日。講師の方は、患者等搬送事業がもっと認知され、事業者がどうしたら増えるのだろうか、と問題意識をもっている熱心な方でした。その2年後の研修後に書いたのが、上述の記事です。
認定翌年に、函館市消防本部の不正手当問題が全国ニュースにもなりました。すでに忘れ去られつつありますが、当時から処分の軽さは指摘されていました。職員の85%が不正に関与していたうえ、記録に残っていない不正もあり、全員が仮眠していたという記録がまかり通ったなど杜撰な管理体制があった、というから驚きです。
ただ、この問題と自分の患者等搬送事業は直接の関連もなく、制度自体の必要性を否定するものではありません。けれどもやはり、この事件が辞めるキッカケ・制度への不信感の一つになっているかもしれません。
ちなみに不正請求事件で隠れていますが、函館市消防本部は、同時期に別件で二人が処分されています。
>函館消防・不正手当問題〈7〉
>“出会い系”疑いで懲戒、未発表
2:救急当番病院(二次救急)
函館市は救急当番病院(二次救急)を公開していません。市民が勝手に押しかけてきたら困るというのが理由のようです。それは自治体ごとの判断だと思うのですが、この対応は函館市の患者等搬送事業者であっても同じです。この件については何度も函館市消防本部救急課に確認しました。答えはまったくかわりません。「医療側の判断ですので」。まぁこれだけでも、患者等搬送事業者の意味があるのかな、という気がしますよね?
3:「乗るだけ」で一般タクシーの倍
開業半年後に患者等搬送事業者となりましたが、その1年後にはコロナ禍が始まりました。コロナになる前後に、ある出来事がありました。とあるケアマネから函館市から移送費の申請が却下された、という相談でした。内容は一般タクシーであれば片道2500円程度なのに、片道5000円だと事業者が請求し、それを函館市に移送費請求したところ「高すぎる」と認められなかったというものです。実際にわたしが対応しましたが、①車いすはご本人所有、②タクシー乗車前までは介護施設職員による介助、②乗車中は同乗家族付添い、④タクシー下車後から病院受診までは家族介助、⑤基本運賃は2500円以上にはならない、⑥平日日中の時間に余裕を持った予約というものでした。函館市でなくても「これで差額2500円はどこに発生するの?」という気がします。支給されなかった移送費用は誰が負担たのでしょうかね?介護タクシー事業者として怖くなります。患者等搬送事業は殿様商売ですか?
4:119番したら復路の足は確保?
コロナ禍のとあるお盆の土日、問い合わせの電話が相次ぎました。119番して救急搬送を頼んだが、「帰りの手段はご自分で確保できますか?」と聞かれたというものです。福祉輸送事業限定なので「待ち」の営業はできないのですが、ほかに緊急の予約と重ならなければ自宅にいると思いますと返答。このやり取りが同じ日に複数回発生しました。後日、2回目の更新研修の際に消防本部講師に確認すると、「消防として答えたものではない。」との即答でした。であっても、市民にとっては119番した後の対応であることは間違いありませんよね?
5:短距離の乗車拒否
別のあるケアマネから入院送迎の依頼がありました。介助が必要とのことで他の予約への影響も考え、多少時間が前後してもいいならという条件で受けました。介助自体は難しいものではなく、乗車してから車内でお客様が、とある患者等搬送事業者について話し始めました。「とっても良い事業者」「技術もあって信頼できます」「経験も長い」とベタ褒め。ん?だったらその事業者に依頼すれば良かったのでは?ケアマネさんに伝えて次回は断りますね?と伝えるとお客様がアタフタ。聞けば、距離が近く(かつ割高)なので断られたとのこと。その事業者さんとは連携もしておらず運賃にかかわる契約関係もありません。そもそも患者等搬送事業者であっても短距離の予約を「乗車拒否」してもいい、という話にはなりませんよね?
6:発熱は乗せない
2回目の更新研修の際、講師である消防署職員が「患者等搬送事業者は発熱患者を乗せない」と断言されていました。そのルールがいつ決まったのか知りませんし、患者等搬送事業者でもない同業者も同じことを言っていたので、どこかで自分の知らないうちに暗黙のルールができていたのでしょう。ちなみに道路運送法上は、その判断は問題ありませんし自分も法律に則って対応していました。ただ介護タクシー川村の場合は当初から一貫して変わりませんが、医療従事者による「既存の疾病からの発熱疑い」という判断があれば、防護服を着るなどして対応していました。それが介護タクシーにとっての医療介護連携だと思うので。逆に言えば、このコロナ禍にあってさえ、函館市では患者等搬送事業、救急、医療、介護、保健がまったく連携できていないことの裏返しですよね?
7:要綱第19条
患者等搬送事業に対する指導及び認定に関する要綱(平成26年9月1日・消防告示第2号)には載っていませんが、函館市『患者等搬送事業に対する指導および認定に関する要綱』には、第19条(情報の提供)という条文があります。以下引用します。
消防長は,認定事業者から医療機関の診療情報の照会があったときは,函
館市消防本部で把握している情報を提供するものとする。
2 消防長は,市民等から患者等搬送事業者の照会があったときは,認定事業者を紹介するものとする。(引用ここまで)
昨年9月、2回目の更新研修が終わってから、函館市消防本部救急課救急係に、19条2項に書かれている紹介の件数をメールで「照会」しました。以下その回答を引用します。
>照会いただきました実績につきまして,集計を行っていないため問い合わせ件数は「不明」と回答させていただきます。
>なお,第19条の情報提供については,主に消防指令センター(通信指令室)にて対応することを想定しておりますが,119番通報受信件数だけで毎年25,000件近くになっており,「問い合わせ」の未集計にご理解いただければ幸いです。(引用ここまで)
ちなみに介護タクシー川村では、明確に119番通報からの紹介と判断できる予約件数は「0件」です。自分が患者等搬送事業に在籍した4年間で10万件の通報があったはずですが、紹介が無かったのは明らかに自分のスキル不足等があるのでしょう。ただハッキリ言えるのは、要綱に則って事業を遂行できるかどうかは、事業者側だけでなく行政にもその責務があります。
また、函館市消防本部は、毎年4月になると搬送実績のデータ提供を求めています。事業者には財産であるデータを求めておいて行政側は「不明」というのは、あまりにも無責任ではないでしょうか? そもそも『函館市消防本部 不正請求事件』のときに、「記録の不備」や「杜撰な管理体制」は改める、と明言したはずでは?
8:脱退届
患者等搬送事業制度の扱いは、地域によって格差があります。制度自体がない自治体もたくさんあります。一言でいえば函館の場合は、医療(医師会)側の意向で、ほぼほぼ機能していないというのが現実です。また自分の場合は「車椅子専用」のため、さらに制度から除け者にされているような気もします。だからといって「短距離の予約」を回される筋合いもありませんが。
2023年4月1日時点で介護タクシー事業を法人から「個人成り」させ、その月の上旬、函館消防本部から恒例の「実績調査報告依頼」が届きました。介護タクシー川村として、次のようにファックスで対応しました。
実績データの提出「拒否」
すでに法人としての介護タクシー川村は存在しないと報告
個人事業者および乗務員としての認定更新もしないと連絡
要綱には事業者側からの脱退が明記されておらず手続きを相談
その日のうちに救急課からメールで返信があり、送ったファックスをもって「脱退届」を受理するとの返答がありました。認定証などは返却が必要らしく、車体表示更新などを済ませ(念のため撮影印刷し)てから、返却すれば完了するそうです。どうやら函館市では脱退届すら様式化されていないようですね。不正請求事件の反省はもはや完全に忘れ去られたのかな?
最後に。地域差があるので、患者等搬送事業の抱える課題は様々でしょう。最初に書いたように、再度、認定更新する予定はありません。介護タクシー事業に集中します。これから介護タクシーを始める人で、患者等搬送事業にも興味がある人の参考になれば。(2023年04月19日付で脱退完了)