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【小説】ラヴァーズロック2世 #51「葬儀」
あらすじ
憑依型アルバイト〈マイグ〉で問題を起こしてしまった少年ロック。
かれは、キンゼイ博士が校長を務めるスクールに転入することになるのだが、その条件として自立システムの常時解放を要求される。
転入初日、ロックは謎の美少女からエージェントになってほしいと依頼されるのだが……。
注意事項
※R-15「残酷描写有り」「暴力描写有り」「性描写有り」
※この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
※連載中盤以降より有料とさせていただきますので、ご了承ください。
葬儀
涼音が料理に凝り始めた。いや、食材をまな板の上でカットすることに異常に執着し始めた、といったほうが正しいかもしれない。
最近は、ただ食材をカットするばかりで、あとはロックにお任せというパターンが多くなってきていた。
しかも、ここ何日かで〈活き作り〉の楽しさに目覚めたらしく、今日も朝から何匹もの生きた魚をさばいているのだった。
作業台の隅っこには小さな段ボール箱があって、時折ビチビチと何かの跳ねる音が聞こえる。
これは食材が尽きたときの予備で、ロックが河原で捕まえてきた、割と大きめのバッタたちだ。
跳ねたバッタが段ボールの内側にぶつかるたびに、涼音はその音に驚き「オウッ!」といって作業の手を止める。
食卓には、食べきれないほどの魚の活き作りが大皿に載って並べられていた。
「お魚、もうないの?」
涼音は、寂しさとちょっとした怒りの感情がないまぜになったような顔でロックを見る。
かれはバッタが逃げ出さないように段ボールの蓋の隙間から手を入れると、何とか一匹を捕獲する。
そして、その一匹のトノサマバッタを慎重に手渡すと、エレクトリックナイフを手に作業に取り掛かる彼女の横顔を覗き込んだ。
「あの男子とはどうなったの? あのラブレターの……」とロック。
「え? 男子? ああ、まあ……ねぇ……」
涼音はとぼけるというよりも、わけの分からないことをいう人間に無理に話を合わせるような感じで微笑んだ。
本当は記憶にないのではないか。あるいは今、目の前にいる涼音と、あの時ラブレターを自分の手からひったくった涼音は、全く別の人格なのではないか。そんな疑念がロックの中に一瞬芽生えた。
トノサマバッタといえども、魚たちに比べればかなり小さいため、普通に作業を行ったらどうしてもあっという間に終わってしまう。涼音は幸福な時間を少しでも長引かせるためなのか、信じられないくらいにゆっくりと、その緑色の胴体に刃を入れていく。
「虫ってお魚さんと一緒で無駄に悲鳴を上げないからいいよね」と涼音が独り言のようにつぶやく。
トノサマバッタは苦痛のあまり、ビチビチと後ろ足を蹴り続け、チョコチップのような糞を漏らした。
「ねぇ、切るものは?」
「もう、ないんだ……」
彼女の過度な要求に疲れ果てていたロックは、もうそれ以上何も答えることができなかった。
「ねぇ、切るもの!」
ロックは、無言のまま壁掛けスピーカーに手をかざすと、エレクトリックナイフを持った涼音の前に進み出た。
スライ&ロビーのサウンドが大音量で鳴り響く。
涼音は、腰でリズムを取りながらワイングラスにアップルジュースを注ぎ、一口飲んだ。
ロックはファスナーを開けL/R 2.0を引き出した。
ドラム&ベースのたゆたうようなリズムに合わせ、左右に蛇行するL/R 2.0。それを見つめながら踊る涼音。
ロックは踏み台に乗るとL/R 2.0をまな板の上に置いた。
涼音は駆動するその物体を左手で押さえ、エレクトリックナイフをあてがう。
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