No.001 魔性の子 小野不由美 著

はじめまして!鳴神紫蘭です。

普段はカクヨムでちまちまと小説を書いているのですが、カクヨムで『鳴神紫蘭の本棚』として投稿していた本の感想をnoteに移すことにしました。

基本的に私が読んでいて気になった(これは良い意味悪い意味どちらも)部分について書きます。まあ要は日記のような記録のようなものです。私の感想は小説の構造や展開、結末について語ることも多いので、かなりネタバレしまくってます。

そこを承知の上で読んで頂けると幸いです。

前置きはこれくらいにして、『魔性の子』の感想に入ります。

私がこの本を読むのは小六以来、二回目になります。
やっぱり十二国記シリーズは何度読んでも面白いですね。

どこにも、僕のいる場所はない────
教育実習のため母校に戻った広瀬は、高里という生徒が気に掛かる。周囲に馴染まぬ姿が過ぎし日の自分に重なった。彼を虐めた者が不慮の事故に遭うため、「高里は祟る」と恐れられていたが、彼を取り巻く謎は、“神隠し”を体験したことに関わっているのか。広瀬が庇おうとするなか、更なる悲劇が……。心に潜む暗部が繙かれる、「十二国記」の戦慄の序章。

出典 新潮文庫『魔性の子』あらすじ より


○選ばれなかった広瀬と選ばれた高里

このお話は主に広瀬という教育実習生の視点で進んでいきます。
広瀬と高里は同じ“故国喪失者”として、次第に打ち解けます。

高里は神隠しに遭ったときにいた世界を、広瀬は幼い頃に昏睡状態に陥った際にさまよった世界を故国としていました。
故国に帰りたいけど、故国に帰る方法は分からない。
そんな他人には理解されにくい想いを抱いていた広瀬にとって、高里は唯一の理解者だと彼は思い込み、さらに厭世的になります。

しかし、高里は元々向こうの世界の住人であり、故国がどこかわからずとも、故国に帰りたいと叫ぶことは当然のことです。
一方、広瀬はやはり真っ当なこちらの世界の住人であり、帰りたいと願う世界はどこにもないのだと恩師、後藤に言われても彼はそれを受け入れようとはしませんでした。

この、自分にとって都合のいい世界を夢見て、ここは自分のいるべき場所じゃないと思いながら生きていくのって、すごく痛々しいですよね。ちょっと分かる気もしますが。

そして、ついにラストシーンでは高里にあちらの世界から迎えが来て、彼は故国へと帰っていきます。

この時の広瀬の高里へのセリフ、「俺を置いていくのか」が広瀬が良くも悪くもこちら側の人間であることを示しているのでしょう。高里に執着していた広瀬が高里に対して感じた嫉妬が「人間は汚い卑しい生き物だよ」という後藤の言葉の通りなのだと思います。高里は故国に帰るのに、広瀬はまだこちらの世界で周りの人間に否定される故国を想い、生きていくことを認めたくなかった広瀬は絶望したはずです。

当時小六だった私は広瀬に感情移入して読んでいただけに、このラストシーンが大嫌いでした。当時はハッピーエンドで話を終わらせないのは読者に対する嫌がらせだと本気で思っていたので、当時の私は、『魔性の子』の読後感が気に入らなかったのでしょう。

それでもこのふたりの対比が『魔性の子』の面白さ、というか魅力なんだと思えるくらいには私も成長したようです。似ているようで全く異なったふたりの対比がすばらしい作品だと思いました。


最後に。

最近はサボり気味ですが、シリーズ最新作が出る前に十二国記シリーズをひと通り読み直したいです。それとここでは、『魔性の子』の残酷でグロテスクなストーリー展開や表現には触れられなかったので、これから読もうと思ってくださった方はご注意くださいね。

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