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産業分野向けIoT(Industrial IoT)の予知保全

オンライン上にIIoTシステムを維持するための予知保全に、SRIのDASL(Deep Adaptive Semantic Logic)を活用

WIFIネットワークの普及に伴い、インターネット対応機器の数は爆発的に増加しています。いわゆる「スマート」テレビや冷蔵庫、オーブン、監視カメラ、玄関のインターホン、ベビーモニター、歯ブラシ、煙探知機、テニスのラケットなど、思いつく限りの機器がインターネットに接続されているのです。インターネットに接続されたこれらの機器は、「モノのインターネット(IoT)」を構成しています。

IoTの中には、産業分野向け IoT(IIoT:Industrial IoT)という特殊な分野があげられます。IIoTは、センサーや計測器、機械類、ロボット、コンピューターなどのデバイスを接続して、製造現場やエネルギー管理などの産業用途に利用されています。常時監視と最新情報の取得が可能であることから、IIoTは生産性と効率の大幅な向上を可能にし、産業オートメーションを実現する主要な要素となっています。

IIoTの大きな課題は、さまざまなセンサーや機械類、コンピューターなどで構成される産業用システムの稼働を維持することによる複雑さです。機械の故障やセンサーの停止、機器の詰まり、コンピューターのクラッシュなどが発生すれば、長時間のダウンタイムが発生します。そのため、「予知保全」が必要なのです。自動化とIIoTテクノロジーは、費用のかかる手作業の必要性を減らし、処理能力と品質を向上させることを期待されています。しかし、これはデータを効率的に活用して希少なリソースを必要なときに必要な場所に配置できた時にのみ、実現できるのです。

IIoTは、意味づけ(sense-making)や予測が効果的なものでなければ、故障や不具合で組立ラインの停止が必要なほどの深刻なエラーが発生したときのみに保守担当者に警告を発し、元に戻すために必要なデータを提供するだけになってしまいます。IIoTの可能性を十分に発揮するには通常時の稼働データを慎重に分析し、品質低下や予定外のダウンタイムを引き起こす前に問題の初期兆候を検出する必要があります。このようなIIoTによる予知保全によって、ピンポイントでリソースを投入することが可能になり、予定されているダウンタイム中に潜在的な問題を修復することで組立ラインの稼働時間を改善し、生産ラインの効率性と製品品質を向上させることができるのです。

IIoTのオンライン状態を保つ

IIoTシステムのエラーやシャットダウンを追跡することは簡単ですが、システム自体が複雑なことから、これらを未然に防ぐことは容易ではありません。問題を事前に予測する能力がなければ、エラーや故障は非常に大きな損失となり、生産損失、リソースの破壊、機械の連鎖的な故障などを引き起こし、多額の設備投資につながる可能性があります。問題をできるだけ早く発見し、さらに言えば、問題が発生する前にそれを予測することは、損失などの影響を抑えるためには非常に重要なことなのです。

予知保全は重要ですが、課題でもあります。IIoTシステムは非常に堅牢に設計されており、システム障害は設計上ほとんど発生しません。また、故障が発生しても新規性が高いため、予測不能であることが多いです。人工知能(AI)は、IIoTシステムの管理やこれまでに発生したことのある問題に対応する時には役立つものですが、新規の問題に対応するのは得意ではありません。

DASLがその役割を果たす

SRIインターナショナルの研究者は、知識ベースのAIと機械学習(ML:Machine Learning)[JJB1]を組み合わせてDeep Adaptive Semantic Logic(DASL)というシステムを構築し、この問題の解決に取り組んでいます。MLは一般的に、推論を展開するために慎重にキュレーションされ構造化された大量のデータを必要としますが、IIoTシステムは正確なML予測メンテナンスシステムを確立するにあたり、十分なデータがまだ生成されていません。SRIは限られたデータと専門家の知識をDASLを用いて組み合わせ、IIoTシステムにおける稀な事象を検出して人間のオペレーターや技術者にインテリジェントに伝え、その情報を用いて製造システムやプロセスの保守・改善を行うことができます。

では、DASLの特徴は何でしょうか。DASLは構造化されていない実世界のデータと構造化された人間の知識を組み合わせて学習する、次世代の知能システムです。DASLは文脈に応じたモデルを構築し、さらにそのモデルから推論して意思決定についてを説明することができます。SRIのSenior Computer ScientistであるAndrew SilberfarbはDASLを「標準的な深層学習(Deep Lerning)や機械学習(Machine Learning)などの統計的学習と、人間が理解できるルールに基づく従来のエキスパートシステムとの岐路に立っている」と表現しています。

工場以外でも幅広くDASLを活用

DASLは専門家の知識とデータのML分析を組み合わせ、IIoTシステムの予知保全に役立てています。DASLは、システムエンジニアやオペレーターの知識に、システムの通常運用時に生成されるデータを合わせてセットアップすることが可能です。DASLの各インスタンスは特定のシステム運用や目標、要件に合わせてカスタマイズできます。システムのデータが異常を示すと、AIのエキスパートシステムはその知識とルールを参照し、考えられる原因と解決策を人間のオペレーターに通知します。そして、オペレーターはDASLの予測の精度を判別し、必要に応じてシステム内のルールを更新することができます。この継続的なフィードバックのループによって、時間の経過とともにシステムの精度が向上していきます。

SRIではIIoTシステムの予知保全にDASLを活用するだけでなく、他の用途も検討しています。DASLは複雑で難しい問題を解決するために、ボトムアップのデータとトップダウンの専門家の知識を組み合わせる必要がある、さまざまな状況でも活用することができます。SRIは、創薬やヘルスケア分野ではいづれもボトムアップのデータとトップダウンの専門知識を強固に組み合わせる必要があるので、DASLの活用も検討しています。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
SRI International. “DASL: Machine Learning using small data and human knowledge.” https://dasl.sri.com\

Go beyond machine learning to optimize manufacturing operations(英語ブログ)https://medium.com/dish/go-beyond-machine-learning-to-optimize-manufacturing-operations-2ad54dc45f77日本語ブログ:機械学習の「一歩先」へ進み、製造業務を最適化 https://dish-japan.sri.com/n/n357aa20db512)

Karan Sikka, Andrew Silberfarb, John Byrnes, Indranil Sur, Ed Chow, Ajay Divakaran, and Richard Rohwer: Deep Adaptive Semantic Logic (DASL): Compiling Declarative Knowledge into Deep Neural Networks. (2020) 2003.07344.
https://www.sri.com/publication/deep-adaptive-semantic-logic-dasl-compiling-declarative-knowledge-into-deep-neural-networks/

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社