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SRIの75年間のイノベーション: 森林を透過するレーダーテクノロジー(FOLPEN)

〜森林を透過するレーダーテクノロジーを応用した画期的なイノベーション 〜

「75年間のイノベーション」シリーズでは、SRIが設立された1946年から現在に至るまでの数々の画期的なイノベーションを取り上げます。SRIの英語ブログでは、2021年11月の75周年を迎える日まで、毎週1つずつイノベーションに関する記事をリリースしています。この日本語ブログでは、その中からいくつかを日本語にてご紹介します。

森林も透過可能なレーダーテクノロジーは、いかにしてカモフラージュを見破ったのか

「レーダーは、路面上もしくは地中に埋まっているものだけに留まらず、高く伸びた雑草や地表を覆う森林や茂みの中でも、天候、煙や霧などの遮蔽物に左右されることなく金属および非金属双方の目的物を探知できた。」 ― 1999年米国防分析研究所(Institute for Defense Analyses)

科学とは本当に「素晴らしい」の一言に尽きます。科学さえあれば私たちが自然界を探求する時に、想像力そのものを膨らませてくれます。森林を透過するレーダーテクノロジー(FOLPEN:Foliage-Penetrating Radar technologies)はまさにその一例です。FOLPENは自然現象をベースに、SRIインターナショナルに所属するメンバーの知見と展望によって生み出された「画期的」な「森林を透過する」技術です。

森林透過レーダーは1990年代にSRIが開発を進めたテクノロジーであり、既に解明されている自然現象を利用して、軍事オペレーションの防衛や人命救助に活用されました。

「木を見て森を見る」にはどうすればよいのか

森林を透過するレーダーテクノロジーにとって、周波数は不可欠です。考え方次第ではありますが、そもそも人間と草木の葉等は、電界を印加したときの反応が異なります。これは、「誘電率」と呼ばれる現象です。これは電磁気学の用語であり、物質の分極を定数で表したものです。「水」を例にしてみましょう。水分子は水素と酸素の原子からできています。この2種類の原子にはそれぞれ、酸素がプラス、水素がマイナスという相反する電荷を帯びています。これにより、2つの電荷の「双極子」が形成される、つまり、原子が(磁石のように)「極性」を帯びます。そして人間や植物は、双極子がある物質でできています。通常、分子の双極子はランダムに配置されていますが、物質(植物の葉など)に電界印加すると双極子が整列し、電荷が電界の反対の電荷に引き寄せられる、つまり、分子が電界に対して「反発」します。分子の「反発する」量が正味の電界を反映し、誘電率が決まります。誘電率は物質ごとに異なることから、様々な「物体」を見分ける要素となるのです。

森林透過レーダーは、パルスマイクロ波で電界を発生させます。誘電率の違いによって森林透過レーダーは物質を識別し、一見全く見えないものさえも可視化します。誘電率が変化するとマイクロ波シグナルの反射や屈折、散乱が起こり、その反射シグナルの変化を探知して変換し、対象物をディスプレイ上に表示します。

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なぜ森林を透過するレーダーテクノロジーが必要なのか

米国防高等研究計画局(DARPA)等の組織は、ベトナム戦争時に相手が熱帯雨林に身を隠していたことから、森林透過テクノロジーの開発に乗り出しました。森林透過テクノロジーのイノベーションには技術的な機能だけでなく、レーダーの誘導手法も必要でした。いくつかのイノベーションによって一貫性のある波形の誘導とシグナルの処理、また、重要な場所へのレーダー設置も可能となりました。さらに、FOLPENの「合成開口レーダー(SAR:Synthetic Aperture Radar)」も開発されました。これにより、人工的に作られたものを遠くから見分けられるようになりました。SRIは、軍やその他の組織が実際に現場で使用できるように技術開発を先導しました。

SRIは、FOLPENの能力を高める為に対象地域の上空を飛行できるSAR搭載航空機「FOLPEN Radar」を開発しました。その際、SRIは以下2種類の革新的な航空機搭載型FOLPEN Radarの装置を開発しました。

FOLPEN II:森林の種類の識別や地雷探知に使用。ただし、この第1世代のシステムは、解像度が1mに限定されていました。

FOLPEN III:SRIはより広範囲で対象物の識別能力をより高められるよう、FOLPEN IIの機能をさらに発展させました。これは、水平偏波面と垂直偏波面を交互に切り替える2チャンネルの偏波システムとして開発されました。

SRIはその後も超短波(Very High Frequency:VHF)SARのイメージングとノイズ除去アルゴリズムの開発を続けました。これにより、草木の葉等で隠れた地表の正確な地形分析ができる高解像度のSARが実現しました。

国土の安全保障や軍事分野では、FOLPENは以下の探知に使用されています。

· 生い茂った葉の中に身をひそめる兵士の探知
· 地雷など隠された金属の探知(人道的な地雷除去活動の安全確保にも使用されます)
· 生い茂った葉の中を移動する軍用車両の探知

また、民生分野では、不発弾やその他隠れている対象物の探知にFOLPENが使用されます。

SRIは今後もテクノロジーを織り交ぜながらイノベーションを追求します。1990年代に躍進した森林透過レーダーというSRIの画期的な研究は、現在も継続しています。センサー技術、処理アルゴリズム、分析ツール等と他分野のSRIのテクノロジーを採用してさらに開発を進めており、基礎となる「科学の力」を進歩させ続けています。

SRIインターナショナルと原子の電荷によって、私たちはこれまで見つけることが困難であった、俗に言う「干し草の山の中の針や生い茂った葉の中に隠れている地雷」を見つけることができるようになったのです。

SRI Internationalについて、詳しくはhttps://www.sri.com/jaをご覧ください。

参考資料:
Mark. E. Davis, Foliage Penetration Radar Detection and Characterization of Objects Under Trees, Scitech Publishing 2011: ISBN: 978–1–891121–00–5

Institute for Defense Analyses, Research of Ground-Penetrating Radar for Detection of Mines and Unexploded Ordnance: Current Status and Research Strategy, 1999: https://apps.dtic.mil/dtic/tr/fulltext/u2/a374029.pdf

Vick, A., et.al., Enhancing airpower’s contribution against light infantry targets, RAND publishing, 1996: ISBN: 0833023896

Carin, L., Felsen, L.B., Ultra-Wideband, Short-Pulse Electromagnetics, Springer Science & Business Media, 2013: ISBN 1489913947

編集/管理:熊谷 訓果/ SRIインターナショナル日本支社