心臓日記第1部 その2──ICUパート1
ICUに入ってベッドに寝かされる。時計を持ってきてもらう。真夜中だった。電話の履歴から見ると、救急車到着から6時間強が経っていた。
すでに消灯されているので周りは薄暗い。カーテンで仕切られた左右にもベッドがあって人がいるのが分かる。一部屋は非常に広い。一週間後に通常病室に移ってそれがよく分かった。
ぼんやりと暗い中、しかし眠れるわけもなく、ただぽわぽわとしている。尿道カテーテルの違和感がすさまじくおしっこをしたい感覚が我慢できず、いったん抜いてもらう。しかしその後やはり付けないと駄目、ということで再度挿入される。ここで二回目の大声である。ヘルレイザーでもここまで痛くはない。尿道カテーテルは管を膀胱まで通して貯まった尿を勝手に吸い取ってくれるので尿意というものが発生しない、というのが理解できたのは数日後だった。そしてそれを貯めているビニールバッグは真っ赤になっている。
時計を見る。まだ夜中。ちょっと目を離す。もう30分くらい経ったか、と思って時計を見ると5分しか経ってない。その繰り返し。眠気もなにもない。ずっと時計を見ている。ものすごい感覚だった。
そうこうしていると夜が明けた。2日目になったということだ。
その日だったか、先生の言葉。「体の内部のダメージがひどいです」「腎臓にもダメージがあります。それで血尿が出ています。最悪人工透析もあります」。泌尿科の先生も来る。真っ赤なビニールバッグを見て相談している。薬を変えるという。実際には数日後にそれで血尿は収まり、人工透析は免れることになる。
看護師さんに、脚はぜったいに曲げないでねと言われる。こういうところは素直なので、ほんとうにぜったいに動かさない。眠る時は動いたら怖いのでベッドに縛ってもらう。
その2日目にペンギンが来てくれる。お水やスプーンやお箸やその他いろいろを買ってきてくれた。聞くと1日目の夜にも来てくれていたそうだ。しかし手術が長引いてまったく終わる気配がないので、一度家に帰ったという。あとから「ICUの最初の日に話していたこと、自分で何も覚えてなかったよ」と言われる。そうなの? 意識あったのに? と思うが、実際にはぽわぽわしていただけだったんだろう。
食事は3日目からだったろうか。いきなりふつうのお米とおかずが出てきて、お米を一口食べたらもうそれ以上は無理だった。次から重湯にしてください。おかずも細かくて柔らかいものにしてください。とお願いする。
毎日採血、レントゲン、心電図。すべてベッドの上で行われる。何も考えずにやられっぱなしだったが、単に動ける状態ではなかっただけのことだった。
両手両腕には針がいっぱい刺されている。手の甲にも針が刺さっている。片手首は動かないように固定されている。点滴袋も3つくらいある。手首の動脈に刺されている針は、ここから採血をするので毎回針を刺さなくてよくなるものだった。採血の時以外は何かに繋がれいていたようだがよく覚えていない。そして人生初の輸血もされた。手術中の出血がそれくらい多かったようだ。ビニール袋に誰かの血が入っていて、それを体内に入れられる。とは言えなにか特別なことが起こるわけじゃない。でもなんだか特別な気持ちになった。
ICUには血圧・心拍数・脈拍・心臓の動きなどがリアルタイムで見られる機械が設置されている。しかしそれが頭の後ろにあるので、スマホのインカメラで頭の後ろを映して見る。心拍数が140、血圧は70台/40台で、それがずっと続いていた。体温は手動計測だが、これも常に38度以上。風邪でこれだとしんどくて仕方ないはずなのだがそんなことを感じる力もなく、ぽわぽわしているだけである。ただ身動きが取れないので、うーうー言いながら上半身を左右に動かしていた覚えはある。
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