#3. 白と黒の間
今日は受験生の頃、そして社労士取得後も疑問に感じていた「どこからが法令違反に問われるのか」について、徒然なるままに書いてみたいと思います。
これは現場だからこそわかる、おもしろいテーマかなと思います。
あくまでも「感覚的」な話なので、鵜吞みにはしないでくださいね。(笑)
法律を100%守れている会社は無い
労働者を雇っていて、労働基準法をはじめとした労働関連の法令を100%守れている会社は、世の中にほぼ無いと思っています。
「そんなこと無い!うちは100%白だ!」という経営者の方、例えば以下はどうでしょうか。
・休憩を60分(6〜8時間以内の場合は45分)、電話対応などさせず自由に取らせている
・勤怠を間違いなく集計し、残業代(時間外・深夜・休日)を1円も間違いなく計算できている
・労働者代表は、選挙や挙手等の適切な方法で選出している
・募集時に年代や性別を限定するような記載をしていない(限られた一部の例外を除く)
・パートや契約社員の雇用契約書には、相談窓口を記載している
・定期健診を毎年実施し、会社負担で漏れなく受診させている
・職場に必要な明るさの照明を備えている(精密な作業300ルクス以上、普通の作業150ルクス以上など)
上記は一例ですが、なかなかすべての法令を守るのは大変です。
多くの会社が白と黒の間で、できるだけ白に近づけるよう努力している、そんな感じではないでしょうか。
(そして私たち社労士等は、白に近づけるサポートしている)
労働法違反に問われるとき
労働者を守る法律は労働基準法だけでなく、労働契約法、最低賃金法、労働安全衛生法、男女雇用機会均等法、高年齢者雇用安定法、障害者雇用促進法…それに付随する施行規則や細かな通達も数多くあります。
それをすべて把握しクリアするのは、かなり難しいと思います。
では、どんなときに違反を問われるのでしょうか。
数年前に某大手広告代理店が違法残業による労働基準法違反で書類送検されたニュースは記憶に新しいと思います。
違法な長時間労働とパワハラによる過労自殺が労災認定され、そこからわずか3か月で書類送検。当時メディアで大きく報じられました。
残念なことにそれぐらいの残業は世の中ザラにありますし、過労自殺がなければ当時は書類送検まではされていなかったでしょう。
書類送検のような真っ黒な例は置いておいて、経営者として気になるのは、どれぐらいで法違反に問われるものなのか、ではないでしょうか。
違反に問われるまでの段階
労働基準法に違反したからといって、すぐに罰則が科されるわけではありません。
先ほどの説明の通り、多くの企業が気がつかないうちに違法状態だったりするのですが、多くの場合は「臨検」がきっかけで明るみになります。
臨検というのは、労働基準監督署が立ち入り調査することなのですが、労働者からの申告による場合もありますが、以下のパターンが多いようです。(あくまでも経験則です)
・重大な労災事故が起きた
・届け出た36協定の残業の限度時間が高すぎる(月90時間以上など)
・裁量労働制を実施している
・製造業や建設業
また、特定の業種に絞ったキャンペーン的なものであったり、定期監査で無作為に選ばれたり、監督官がふらっと立ち寄っただけ、というケースもあります。
ほとんどの場合は、「〇月○日までにアレとコレ準備しといてね」でいったん終わって、後日改めてやって来ます。
しかし残念なことに、臨検が入ると「何も問題ない」とはなりません。
顕在化していなかったいろんなことが発覚するものです。
・残業代が正しく支払われていないorサービス残業がある(未払い残業代)
・時間の裁量が無く管理監督者とは認められない(名ばかり管理職)
・36協定違反(限度時間を超えている、特別条項の発動手続きが不適切)
・年休5日取れていない(最近ルール化されましたね)
ずいぶん前のことなのですが、とある優良な中小企業にふらっと臨検が入りました。
その会社は給与水準も高く、社員を大事にするとても良い会社だったのですが、残業代の未払いを指摘されてしまいました。
休日出勤が多い業種で、「休日出た分はちゃんと休んでリフレッシュしてもらいたい」という趣旨で必ず振休(振替休日)を取るルールだったのですが、予定していた日にお休みを取ることがなかなかできず、社員の振休はどんどん積みあがっていました。
本来は振休を取れなかったときに「休日手当」を払えば良いのですが、月をまたいでの振休に勤怠システムが対応しておらず…
臨検後、人事は手作業での過去1年間の計算に追われて大変そうでした。真摯に対応したことで、事なきをえました。
このように、労基署の指摘に真摯に応じればそれでだいたい終わるのですが、きちんと応じなかったり、そもそもが悪質だったりすると、違反状態を是正するように指導する是正勧告というものが出されます。
是正勧告は行政指導であって強制力はありませんが、従わないと最悪の場合は書類送検となり、懲役や罰金などの罰則を科されることになります。
是正勧告や書類送検よりも怖いこと
是正勧告や書類送検ももちろん大変ですが、やはり企業活動において一番怖いのは、社会的制裁としての「企業名の公表」ではないでしょうか。
最近は是正勧告であっても企業名公表がされることも増えてきました。
今はネット社会なので、ブラック企業のレッテルが貼られて、人材が集まらないだけでなく、顧客からも嫌われ、取引先から契約を切られ…
経営が立ち行かなくなることもあります。
さいごに
今日は法律そのものというよりは、法律を守らないとどうなるのか、という感覚的な話をしました。
途中でいろいろ違反となる例も列挙しましたが、本当にすべての法令を守るのは難しいんです。
経営者として人を雇う以上はついて離れない問題なので、専門家のアドバイスを仰ぎながら、真っ白にはできなくても、「少しでも白に近づける」という努力が必要なのだと思います。
【ご注意】
・内容を簡単にまとめるため、細かな法令や文言が抜けていることがありますことご了承ください。
・記載時点の法令に準じております。