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35年前の旅⑤ウィーンで何があったか

 ミュンヘンから5時間。ウイーン西駅についた。
インフォーメーションに行こうと歩いていると、パンツにランニング(タンクトップというより、まさしく下着)のおっさんが「奥さん、奥さん」と話しかけてきた。無視していたら、次に日本人の女性が、自分のペンションに来てほしいと必死に誘うので、行ってみることにしたら、さっきのパンツ男がご主人だった。

 ちなみに、ドイツ語の成人女性のことはフラウ、フランス語だとマダム、
日本語では呼びかけの言葉がないので「奥さん」と呼びかけるのも仕方がない。ちなみに少女はフロイライン(フランス語はマドモアゼル)。

 さて、そのペンションは四人部屋で、あとの二人は大学生だった。しかも何泊目かは男子!  お互いに少々気をつかったと思う。
 シャワーはお湯を長く使うと水になってしまうとか、旦那がかんしゃく持ちでしょっちゅうケンカしているとか、よくしゃべる奥様と、ティンパニー奏者のご主人、いいコンビだった。
 テーブルに日記帳。宿泊者が書いたもの。中を見たら主に大学生の記で、いかにも学生、おかしいのかわいいのって二人で大笑いした。
 
 ウイーンは35年前、ヨーロッパの大都市ではいちばん治安がいい、住みやすいと言われていた。印象としては、古くて落ち着いて洗練されているが、スマートな反面、キドリを感じるというか、住民が夏のバカンスに出かけていて人が少なくて、どこか暗い感じがして、あまり好きではなかったのを覚えている。
 トシになった今なら快適かもしれないけどね。

 その日の夜は、ウイーンらしく、コンサートだ。もちろんクラシックなのだが、ジョーク交じりで笑いながら聞いた。
 
 ベルベデーレ宮殿。またまた豪華で…でも、ドイツのギタギタに比べたら、センスよくまとまっていたかも。
 ここでクリムトの絵の本物を始めて見たんだった。金箔の迫力!

ウイーンの街には壮麗な建物が並んでいた。これ、何の建物かはわからない。

   翌日は、スペイン式馬術のショーにでかけた。馬術を生で見たのは、初めて。馬さん、なめらかに動くんだな~と感心したりした。友人は馬術部だったので、堪能したと思う。
 
 有名なデメルという喫茶店で、これまた有名なザッハトルテでお茶をした。ひたすら甘くて、私にはイマイチだった。でも久しぶりに、日本の喫茶店と同じタイプのお店だったので満足。

 翌日、ウイーン最後の日。
この日も忙しく出歩く。若かったな~と思う。
 シェーンブルン宮殿に行き、ツアーで見学した。伊万里の部屋があったりしたが、豪華ではあっても、今までの城とは異なり、気品のあるお城。さすがハプスブルグ家ってか。
 
 この後、リコンファーム二度目。
 知ってか知らずかの話。そのむかし、国際線を予約していても、ある時期に「乗ります」と宣言しないと、ほかの人に売られてしまってもしかたがない、という制度だった。その「乗ります」宣言が、リコンファーム。
緊張した。しかもアエロフロートだもん。大丈夫かぁ、ってなもんだし。

シュテファン大聖堂。地下の巨大なカタコンベにはペストの犠牲者の人骨が山積み。趣味が悪い。
最も趣味が悪いのは、ハプスブルグ家の人の内臓が入った壺が並んでいたこと。名前付き。

 さて、ウイーンから、EC ドイツ語でオイロシティーの寝台車で、この旅の最後の街、ローマへ。
 荷物を最上階へ引き上げるのに大苦労。でもそうしてよかった事件が起こる。

 眠れるかと心配したが、揺れが少なく、あまり止まらないので、停車のショックがないせいかも。とてもよく眠れた。
 翌朝7時、下のベッドの女性が「私の6000シリングを知らないか」と聞いてきた。今のお金でいくらかな…10万くらいか?  忘れたが、ショックな金額だったと思う。
 車掌に相談してから、パートナー? の男性になぐさめられていた。 

 友人が言ったこと。朝早く、男が自分をのぞいた。「何?」と言ったら、消えたとか。下のカップルの男性だと思ったんだそう。
 ぶきみな。そして盗難はまさしくあるのだ、と思った。無理してカバンを引き上げ、さらに注意して寝ていたので、救われたのかもしれない。

 下のカップルがベネツィアあたりで降りた後、下にカバンを降ろして背もたれにしてすわり、ローマの予習をした。
 その列車はローマを出て、いろいろ車両をつけたり外したりしながら、イスタンブールまで行く「オリエント・エクスプレス」ということだった。
 
 そのうち、ドイツ語を話す老婦人が「自分の部屋は寝台のままになっていて座れないので、座っていいか」と聞いてきた。しばらくたって一度自分の席を見に行ったが、まだ寝台だったらしく、廊下に立っていた。座ってくださいと言ったら、こんどは荷物を運んできたのがかわいらしかった。
 私たちが降りるとき、荷物をよっこらしょとやっていたら、その女性が、ちょうど通りかかった車掌を呼び止めて手伝うように言ってくれた。
ダンケシェーン、フラウ!!
 こういうのが、旅のだいご味!  

   ドイツに話は戻るが、ある電車の中、コンパートメントになった席に、コワモテのおっさんが乗っていた。ナチを率いたあの人ばりだ。でも、私たちが降りる時、良い旅を! と言ったら、ものすごい破顔で返事をくれた。嬉しかったわ。
 こういうのも、旅のだいご味!

 さて、この旅さいごの街、ローマだ。

 
 
 

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