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第56回 社会保険労務士試験 選択式の合格基準予想



まえがき


今年も8月第4日曜日に社会保険労務士試験(以下、「社労士試験」という)が行われました。受験生の皆さん、本当にお疲れさまでした。

受験生を続けられている方はご存じだと思いますが、社労士試験にはドラマがあります。悪問・奇問が当然のように出題され、択一式での出題であれば1点だけですが、選択式での出題であれば、その1問で不合格になる方が続出しているものと想像します。

というのも、社労士試験には選択式は各科目5点中3点、択一式は各科目10点中4点の足切り基準があり、選択式の5点中3点は決して低くない基準です。ただし、受験者の得点分布により足切り基準が下がることになるのですが、合格発表までわからず、この基準について、過去にはTACの平均点が3.5点以下だと2点救済が行われる可能性が高いという「TAC3.5点説」とか、いろんな説が流れていました。

第47回(平成27年度)までは、 「※上記合格基準は、試験の難易度に差が生じたことから、昨年度試験の合格基準を補正したものである。」 の一文で示され、どうして選択式の2点救済は行われないのか、択一式で1点足らず納得いかない受験生があふれていました(多分)。 ということで、今もそうだとは思うのですが、試験日から合格発表まで5ch(旧2ch)が盛り上がっていました。

しかし、社労士試験は遊びではなく、ただでさえ、悪問は言い過ぎでも合否に直結する奇問が当たり前のように出題され、合格基準も納得いかない多くの受験生達からの猛クレームや情報開示請求が行われたと推測していますが、第48回(平成28年度)に厚生労働省から「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」が公表され、以後、科目得点状況表まで公表されるようになりました。

「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/sankou1.pdf

公表された「社会保険労務士試験の合格基準の考え方について(参考1)」には科目最低点の補正についても記述があり、選択式のいわゆる2点救済について内容をまとめると 「全受験生の各科目の得点について3点以上の割合が5割未満で、2点以上の割合が7割未満(1点以下が3割以上)の場合に2点救済が行われる」ということになります。

各科目の分析

それでは、さっそく各科目について、感想と合格基準予想をしてまいります。


労働基準法及び労働安全衛生法

ABCが労基、DEが安衛。

労基はまあこなせる問題。安衛は特別簡単なわけではなかったけれど、難易度がはっきりわからない。

Eは「労働者死傷病報告」の届出期限に関する問題で、雇用した、退職したという単なる事実の報告ではないため、期限を「何日以内」とした場合、提出が難しい場合がある。たとえば、死因の特定に期間を要する場合があるかもしれない。勉強して憶えていて正解肢を選べた人はすごい。選択肢に「直ちに」「速やかに」「遅滞なく」「翌月末日までに」の4択だったら難問だったかも。

ちなみに、4日未満の場合は四半期ごとにまとめて提出するのが基本(だと思う)。 DE両方外したら3点確保厳しくなる面はありますが、それは毎年のことなので、2点救済はないとしていいのではないでしょう。


労働者災害補償保険法

今回の選択式では「労災」が一番簡単だったように思います。 給付に関する出題、ABCDを外した人は社労士試験合格できないでしょう。それくらいの超基本問題。 Eは⑫、⑳の2択だが、取れても取れなくても合否に関係ないでしょう。 まあ、特筆することもなく2点救済はないとしていいのではないでしょう。 最低4点確保してほしいです。

雇用保険法

選択肢に数字が多いためだと思われますが、A~Eの問いに対し、すべて4択回答となりました。マークシート配られたときは雇用保険難しいのかなと思われたのではないでしょうか。 ABCが育児休業に関する問いできちんと勉強できていれば余裕。DEはちょっと難しいように思いますが、できなくてもABC3点確保以上は求められるところでしょう。

2点救済はないでしょう。

労働に関する一般常識

Aは、受験生にはなじみが薄いと思うのですが(一般常識対策に含まれているのかどうかわからない)、トラック業界の2024年問題がこの「改善基準告示」なんです。なお、トラック以外にもバス、タクシー・ハイヤーも関係します。難易度がわからない。予備校などの対策範囲に含まれているのかどうか全く不明。 ちなみに、関係ある人にとっては基本です。

Bは試験対策の中に入っているレベルの問いだと思います。 Cはわからなくても正解肢が一番無難と思い選ぶのではないでしょうか。 Dはこの中では一番難しいのではないかと思います。

Eは外せない。 B、Eの2点を確実に取り、Cが取れれば問題なし、取れなかったらADどうかという感じ。 一般常識というだけあり、幅広い範囲から出題されたこともあり、5点は無理でも3点以上は求められるでしょう。

社会保険に関する一般常識

Aの解答となりえるのは⑤⑥⑦⑧。正解肢でなければ問題としておかしいでしょう。わかるわけない出題になる。 Bの解答となりえるのは①②③④。第1号被保険者は65歳以上なのだから高齢者人口が人口の約30%だとして、約3600万人になることがわかれば、正解肢選べる。 Cは国民健康保険法、DEは高齢者医療確保法の目的条文が出題されました。抜かれているところも勉強していれば難しくない。

5点取れても全然おかしくなく、実力差が出る良問セットではないでしょうか。 2点救済はないでしょう。


健康保険法

今年のメインディッシュです。他の科目を終わらせ、残りの時間丁寧に取り組む必要があったように思います。

きちんと、選択肢の仕分けをしてみても、DEは4択に仕分けができなかったのではないでしょうか。 Aは知識でわかる人は限りなく少なく、Bは知っていることが求められる。

CDEが全部外すと最高でも2点になってしまう。療養費、訪問看護療養費、家族訪問看護療養費と家族療養費の理解がしっかりできていれば難なく解けますが、条文や規定をしっかり知識として持っている人はほとんどいないのではないでしょうか。 まあ、それでもCDについては正解が求められるセットでした。

文脈に混乱して3点確保できなかった人が一定数いそうですが、それでも3点確保が難しく、2点救済があるのかと言われればないと思います。


厚生年金保険法

厚生年金はもともとの内容が難しいので標準的な出題でも厳しいことも多いですが、今回の出題は簡単だったのではないでしょうか。 ABCDは基本、Eがわかりにくいけれど、合否に関係ない1問です。

厚生年金が苦手な受験生は多いと思いますが、ABCDのうちの3点確保は難しくなく、2点救済はないといっていいでしょう。

国民年金法

ABCは保険料の納付に関する内容の出題がされました。 特に択一の勉強では給付に関する内容が占める割合が大きいので、しっかり範囲全体の勉強ができているかどうかの差が出る分野だと思います。 Dは子の要件、Eは死亡一時金の受け取れる範囲。 この2問は基本問題で外せないでしょう。

労災に次ぐ簡単な科目だと思いますが、選択式対策の勉強していない人はABCで苦戦するように思います。

2点救済はないでしょう。


総括と結論

今年の社会保険労務士試験選択式の出題についても、実力上位層なら運悪く足切りに引っかかるような出題では決してなかった。 各科目5点は難しいけれど、基準点割れは考えにくく、全体的に例年より簡単で良問だったのではないでしょうか。 まず、厚生年金の難易度が低く年金科目を苦手とする多くの受験生が助けられたのではないかと推察いたします。 その代わりといえばなんですが、健康保険が今年はいちばん難しかったけれど、丁寧に取り組めば3点確保はどうにかできる出題でした。 労一、社一も突拍子もない出題は過去のものとなったのかなあと感じました。 個人的には、「自動車運転者の改善基準告示」が資格の学校や社労士Vなどの直前対策にどこまで含まれていたのかどうかが興味深いです。

選択式は40点満点の合格基準点27点か28点。2点救済科目なしと予想します。

27点か28点に意味はなく、3点割れなければこれくらいあるでしょう。 また、36点でも40点満点でも関係ない、同じです。たまに、選択式高得点のマウントポストがありますが、くだらないです。

ご精読ありがとうございました。

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