きいてかくタネ:5粒め「へこまないで! 添削の赤字は成長のサイン」
文章を書いて、真っ赤になって戻ってきた経験はないだろうか。赤ペンでビッシリ直された原稿を見ると、キャリア20年以上でも正直へこむ。だが実は、その「赤字」こそが成長の第一歩なのだ。
会社を立ち上げてから、他のライターの原稿を添削する機会がグンと増えた。別に私が偉くて文章が上手いから添削しているわけではない。単に立場の問題である。
でも、原稿を客観的に見ていくと、不思議と細かな問題点が見えてくるものだ。そして、気づいたのが、どんなにすごいライターでも完璧な原稿は書けないという事実だ。私の原稿だって他の編集者にチェックしてもらったら、きっと真っ赤になるはずである。
問題は、その赤字の量である。ライター歴が3年を超えると、100点満点中だいたい70~80点くらいの原稿が書けるようになってくる。つまり、添削する時間もグッと減るのだ。
ところが、歴3年未満の経験が浅いライターの場合、赤字の量はかなりのものになる。100点満点で考えると、50点超えたら上出来といったところだ。場合によっては30点にも届かないこともある。
そんな原稿の添削には、想像以上に時間がかかるのだ。書き直してしまえば早いのだが、署名記事の場合はそうもいかない。最近は精神的に繊細な人も多いので、フィードバックの言葉選びにも気を使う必要がある。
さらにいろいろ考えていったら、3年未満のライターの原稿には、こんな共通点があることに気づいた。
【駆け出しライターの原稿にありがちな5つの課題】
1. 表現のワンパターン
同じ言葉や表現を繰り返し使ってしまう傾向がある。例えば、レストランのレビューで「料理が美味しかった。デザートも美味しかった。ドリンクも美味しかった」というように、「美味しい」を連発してしまう。これを「料理は味付けが絶妙で、デザートは甘さ控えめな仕上がり、ドリンクは香り高く洗練された味わい」と表現すれば、ずっと読みやすい文章になる。
2. 語彙力が物足りない
物事を表現する言葉のバリエーションが少なく、同じような表現に頼りがちだ。例えば、スポーツ選手の活躍を伝える記事で「すごい選手だ。すごいプレーを見せた。すごい結果を残した」と書くのではなく、「圧倒的な実力を持つ選手だ。観客を魅了するプレーを披露し、記録的な成績を残した」というように、具体的で多様な表現を使うことができる。
3. 視点がブレブレ
文章の中で主語が頻繁に切り替わり、誰の目線で書かれているのかが分かりにくくなってしまう。映画レビューでよく見られる例を挙げると、「この映画は感動的だった。監督は新しい試みをしている。主演俳優の演技が素晴らしい。私は涙が止まらなかった。観客も感動していた」という具合だ。これを「私はこの映画に深く感動した。特に主演俳優の繊細な演技と、監督の斬新な演出に心を揺さぶられた」と、視点を一貫させることで、説得力のある文章になる。
4. 個性が薄い
自分なりの表現や感性が出せず、どこかで見たような無難な表現に終始してしまう。例えば、音楽レビューで「良い曲だと思います。メロディーが印象的です。歌詞も心に響きます」という書き方は、どこにでもありそうな表現だ。これを「深夜のドライブで聴きたくなる曲だ。耳に残る印象的なメロディーが、都会の夜景にぴったりと溶け込む。歌詞は、誰もが一度は感じたことのある切なさを鮮やかに描き出している」というように、自分ならではの感性を織り交ぜることができる。
5. 焦点がボヤける
何を一番伝えたいのか、ポイントが明確になっていない文章になりがちだ。商品レビューでよくある例として「このスマートフォンはデザインが良く、カメラの性能も高くて、バッテリーも長持ちする。画面も大きい。ケースも豊富だ。値段も手頃だ」という羅列型の文章がある。これを「コスパ重視のユーザーに特におすすめしたい一台だ。手頃な価格でありながら、日常使用に必要な機能は全て高水準。特にバッテリーの持ちの良さは、外出の多い社会人に重宝するだろう」というように、誰に、何を、なぜおすすめなのかを明確にすることで、説得力のある文章になる。
赤字を入れられた箇所を見ると、「なるほど、確かに!」と思う。でも、また同じことを繰り返してしまう。それは、学んだことが体に沁みついていないからだ。
これらの問題を改善するためには、日頃からこんな取り組みをするのが効果的だと思う。
1. 観察力と分析力を磨く
- いいなと思った表現はすぐメモする
- 「なぜそう感じたのか」と考える習慣をつける
- 五感をフル活用して観察する
2. 語彙力アップ
- 質の高い文章をたくさん読む:新聞の社説、文芸誌の書評、プロのブログなど
- 新しい表現を見つけたら、実際に使ってみる
- 同じ意味の言葉をリストにしてストックしておく
3. 構成力を高める
- 記事を書く前に必ずアウトラインを作成する
- 「起承転結」や「5W1H」を意識する
- プロの記事の構成を分析してみる
4. 読者のことを考える
- 「読者は何が知りたいのか」と考える
- 書いた後で、読者の立場になって読み返す
- 他者に読んでもらって、感想をもらう
5. 推敲する習慣をつける
- 必ず時間を置いて読み返す:できれば一晩置くのが望ましい
- チェックリストを作って確認する
- 声に出して読んでみる
どれも、若い時に自分が実践してきたことだ。今も続けていることもある。地道な作業だが、こうした努力は絶対に裏切らないので、やってみる価値はあると思う。
細かく挙げたが、一番大切なのは「赤字を怖がらないこと」である。添削された原稿を見て落ち込むのではなく、「これも勉強になる」と捉えられるようになるといい。赤字はダメ出しではなく、成長するためのヒントなのだ。
文章を書いて、直されて、また書く。これはライターにとって永遠に続く道のりである。
だが、それは決して悪いことではない。
むしろ、人間はいくつになっても成長できるという証。ライターとして生きていこうと思ったら、そう思うしかないと思う(あ、“思う”が続いてしまった。ボキャブラリー無いなあ……)