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同じ横丁に2軒あるのは、もしやあの●●戦略というやつですか?〜湯島・岩手屋〜

誰が呼んだか「おばけ横丁」。春日通りの南側に並行する裏路地の飲み屋街だ。

住所は文京区湯島3丁目。かつて芸者の置屋が数多くあり、スッピンで来たのが化粧で化けて出て行ったからこの名がついたそう。

そんなおばけならぜひとも会いたいと、心ときめかせJRの上野御徒町駅から向かった。

春日通りを天神下へ。途中のドン・キホーテ手前の路地をちょいと左へ入る。と、昭和レトロな飲み屋街の景色が広がる。

木の格子戸やのれんがかかる居酒屋だけでなく、怪しげなスナックが集まる雑居ビルがあるのもかえって雰囲気だ。

ただし芸者の置屋はすでになく、バルなど新しめの店も多いが、すんなり溶け込んでいるのは古い街の力だろう。 

上野に近い場所柄、郷土料理の店も多い。中でも代表格は「岩手屋」だろ。“奥様公認酒場”のキャッチフレーズも有名な老舗酒場。本店と支店の2軒ある。なぜ同じ場所にあるのか。客を食い合わないのだろうか。

気になって、両方訪ねてみた。

まずは支店の「七福神 岩手屋」。ドンキの手前の路地から入って1つ目の辻にある。創業は昭和47年。紫ののれんが目印だ。

開け放たれた玄関から見えるL字型のカウンターに空きがある。サッと入って座り瓶ビールを注文。期待どおりに赤星、つまりサッポロのラガー。わかってるねえとココロの中でつぶやく。

喉を潤したら日本酒だ。こちらは盛岡の「菊の司酒造」の酒がずらり。色々有りすぎて迷うが、店名の「七福神 純米辛口」を頼む。

しばらくして、時代劇のような焼き物の徳利で出てきて思わずテンションが上がる。同じ酒でも容れ物が違うと酔い方も違うような気がする。

ホワイトボードには岩手の地魚や郷土料理がこちらも目白押し。やはり迷ったが「みのむしなんばん」と「タラの昆布じめ」をリクエスト。

みのむしなんばんって?

出てきたみのむしなんばんは、なるほど醤油漬けのニンジンをシソで巻いた姿がそれっぽい。ピリ辛で酒が進む。

東京では珍しいタラのお造りもたんぱくで辛口の酒に合う。

常連客は皆きさくで「オススメはね……」と色々教えてくれるのが新参者にはありがたい。

* * *

少し離れた場所にある本店は、打って変わって厳かな雰囲気。

創業は昭和24年。長いカウンターに年配の常連客が1人座り静かに杯を傾けていた。

陸前高田の「酔仙」のヒヤと南部せんべいを注文。

やはり焼き物の徳利で出てきた。

普通はお茶うけの南部せんべいを肴に飲るのもこうした店ならでは。

雰囲気がまるっきり逆で、どちらも甲乙つけがたい。

静かに飲みたい時は本店だろうし、ちょっと話したい時は支店と──なるほど、うまく棲み分けが出来ている。

そうなれば、近くにあるメリットは大きい。元々親族経営、何かあれば客や食材を融通しあえるだろうし、2軒あったほうが、店の認知率は高まる。

湯島では群を抜く存在感だが、まさかのドミナント戦略のたまもの?

温故知新。居酒屋商売は奥が深い。








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