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きいてかくタネ:9粒め「人見知りは才能だ」

プロのインタビューライターとして20年以上、数え切れないほどの人々の人生に触れてきた私は、躊躇なくそう断言します。一般的に「克服すべき課題」とされる人見知りこそ、実は他者の心に寄り添える稀有な才能なのです。

とはいえ、人見知りに悩む声が後を絶たないのも事実です。「仕事上のお客様とは普通に話せるのに、同僚との何気ない会話に気後れしてしまう」「初対面の人と話すのが怖くて、貴重なチャンスを逃してしまう」――。一見したところ社交的に振る舞える人でさえ、実は内なる壁と日々格闘しています。それほど、この悩みは根深いのです。

でも、ここで立ち止まって考えてみましょう。そもそも「人見知り」とは何なのでしょうか。それは端的に言えば、「相手と自分の間に壁を築くこと」に他なりません。ところが興味深いことに、この壁は決して怠惰や無関心から生まれるものではないのです。むしろ、相手への繊細な気遣いと自己への鋭敏な意識が生み出す、極めて知的な防衛反応なのです。

例を挙げてみましょう。「自分がつまらない人間だと思われたくない」「会話が途切れるのが怖い」「相手の時間を無駄にしてしまうのではないか」――。これらの不安は、裏を返せば、相手を思いやる心の表れではないでしょうか。

日々、初対面の方々と深い対話を重ねるインタビューライターとして、私はある確信を持つに至りました。人見知りは「克服」するものではなく、むしろ「活用」すべき才能だということです。

というのも、人見知りがもたらす恐れの数々は、適切に方向付けさえすれば、むしろ強みに転じるからです。「自分がつまらない人間だと思われる恐怖」は、謙虚に相手から学ぶ姿勢へと昇華できます。「何を話せばいいかわからない恐怖」は、かえって積極的な傾聴の態度として活きてきます。さらには「話が続かない恐怖」も、相手の言葉に真摯に耳を傾ける集中力となり得るのです。

殊に注目すべきは、人見知りな人特有の距離感覚です。確かに初対面の際は慎重になりがちですが、いったん心を開けば、その繊細さゆえに相手の微細な感情の機微まで掬い取ることができます。これこそ、深い対話を可能にする何物にも代え難い資質ではないでしょうか。

事実、私のこれまでの取材経験において、「つまらない人生」は一つも存在しませんでした。千差万別の人生模様に触れるたびに痛感するのは、話を深めれば必ずや、その人ならではの輝きに出会えるという真実です。問題は相手ではなく、その光芒を引き出せるかどうかにあります。

実を言えば、私自身もかつては人見知りで、目の前の相手に何を話せばいいのか分からず、言葉が喉元でつかえることも少なくありませんでした。頭の中では伝えたいことが渦巻いているのに、それを適切な言葉として紡ぎ出せない歯がゆさを幾度となく味わってきました。しかし、インタビューライターとして様々な人生に向き合い、対話を重ねるうちに、その苦手意識は次第に薄れていきました。むしろ、かつての人見知りゆえの繊細さが、相手の言葉の襞を丁寧に読み解く力として昇華されていったのです。

そして特筆すべきは、適度な距離感を保ちながら深い対話を実現できるのも、実は人見知りならではの才能だということです。どんなに心を開いて語り合っても、それは一期一会の出会い。しかし、その一期一会が、かけがえのない人脈やビジネスチャンスを生む種となることも少なくありません。

要するに人見知りとは、相手の心の奥深くまで寄り添える可能性を秘めた、むしろ稀有な才能なのです。この才能を磨き、活かす術を身につければ、あなたの前には間違いなく新しい世界が開けるはずです。

人見知りは、実は豊かな人間関係への入り口なのかもしれません――。そう確信しながら、私は今日も、新たな出会いに臨んでいます。

(いからしひろき)​​​​​​​​​​​​​​​​​​​

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