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ワクチンの陰謀①
あらすじ
中村涼介は冷蔵庫修理の仕事に追われる日常の中で、亡き母の急死に不審を抱いていた。母はワクチン接種後に突然亡くなり、医者は「自然死」と片付けたが、涼介は納得できず、疑念を深めていた。ある日、ネットの掲示板で天城製薬の不正を示唆する情報を見つけた彼は、調査を開始。友人の翔太と看護師の麻衣の協力を得て、製薬会社の隠された秘密に迫る。
涼介たちは内部告発者の片瀬修一を見つけ、彼の協力を得て天城製薬の極秘施設に潜入。そこでワクチンに関する不正データと、さらなるパンデミックを計画している証拠を掴む。しかし、この情報を公開すれば自分たちにも危険が迫る。涼介は母の死の真相を明らかにし、正義を貫くため、覚悟を決めて真実を世に示そうとする。
プロローグ
冷蔵庫の修理作業を終えた中村涼介は、古びた作業車に工具を積み込むと、思わず立ち止まり空を見上げた。都会の空はいつも通り灰色で、まるでどこかへ続く道を塞ぐかのように、重苦しい雲が覆い尽くしていた。排気ガスと埃が混じる空気を胸いっぱいに吸い込むと、少しばかりむせそうになった。
「中村さん、次の現場に行ってくれ。」
無線から響く店長の声は淡々としていた。涼介は短く「了解」とだけ答え、車に乗り込んだ。エンジンをかけると、軽い振動が体に伝わる。目の前には、仕事用の地図と次の依頼先が記された紙が置かれていたが、どこかその一切に興味が湧かない。
アクセルを踏みながら窓越しに街並みを見渡す。高層ビルがそびえ立ち、街路樹は埃をかぶり、足早に歩く人々の顔はどこか疲れ切っていた。灰色の空に閉ざされたこの街には、鮮やかな色がどこにも見当たらない。
母親が亡くなったのは半年前だった。ワクチン接種後の突然の発熱が彼女を襲い、わずか3日で帰らぬ人となった。その死はあまりにも急だった。医師は「高齢者のよくある例」と片付け、死亡診断書には「自然死」と記されたが、涼介はその言葉に納得できなかった。
涼介の母は丈夫な人だった。畑仕事を楽しみ、よく近所の子供たちと触れ合っていた。体調を崩した姿など、ほとんど見たことがない。それなのに、なぜあのワクチンを接種した途端、命を落とさなければならなかったのか。
その後、彼の心には一つの疑問が棲みつくようになった。
「あのワクチン、本当に安全だったのか?」
疑念は日々膨らむばかりだった。修理作業の合間にふとした瞬間、その問いが胸の奥から湧き上がる。だが答えはどこにもない。
その日の夜。疲れ切った体をソファに投げ出し、ふと目に止まった母親の写真を手に取った。家族旅行で撮影した一枚で、母の笑顔は生き生きとしていた。その笑顔がもう二度と見られないことを思うと、胸が締め付けられる。
涼介は立ち上がり、机の上に置いたノートパソコンを開いた。薄暗い部屋の中で画面の光だけが頼りだった。指先は半ば無意識に検索エンジンを操作し、「パンデミック」「ワクチン副作用」「製薬会社」といったキーワードを次々に打ち込んでいく。
画面には膨大な情報が溢れ出した。ワクチンを支持する医師や研究者の意見、反対派の主張、陰謀論的な投稿、そしてその全てを煽るような刺激的な見出し。涼介は次々にリンクをクリックし、読み進めた。
議論の混沌の中、一つのブログが目に留まった。それは他の記事とは一線を画すものだった。
「天城製薬は真実を隠している。」
短いその一文が、涼介の中で何かを変えた。心の奥で燻っていた疑念に火がついたような感覚だった。ブログ内に貼られたリンクをクリックすると、そこには暗号化された掲示板が現れた。
掲示板の背景は暗く、メッセージは匿名のユーザーによって投稿されていた。彼らの言葉には怒りや悲しみ、そして恐怖が滲んでいた。
「ワクチン接種後に父が亡くなった。医者は偶然と言ったが、本当にそうなのか?」
「天城製薬の試験データに不審な点がある。内部告発者がいるらしい。」
「証拠を掴みたい。でもどうすれば?」
涼介は画面をじっと見つめた。彼が抱える疑問や怒りが、見知らぬ人々の言葉を通して次第に形を成していく。
ふと、掲示板の下部に表示された「もっと知りたいならここをクリック」というリンクに目が止まる。そのリンク先には、不穏な言葉が並んでいた。
「真実を求めるなら覚悟が必要だ。無知のままでいる方が楽なこともある。」
涼介は画面を見つめたまま深呼吸をした。冷たい汗が額を流れる。しかし、彼はためらわずにマウスをクリックした。
その瞬間、彼の生活は取り返しのつかない方向へと進み始めた。
第1章: 不可解な数字
翌朝、涼介は昨晩の掲示板を再び開き、目の前に広がる詳細なデータをじっと見つめていた。天城製薬が開発したワクチンの臨床試験データには、非常に細かく計算された統計情報が並んでいたが、どうにも納得がいかない部分が目立つ。数字が一貫していなかったり、予想外の変動を示していたりする箇所が多かった。
特に気になったのは、ワクチンの効果に関するデータだった。ある試験段階での効果率が急に跳ね上がったり、逆に低くなったりしていた。その変動の原因となるべき情報はすべて削除されており、欠けている部分が多かった。さらに、接種後の副作用に関するデータも、明らかに省略されている箇所が目立つ。
「これは……意図的に隠してる?」
涼介は思わず呟いた。その数字は素人目にも不自然に思えた。どんなに巧妙に見せかけていても、彼の直感が「何かがおかしい」と訴えていた。実際、他の医薬品の試験データに比べて、明らかに不自然な偏りが見られる。調べれば調べるほど、疑念は深まっていった。
涼介は深呼吸をし、決断を下す。彼にとって唯一頼れる友人は、今村翔太だった。高校時代からの親友で、かつてはプログラマーとして働いていた翔太は、今ではフリーランスでセキュリティ関連の仕事をしている。ただし、その仕事の多くはグレーゾーンを行き来するものだった。ハッキングが合法であるかどうかを問うなら、それはまさに微妙なラインを踏み越えた仕事だったが、翔太はそれを平気でこなしていた。
涼介はスマホを取り出し、翔太に連絡を取った。すぐに繋がった。
「おい、翔太。ちょっと頼みがあるんだ。」
「おう、久しぶりだな。どうした?」
「実は、ある製薬会社のワクチンに関するデータを見つけたんだけど、どうにも不自然な点が多くてさ。正直、これが本物のデータかどうかも怪しい。」
翔太は少し考え込んだ後、軽く笑いながら答えた。
「面白そうなネタじゃん。ちょっと調べてみるか。」
涼介はその言葉に少し安堵したが、心のどこかで引っかかるものがあった。それでも、翔太のスキルを頼りに、さらなる調査を進めることにした。
数日後、翔太から進展があったと連絡が入る。涼介は急いで会う約束をし、指定されたカフェに向かった。
翔太は座っている席から顔を上げると、彼の表情がいつもと違うことに気づいた。いつも軽い調子で話す翔太だが、今日は何かを抱え込んでいるような、険しい顔をしていた。
「涼介、これはマジでヤバいかも。」
涼介は少し戸惑ったが、すぐに問いかける。
「どういうことだ?」
「このデータ、明らかに操作されてる。試験段階で副作用が出たデータが、全部捨てられてる。」
「捨てられてるって……隠してるってことか?」
「その通り。」
翔太はしばらく黙り込んだ後、続けた。
「この製薬会社、データを公にすることで販売できなくなるような、致命的な欠陥がある薬を作ってる。試験段階では、実際に接種後の副作用で死者も出ていた。けど、それらのデータはすべて削除されて、表に出ないようにされてるんだ。」
涼介はその言葉を耳にした瞬間、背筋が凍るような感覚を覚えた。目の前に広がるのは、ただの不自然なデータの集合ではなく、命に関わる問題が隠されているという現実だ。
「それって、俺が見つけたもののことか?」
「そうだ。お前が見つけたデータも、氷山の一角に過ぎない。」
涼介はしばらく黙って考え込んだ。もし、これが本当なら、母親の死にも関わっているかもしれない。彼の手の中には、今まさに世界を変えるかもしれない真実があるのだ。だが、同時にその真実を追求することには、大きな危険が伴うことも分かっていた。
「どうすればいい?」涼介は呟くように言った。
翔太は目を逸らさずに答える。
「今はまだ、慎重に進めるべきだ。でも、このデータを公にするには、それなりの覚悟が必要だ。」
涼介は深く息を吐き、決心を固めた。これが単なる偶然ではないことは、もう明らかだ。自分にできることは、真実を明らかにすることだけだ。
第2章: 病院での出会い
母親が亡くなった病院を再訪した涼介は、胸にわだかまりを抱えながらも、あの日を思い出すことを避けていた。病院のロビーに足を踏み入れると、薄暗い空間の中で無機質な明かりが冷たく照らしていた。涼介は、かつて母親が眠っていた病室の近くを歩きながら、当時の記憶を辿ろうとした。しかし、その記憶はどうしてもあまりにも鮮明で、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
彼は冷静になろうと深呼吸し、母親が亡くなるまでの経緯を繰り返し思い出していた。ワクチン接種後、急な高熱が続き、医師たちはその症状を「高齢者のよくある反応」だと説明した。しかし、彼にとってその説明は決して納得できるものではなかった。母親が突然あんな風に倒れたのは、普通では考えられない。
涼介は、まずは病院の医師たちに話を聞こうと決め、診療所のスタッフに尋ねてみた。しかし、すべての医師たちが驚くほど一貫していた。「副作用ではない」と繰り返すばかりで、詳しい説明や疑問に答えてはくれなかった。どこかで口を閉ざしているように感じ、涼介は不安を募らせた。それでも、諦めるわけにはいかない。彼は次に、看護師たちに声をかけてみることにした。
その時だった。涼介の後ろから、小さな声で呼びかけられた。
「あなた、中村さんですよね?」
振り向いた涼介の視界に現れたのは、白衣を着た若い看護師だった。彼女は短い黒髪を束ね、眼鏡をかけた少し地味な印象の女性だったが、その瞳にはどこか鋭いものが宿っていた。涼介は少し戸惑いながら答える。
「……そうですが。」
彼女は周りを気にするように少し距離を取ってから、小声で話しかけてきた。
「私、佐伯麻衣と言います。あなたが探しているもの、私も知っているかもしれません。」
涼介はその言葉に驚き、警戒の念を抱きながらも、麻衣に耳を傾けた。彼女はふと周囲を見回し、他の人に聞かれないように確かめるようにしてから、涼介に近づき、そっと話し始めた。
「実は、ここでのワクチン接種後に奇妙な症状を発症した患者が何人もいるんです。でも、ほとんどの症例は正式に記録されていない。」
涼介は驚きと共に興味を持ち、麻衣に詰め寄った。
「どうしてそんなことが……」
麻衣は小さく息を吐き、ため息をついた。
「この病院は、製薬会社からの資金提供を受けているんです。ワクチンの接種後に問題が出た患者の情報は、ほとんどが隠蔽されています。」
涼介はその言葉にショックを受けるとともに、怒りが湧き上がった。自分の母親も、こうして見過ごされていた可能性があるのだと思うと、胸が熱くなる。
「それって、犯罪じゃないのか?」
麻衣は一瞬、目を逸らした後、静かに答える。
「私もこんなことに巻き込まれるのは怖い。でも、見て見ぬふりはできない。あなたがこれを追い続ける覚悟があるのなら、少しだけ手助けさせてください。」
涼介はしばらく考えた。麻衣の言葉には覚悟が感じられたし、何かを知っているのだろうと直感した。
「頼む……」
麻衣は頷き、涼介をひときわ人目を避けた廊下の一角に案内した。そこには、個室に閉じ込められている患者がいた。麻衣はその病室に鍵を開け、静かに扉を開けると、涼介に中を見せた。
その病室には、ワクチン接種後に異常な症状を引き起こした患者がいた。肌が青白く、目は虚ろで、体中には奇妙な痙攣が見られた。涼介はその患者を見て、言葉を失った。患者の名前や症例はもちろん秘密にされているが、その光景は涼介の心に深く刻まれた。
麻衣は静かに続けた。
「これは氷山の一角に過ぎない。多くの症例がこのように処理されています。病院内の記録も、完全に隠蔽されている。」
涼介はその言葉を聞いて、何かが確信に変わったような感覚を覚えた。目の前の患者の姿、そして麻衣の目に宿る強い決意。彼は深く息をつき、決意を固める。
「これ、どうしても調べなきゃいけない。全てを明らかにするために。」
麻衣は少しだけ困ったような顔をしてから、涼介に小さなメモリースティックを手渡した。
「これを受け取ってください。この中には、病院内の資料が入っています。接種後に亡くなった患者たちのデータ、そして製薬会社から病院への資金提供の記録も……」
涼介はそれを受け取ると、静かに頷いた。
「ありがとう、麻衣さん。必ず、これを明るみに出してみせる。」
麻衣はその言葉に微笑みながら、涼介に背を向け、扉を閉めた。涼介はメモリースティックを手にして、心に強く誓った。どんな困難が待ち受けていようとも、彼は真実を暴く決意を固めていた。
第3章: 製薬会社への接近
涼介は麻衣から受け取ったメモリースティックを手に、部屋でそれをパソコンに挿し込んだ。ファイルを開くと、そこには予想以上に膨大なデータが含まれており、すぐにその内容を理解するのは無理だと感じた。データはすべて高度に暗号化されており、専門家でなければ解読できないようにされていた。
「こりゃ、相当厄介だな…」涼介は眉をひそめてモニターを見つめた。すぐに翔太に連絡を取り、再度助けを求めることにした。翔太はかつてプログラマーとして活躍していた経験があり、今ではフリーランスのセキュリティ関連の仕事をしていた。涼介が見せたデータを前に、翔太は目を細めながら、「これは暗号化のレベルが高すぎる。少し時間がかかるけど、解読はできるかもしれない」と言った。
その間、涼介は再びインターネットに向かって情報を掘り下げる作業を始めた。天城製薬に関する情報は膨大に広がっており、ワクチンに関するさまざまな意見や論争が飛び交っていた。しかし、その中で一つ、彼の目を引く名前があった。「片瀬修一」という名だ。彼は天城製薬の元研究員で、パンデミックが始まる直前に会社を辞めた人物として度々登場していた。その後、どこにも姿を現さず、彼の消息は途絶えていた。ネット掲示板では「内部告発者ではないか」という噂が囁かれていたが、彼の所在を知る者はいなかった。
「修一って人、見つけられないか?」涼介は翔太に尋ねた。
翔太は真剣な表情で頷き、「ちょっと時間くれ。足取りは追えるかもしれない」と言った。
数日後、翔太がようやくその男の足取りを追い詰めることに成功した。片瀬修一は、都会を離れた地方の山間部で隠遁生活を送っているという情報を掴んだ。涼介、翔太、そして麻衣の三人は、車を借りてその住所に向かうことにした。目的地は、道を外れた山の中にひっそりと佇む古い一軒家だった。涼介の胸は高鳴り、何か大きな真実に近づいているような気がしていた。
出会いと衝撃
山道を進むこと数時間。古びた一軒家が視界に入ってきた。家の外観は時が止まったように荒れ果てており、周囲の風景とも相まって不気味な雰囲気を醸し出していた。涼介は深呼吸をしてから車を降り、三人で家の前に立った。
ドアをノックすると、しばらくしてから中から人の気配がして、ドアがゆっくりと開かれた。そこに立っていたのは、白髪交じりの中年の男性で、目には疲れと諦めの色が浮かんでいた。涼介が「片瀬修一さんですか?」と尋ねると、彼は一瞬驚いたような顔をした後、警戒心をむき出しにして言った。
「あなたたち、何者だ? 俺に何を求めてきた?」
涼介は自分の気持ちを抑えながら、ゆっくりと話し始めた。「実は、母がワクチン接種後に亡くなったんです。あなたが関わっていた天城製薬が関係しているんじゃないかと思っています。」その言葉に修一は一瞬表情を硬くし、目を逸らした。
麻衣は少し躊躇しながらも、病院内で収集した患者の症例データを見せた。修一はそれを一瞥すると、しばらく無言で黙っていたが、やがてため息をつきながらゆっくりと話し始めた。
「俺もあの会社の汚い部分を見過ぎた。最初は純粋に研究者として働いていたけど、次第に気づいたんだ。天城製薬は、利益を最優先にして患者の命なんて二の次だってことに。」彼の声は低く、どこか悲しげだった。
涼介はその言葉に衝撃を受けつつも、続けて尋ねた。「でも、なぜ辞めたんですか?」
修一は顔をしかめ、さらに話を続けた。「ワクチンの試験段階で、数々の副作用のデータが隠されていた。会社の方針として、問題のあるデータはすべて無視され、隠蔽されていたんだ。最も恐ろしいのは、パンデミックの終息を遅らせることで、ワクチンの販売を早めようとする計画があったことだ。」
涼介の心は凍りついた。これまで感じていた疑念が、確信へと変わっていった。しかし、修一はすぐに冷たく言い放った。
「でも、こんな証言だけじゃ世の中を変えることなんてできない。私一人の言葉じゃ、何の力にもならない。」
その言葉に涼介は反論する。「確かに、俺たちは一般人かもしれない。でも、こうして動き出すことだってできる。何も知らずにただ座っているだけじゃ、何も変わらない。」涼介は力強く言った。
修一はしばらく黙っていたが、最終的に彼は深いため息をつき、ゆっくりと口を開いた。
「お前らがそこまで言うなら、協力するよ。俺はもう、何も失うものはないからな。」
――続く――