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魔女の舞踏会、輝く心

魔女の秘密の願い

深い森の奥、木々に隠された古びた塔の一室で、マーリスは鏡の前に座っていた。鏡は、かつて彼女の欲望を映し出し、満たすための手段を与えてくれる存在だった。だが、今は静かに彼女を見返すだけ。

「この世で最も美しい者は誰?」

何年も繰り返されたその問いは、かつてのような強い期待を帯びてはいなかった。今では呟くような声で、まるで自分に言い聞かせるかのように発せられるだけだった。鏡は、何も言わない。ただ、彼女自身の顔を映し出すだけだった。

その顔には、かつての輝きは微塵も残されていなかった。瞳は曇り、疲れ果てた表情が刻まれている。頬には深い皺が刻まれ、それは単なる年齢の証ではなく、彼女が抱え続けてきた重荷や後悔を物語っていた。

鏡に映る自分を見つめながら、マーリスの心は過去へと遡っていった。毒リンゴを手にした自分の姿が浮かび上がる。白雪姫の美しさに嫉妬し、彼女を陥れることだけに執着したあの日。白雪姫が毒リンゴを口にし、目を閉じて倒れる瞬間、マーリスは胸の中にかすかな満足感を抱いた。だが、それは長続きしなかった。

白雪姫は愛によって目を覚まし、その美しさと純粋さで周囲を惹きつけ続けた。そして彼女が幸せを手にしたころ、マーリスに残されたのは、誰にも必要とされない孤独と、後悔の念だった。

後悔の夜々

最初は後悔を否定しようとした。自分は間違っていない、白雪姫が持っていた美しさこそが問題だったのだと、自らを正当化した。だが、塔の中で過ごす孤独な時間が長くなるにつれ、その言い訳は意味を失い、胸を締め付ける重みだけが増していった。

彼女は、美しさを取り戻せばすべてが変わるのではないかと考えた。魔法の本を開き、若返りの呪文や美貌を取り戻す薬を試し、肌を滑らかにし、髪を輝かせようとした。しかし、どれも無意味だった。鏡に映る自分の姿は、表面上の美しさを手に入れても、どこか曇ったように見えた。

「こんなはずじゃない…。」

マーリスは鏡の前で何度も呟いたが、鏡はただ彼女を見返すだけだった。

鏡の沈黙

やがて、鏡は声を失った。以前は、彼女の問いに答え、彼女を満たそうとしてくれたその存在が、今ではただ彼女の顔を映し出すだけだった。それは魔法が失敗したわけでもなく、鏡の力が衰えたわけでもなかった。ただ、マーリス自身が変わってしまったのだ。鏡は彼女の真実を映し出していた。

鏡を見つめるたびに、マーリスはそこに「内面の醜さ」を見出した。それは、かつて彼女が白雪姫に向けた嫉妬や憎しみが形を変えて自分自身に返ってきたものだった。いくら外見を取り繕っても、その醜さは消えなかった。

そして、いつからかマーリスは問いかけるたびに恐怖を覚えるようになった。鏡の沈黙は、彼女が受け入れたくない現実を告げていた。

「私が最も美しいと、もう言ってくれないのね。」

問いを口にするたび、その声は次第に細く、弱々しいものになっていった。問いの裏にあるのは、自分の価値を見出せないという苦しみだった。鏡が黙るたびに、彼女の胸には空虚さが広がり、塔の中の時間は重く、冷たいものに変わっていった。

失われた美しさの本質

長い年月が経つ中で、マーリスは徐々に気づき始めていた。美しさとは、他人と比較するものではなく、心から湧き出るものだということに。だが、その気づきは彼女に癒しをもたらすものではなく、むしろさらなる後悔を呼び起こすものだった。

「私が白雪姫を憎んだのは、彼女が美しいからではなく…。」

本当は、白雪姫の美しさの奥にある純粋さや愛される心に嫉妬していたことを認めざるを得なかった。それを奪おうとした自分の行動が、結果として自分の中の美しさをも壊してしまったのだと。

静寂の塔

こうしてマーリスは、深い森の奥にある塔で、自らの罪と向き合いながら孤独に過ごしていた。鏡は今でも彼女の問いに答えなかった。だが、それが彼女にとって罰であると同時に、赦しへの第一歩でもあるように思えた。

問い続ける日々の中で、マーリスの胸の奥に一つの小さな願いが芽生え始めていた。

「もしもう一度、自分を取り戻せるなら――。」

それはまだ形にならない、弱々しい光のようなものだったが、彼女の心の奥底で確かに輝き始めていた。

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