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霊導(れいどう)—心霊スポットの先に待つもの①

あらすじ

大学生の玲央は心霊現象に強い興味を持ち、心霊スポット巡りを趣味としていた。ある日、彼は「幽霊神社」と呼ばれる場所に足を運び、そこで美月という巫女の霊と出会う。美月はかつて神社を守る巫女だったが、外敵の襲撃で命を奪われ、無念の思いを抱え続けていた。

玲央は彼女の悲しい過去を知り、霊の解放を使命としてその真相を探る。調査を進めるうちに、美月が地域住民との対立の中で巻き込まれた悲劇が明らかになる。最終的に玲央は事件を解決し、加害者を逮捕に導く。これにより、美月の霊は無念を晴らし、安らかに成仏することができた。玲央はこれを機に、霊たちの救済を己の使命と感じ、次なる冒険へと進む決意を固める。

第1章: 初めての霊との出会い

玲央(れお)は大学で心霊現象に興味を持つ青年で、日常の忙しさから解放される瞬間を心霊スポット巡りで見つけていた。彼は霊的な現象や伝説に魅了され、それをSNSで発信することでフォロワーを増やしていた。彼にとって心霊スポットを訪れることは、恐怖よりもむしろ刺激的で興味深い冒険のようなものだった。最初は単なるエンターテインメントとして始めたものの、次第に彼の中で何かが変わり始めていた。霊的な現象に対する興味が、ただの好奇心や怖いもの見たさから、次第に「霊たちの心の解放」を求める使命感へと変わっていったのだ。

ある日のこと、玲央は「幽霊神社」と呼ばれる場所に行こうと決意した。この神社は、かつて繁栄を誇ったが、時が経ち、周囲の土地とともに荒れ果てていた。地元では、長年姿を見せなかった霊が集まる場所として知られており、夜になると霊的な現象が頻発するという噂が絶えなかった。その神社は、地元の人々にとって忌避すべき存在であり、ほとんどの住民は近寄らないようにしていた。しかし玲央は、その神社にこそ何か特別なものがあると感じ、カメラと懐中電灯を持って一人で足を踏み入れることにした。

神社の境内に足を踏み入れた瞬間、玲央は異様な冷気を感じ取った。昼間は穏やかな陽射しが差し込んでいたが、ここではどこか不安を煽るような空気が立ち込めていた。突然、周囲の静寂を破るように、かすかな女性の泣き声が耳に届いた。玲央はその声に引き寄せられるように進み、足元に注意を払いながらさらに奥へと進んでいった。霧がかかり、視界が狭くなる中、玲央は気づかぬうちに自分の周りの空気が重くなり、心拍数が上がるのを感じた。

やがて、霧の中から一人の女性が姿を現す。その女性の目は空虚で、どこか憂いを帯びた表情をしていた。玲央はその霊に何かしらの強い引力を感じながらも、恐れずに話しかけた。「君は誰だ?」と声をかけると、その霊は静かに答えた。「私は美月…、かつてこの神社で仕えていた巫女です。」

美月の霊は、神社を守る役目を担っていたが、ある日、外敵の襲撃を受けて命を奪われたという。彼女は何もできぬまま、神社で荒らされたり、命を落としたりする無念を抱えたまま、霊となってしまっていた。その死因については長年解決されることがなく、彼女は未だにこの地に留まり続けていると言う。

玲央は、美月の無念を感じ取り、そのために自分ができることを探し始める。彼女が命を奪われたのは、実は地域の住民との対立が原因だった。美月は、神社を守ろうとするあまり、近隣の住民たちとの間に亀裂を生んでしまったのだ。住民たちは神社の存在を不安視し、無理に立ち退き要求をしていたが、見知らぬ外部者が美月を利用して悪事を働こうとしたことで、悲劇が起こった。

玲央は、この事実を解明するために、再び神社を訪れ、調査を続けることに決める。彼は地元の古老や、神社に詳しい人物に話を聞き、証拠を集めていく。その結果、美月が命を奪われる直前、神社を乗っ取ろうとした者たちとその背後にいた人物がいたことが明らかになる。さらに、美月が命を落とした本当の理由は、その人物の策略によるものであり、住民たちはそれに気づかず、誤解から美月を犠牲にしてしまったことが分かる。

玲央は、この真実を地元の警察に報告し、捜査を促すことに成功する。その後、警察は事件を再調査し、実行犯である人物が逮捕される。その犯人は地域に住んでいた一人の男で、過去に神社の土地を狙っていたことが判明する。玲央はその事実を、美月に伝えるために神社を再度訪れた。

美月の霊は、事件が解決したことを知り、ようやく長い間抱え続けていた憤りと無念を解き放つことができた。そして、玲央に深く感謝の言葉を告げ、静かに神社の境内から消えていった。彼女は、ようやく安らかな眠りにつくことができたのだ。

その夜、神社の空気は驚くほど澄んで、静けさが戻った。玲央は心の中で、美月の無念が晴れたことを感じ、次の霊を助けるための準備が整ったような気がした。これが、彼の霊的な旅の始まりだった。

第2章: 戦争の霊・秀男

玲央が次に出会ったのは、戦争で命を落とした兵士、秀男(ひでお)の霊だった。秀男は戦争の末期、激しい戦闘が続く中で命を奪われた。戦争の悲惨さや無意味さに直面しながらも、彼は多くの仲間を失い、最期の瞬間に家族の顔を思い浮かべながらも無念の死を遂げていた。彼の死は決して戦場での栄光や英雄的なものではなく、無理に前線に送られ、命を散らしただけの無駄なものであった。

秀男の霊は、玲央に強く訴えかけてきた。「俺は、何のために命を落としたんだ? 家族に会いたかった。ただ生きたかっただけなのに、どうしてあんなところに送られたんだ…」その言葉は、戦争における兵士たちの無力さや無念さ、そして戦争を指揮していた上司に対する強い怒りが込められていた。

最初、玲央はその霊の姿に驚き、少し怖がりながらも、次第にその怒りの中にある悲しみや苦しみを理解するようになった。秀男が抱えているのは単なる怒りではなく、戦争で命を落とすことになった自分や仲間たちの無駄死にに対する深い悔しさだった。それに加えて、彼は戦争を無理に続けさせた上司に対する憎しみを感じていた。その上司は、戦局を有利に進めるために無理に兵士たちを前線に送っていたのだ。

玲央は、最初はただの心霊スポット巡りだと思っていたが、秀男の霊との出会いを通じて、その役割がただの観察者にとどまるわけではないことを実感し始めた。霊たちの無念を晴らす手助けをすることこそが、玲央に与えられた使命だと感じたのだ。

玲央は秀男の過去を調べることに決める。彼はまず、戦争の記録や戦場での証言を集めることから始めた。当時の戦争を記録した日誌や書類を掘り起こし、戦争証言を集めるために当時の生存者や、戦争の実態に詳しい人物に接触した。何日もかけて、玲央はじっくりと戦争の記録を調査し、秀男の死に関する詳細を明らかにしようとした。

数週間後、玲央はついに重要な証拠を掴んだ。戦局を有利に進めるために、上司が無理に兵士たちを前線に送り、結果として多くの命が無駄に失われていたという事実が判明した。特に秀男が命を落とす直前、彼の部隊は上司の命令で何度も前線に送られ、最終的にその命令が原因で壊滅的な損害を受けていたことが明らかになった。上司は、戦争の勝利にこだわるあまり、兵士たちの命を軽視し、戦況を悪化させていた。

玲央はこの証拠をもとに、戦後に高官に昇進したその上司の不正を暴く決意を固めた。彼は警察や報道機関に証拠を提供し、戦後の名声に隠された真実を明らかにするために動き出した。しばらくして、ついにその上司は戦争中の不正行為を追及され、社会的にも名誉を失うことになった。これにより、彼の高官としての地位は揺らぎ、その後の人生に大きな影響を及ぼすこととなった。

秀男は、ついに自分の死の原因と、それに関連する不正が明るみに出たことを知り、長年抱えていた怒りと苦しみを解放することができた。その瞬間、秀男の霊は静かに玲央に語りかけた。「ありがとう、やっと…やっと、伝わったんだな…俺は、ようやく楽になれる。」そして、秀男の霊は安らかな顔で消え去った。

玲央は、再びその霊の無念を晴らせたことに大きな満足感を感じるとともに、自分が霊たちの苦しみを解放するためにできる限りのことをしているという強い確信を得た。霊たちの未練を解消することこそが、自分の存在意義だと感じながら、次の霊のために準備を始めた。

第3章: 悲劇の母親・和美

玲央は次に出会った霊、和美(かずみ)の霊に強く心を動かされることになる。和美は、かつて家庭内暴力を受け続けながらも、息子を愛し、何とか守ろうと必死で生きていた女性だった。夫からの暴力は日常的で、暴力を振るう度に和美は息子のために我慢をし、できるだけ息子を傷つけないように心を砕いていた。しかし、ある日、暴力がエスカレートし、息子を守ろうとした矢先に和美自身が命を奪われてしまう。その瞬間、彼女は心の中で息子を思い、どうしても守りきれなかったことを悔やみながら息絶えた。

和美の霊は、当初玲央に怒りと悔しさをぶつけてきた。「私のせいで息子が不幸になった。あの暴力から守ってあげられなかった…」彼女の声には深い無念が込められており、霊の姿もまた、その心の痛みを映し出していた。和美は、命を奪われたことそのものよりも、息子を守れなかった自分を許せなかった。そして、息子を育てた自分の誇りを胸に抱きながらも、暴力の連鎖を断ち切れなかった無力さが彼女の霊をこの世に繋ぎ止めていた。

玲央は和美の死因を調べ、すぐにその背景に深く踏み込むことになった。彼女の夫は、かつて地元でよく知られた暴力的な人物で、近隣でも恐れられていた存在だった。玲央は、暴力がエスカレートしていった証言を集め、和美が死に至った日がどれほどの絶望の瞬間であったのかを知る。和美が息子を守ろうとするも、結局その命を奪われてしまったことを玲央は知り、深い悲しみと共に、その暴力がどれほど家庭を壊し、和美を追い詰めていたのかを理解するようになった。

玲央は調査を続け、和美が亡くなった後、息子がどのように過ごしてきたのかを調べた。息子は辛い過去を背負いながらも、なんとか自分の道を歩んできた。大人になり、社会に出て幸せな生活を送っていたが、和美が死んだことに対して深い悲しみを抱え続けていた。息子は母親を許せない気持ちと、逆に守れなかったという自責の念を心の中で抱えていた。彼の心は、母親の死を乗り越えられず、未だに母親の顔を思い出す度に涙を流していた。

和美の霊は、息子が母親を許せずにいることに気づき、まだ自分が成仏できない理由がそこにあることを理解していた。「私があの時、もっと頑張っていれば、息子を守れたんじゃないか…」と、和美はその思いから逃れることができず、ずっとこの世にとどまっていた。

玲央は、和美の無念を晴らすために、最も重要なのは息子との再会だと感じた。息子が母親を許すことができれば、和美の霊も安らかに成仏することができるはずだと、玲央は決意を固めた。しかし、息子は和美の死を受け入れられず、母親を許せないでいた。それでも玲央は諦めず、息子に会い、彼に言葉をかけることを決心した。

玲央は息子と何度も話を重ねた。息子は最初、母親のことを思い出すと怒りと悲しみで胸がいっぱいになり、和美を許すことなどできないと涙を流した。しかし、玲央は息子にこう話した。「あなたの母親は、あの時あなたを守りたかった。彼女はあなたに対する愛情だけで生きていたんです。そして、もしあなたが前に進むことを望んでいるなら、あなたが自分を許して、母親も許すべきだということを気づいてほしい。母親はあなたを守れなかったことを、どれほど悔やんでいるか、そして今、あなたが幸せに生きることが、彼女が成仏する唯一の方法なんだ。」玲央の言葉に、息子は深く考え込み、しばらく静かに涙を流した。彼の心に変化が訪れたのだ。

時間が経つにつれて、息子は母親を許すことを決心した。彼は心の中で母親を受け入れ、そして過去の悲しみを乗り越える覚悟を決めた。和美の霊は、その変化を感じ取ることができた。息子が自分を許し、前向きに生きていくことを知った和美は、ついにその未練を断ち切り、安らかな表情を浮かべながら、霊の姿がゆっくりと消えていった。

和美の霊が成仏した瞬間、玲央は深い安堵を感じた。和美が息子に自分を許してもらえたことを知り、心から幸せを感じながら、この世を去ったのだ。玲央はその後、息子にとって母親の思い出が苦しみではなく、力となることを祈りながら、次の霊のために進んでいった。

――続く――

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