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運命の夜空②

第6章: 運命の断絶

突如告げられた別れ
「ジュンホ、お前はもう十分だ。これ以上、この国で何かを学ぶ必要はない」

重厚な応接室の中、ジュンホの父であるソ・ドンジンの言葉が響く。彼の声には、一切の感情が宿っていなかった。

「明日から準備しろ。ロンドンにある支社で実務を学ぶんだ」

ジュンホの胸に冷たい鉄槌が下りたような衝撃が走った。

「ロンドン?それって、何年も帰れないってことじゃないか!」

「そうだ。お前がソ・グループの後継者として成長するには、もっと広い視野が必要だ」

ドンジンは一切の反論を許さない姿勢で、息子を見据えた。その瞳には、父親としての愛情よりも、経営者としての冷徹さが滲んでいた。

「でも、俺には……!」
ジュンホの言葉は喉の奥で詰まり、続かなかった。彼の心には、ダヨンへの思いが燃えるように渦巻いていた。しかし、それを口にすれば、彼女の存在が父親に知られ、さらなる危険にさらされるだろう。

届かない手紙
深夜、ジュンホは机に向かい、震える手で一通の手紙を書いた。

ダヨンへ
今、君に伝えたいことがたくさんあるけど、どれもうまく言葉にならない。
父の命令で、僕はロンドンに行かなくてはならない。どれだけ反抗しても、逃げられそうにない。
君のことを思うと、胸が張り裂けそうだ。君を置いていくなんて、僕には耐えられない。
でも、これだけは信じてほしい。僕の心はいつも君と共にある。星空の下で交わしたあの誓いを、僕は絶対に忘れない。
必ずまた君のもとに帰る。その日まで待っていてほしい。
ジュンホ

ジュンホは手紙を書き終えると、信頼できる家政婦のイ・ミスクに託した。

「これを絶対にダヨンに届けてくれ。絶対にだ」
「わかりました、坊ちゃん」

しかし、運命の歯車は残酷に二人を引き離す準備をしていた。ミスクが手紙を届ける途中、彼女が急病で倒れ、手紙は途中で失われてしまう。

ダヨンの絶望
翌日、ダヨンは家の中で一人、ジュンホからの連絡を待ち続けた。彼の声を一度でも聞ければ、希望をつなぎ止められる気がした。

しかし、電話もメッセージも何もない。彼の姿は消え、ダヨンの胸には不安が次第に膨れ上がっていく。

夜になり、彼女は星空を見上げた。丘の上で見たあの美しい夜空と、彼が言った言葉が蘇る。

「ここから先、何があっても一緒だ」

その記憶が、かえって彼女の心をえぐった。

「嘘だったの……?」

ダヨンはベッドに横たわるが、眠ることができなかった。何度も彼の名前を呼びたくなったが、誰にも届かないと知っていた。

彼女の瞳から涙が溢れ、枕を濡らした。

別れの夜
一方、ジュンホは機内にいた。ロンドン行きのフライトで、窓の外に広がる闇を見つめる彼の目には、決して拭えない苦しみがあった。

「ダヨン……待っていてくれ」

彼の手にはもう一つの手紙が握られていた。それは、再会の日に渡すつもりで書いたものだった。だが、今は何もできない。運命に抗う手段がないまま、彼は空の彼方へ飛び立った。

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