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雪女と口裂け女の恋活日記①

あらすじ

山奥に住む雪女・ユキと、町外れでひっそりと生きる口裂け女・マユ。
人間に恐れられ、孤独に生きてきた二人だったが、偶然の出会いをきっかけに友情を育む。

「私たち、一緒に婚活してみない?」

互いの恋を叶えるため、二人は協力し合いながら人間の世界での婚活に挑むことに。

ユキは村の薪割り職人ハルトに恋をし、「冷たさ」を逆に魅力として活かしながら距離を縮めていく。しかし、雪女であることを隠し続ける中で、不安を募らせていく。

一方、マユはかつて愛した男リョウと再会するも、自らの姿を明かした途端に彼は逃げ出してしまう。自分はやはり「化け物」なのか——苦悩するマユを、ユキは励まし続ける。

そんなある日、ユキの感情の高ぶりが原因で村に大吹雪が襲いかかる。雪女であることが暴かれ、村人たちはユキを追い出そうとするが、ハルトは彼女を受け入れ、「君が雪女でも、好きだ」と告げる。初めての「愛される喜び」に、ユキは涙を流す。

一方、リョウもまた、恐れて逃げたのではなく、守れなかったことへの後悔から逃げ出していたことに気づき、マユのもとへ戻る。「仮面の下がどうであろうと、お前はお前だ」と彼女を受け入れ、マユは長年の孤独から解放される。

しかし、二人には試練が待ち受けていた。
ユキは村の「冬の守り神」として認められるために山の神へ祈りを捧げる試練を受け、マユは自分の「呪い」が本当に解けるのかを知るために旅に出る決意をする。

「また会える?」
「もちろん!」

互いの幸せを願いながら、それぞれの道を歩むことを決めた二人。

——そして数年後。

ユキはハルトと正式に夫婦となり、村の「冬の守り神」として受け入れられるようになった。
マユは旅の末、「呪い」を解くことはできなかったが、それを受け入れ、リョウと共に生きることを選んだ。

久しぶりの再会を喜び合う二人。

「ねぇ、ユキ。もしまた恋愛相談があったら、私が乗るわよ。」
「マユ、それはこっちのセリフよ!」

こうして、雪女と口裂け女の婚活物語は、幸せな結末を迎えたのであった——。

第一章:孤独な怪異たち

雪深き山の孤独な雪女
冬が訪れるたび、山は白銀の世界に染まった。吹雪が巻き起こり、木々は氷の衣をまとい、動物たちは巣穴に身を隠す。そんな静寂の中に、一人の女が佇んでいた。

雪女・ユキ。

彼女の肌は透き通るように白く、白銀の髪は風に揺れるたび、雪の結晶を纏ったかのように輝いた。その美しさはこの世のものとは思えないほどだったが、彼女は何よりも冷たかった。彼女が通るだけで、木々は凍りつき、小川は静かに凍結する。吐く息は霧のように白く、その冷気は触れた者の命を奪うほどだった。

それでも、ユキは孤独だった。

夜、静かな山小屋の中で、彼女はひとり雪の舞う外を眺めていた。

「私は人間に恐れられる運命なの?」

何度も何度も、同じ問いを自らに投げかける。

かつて、ユキは一人の旅人を助けたことがあった。吹雪の中で倒れていた男を、自らの小屋へと運び、温かい火を灯してそばに寄り添った。けれど、目を覚ました男は恐怖に顔を引きつらせ、逃げるように去って行った。

それ以来、ユキは人間を避けて生きることを選んだ。

「私が触れれば、誰もが凍えてしまう……ならば、誰とも交わらなければいい。」

そう思うたびに、胸の奥が冷えきるような感覚に襲われた。しかし、その冷たさの正体は、本当に彼女自身の力なのだろうか。それとも、寂しさのせいなのだろうか——。

町の片隅に潜む口裂け女
山のふもとに広がる町には、もうひとり、孤独に生きる女がいた。

彼女の名はマユ。

だが、人々は彼女を「口裂け女」と呼んで恐れた。

かつては普通の娘だった。長い黒髪をなびかせ、淡い桃色の唇を持ち、町の人々ともよく笑い合っていた。しかし、ある夜、運命は無情にも彼女を引き裂いた。

嫉妬に狂った男が彼女の顔を刃で裂いたのだ。

悲鳴を上げる間もなく、頬から唇にかけて深く刻まれた傷は、彼女の人生を変えた。

「ねぇ、私、きれい?」

鏡に映る自分の姿に問いかける。

裂けた口元は、まるで笑っているかのようだった。しかし、それは幸福の微笑みではなく、哀しみに歪んだ偽りの笑顔だった。

以来、彼女は赤いマスクを手放せなくなった。町の外れにある廃屋に身を潜め、人々の目を避けながら暮らす日々。食料は夜中にこっそり買いに行き、誰とも目を合わせないようにしていた。

「私は……もう誰にも愛されないの?」

傷ついた唇をなぞる。

愛を知らないわけではなかった。昔、彼女を愛してくれた人がいた。しかし、顔を裂かれてしまった瞬間、その人は恐れの目を向け、彼女を置いて去っていった。

「私は、化け物になってしまったの?」

愛することも、愛されることも許されない。人間の世界に居場所はない。それでも、彼女はどこかで心の片隅に希望を残していた。誰か、自分の姿を恐れずに向き合ってくれる人がいるのではないかと——。

運命の交差点
山奥でひっそりと暮らす雪女。
町の片隅で息を潜める口裂け女。

どちらも、寒さとは別の冷たい孤独を抱えていた。

二人は出会うことを知らないまま、それぞれの世界の中で静かに生きていた。しかし、運命は不思議なもので、まるで導かれるように二人を引き寄せていく。

ある冬の夜。

吹雪が町を覆い、夜道は人影もなく静まり返っていた。

そのとき、一つの影が闇の中をさまよっていた。

——それは、赤いマスクをつけた女。

寒さに震えながら、彼女は歩いていた。行くあてもなく、ただ静寂の中を彷徨っていた。

その先に、一人の白い影が立っていることも知らずに——。

こうして、雪女と口裂け女の運命が、静かに交わろうとしていた。

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