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未来を選ぶ声①

あらすじ

普通の中学2年生、光太郎はある日突然、未来の出来事を予知する声を聞く能力を得る。最初は戸惑いつつも、その力を使って駅前で起こる事故を防ぐなど、人々を助けることに成功する。町のヒーローとして周囲から注目を浴びるが、次第にその力が重荷となり、自分の行動が他人の運命に干渉しているのではないかと悩み始める。

光太郎は予知が未来を決めるのではなく、自分の行動こそが未来を形作ることに気づき、次第にその力を「ヒント」として活用するようになる。彼は未来を恐れるのではなく、自らの選択と行動で未来を切り開いていくことを決意。予知の力を使わずとも、周囲と共に新しい未来を築いていく姿勢を貫き、自分自身の成長を遂げていく。

光太郎(こうたろう)は、普通の中学2年生の少年だった。朝は母親に送り出されて、軽く朝食をとり、制服のシャツの襟を直しながら靴を履く。通学路を歩きながら、時折道端の花を指差して「今日もきれいだね」と呟いたり、途中の公園で友達とサッカーボールを蹴ったりして、特別なことが何もない一日がまた始まる。学校では、何気ない会話を交わしながら昼食を食べ、授業では一生懸命にノートを取るが、どこか心の中で退屈を感じていた。友達との話の中で、自分の未来をどうしようかと考えたりもしたけれど、それでも漠然とした焦燥感はあるものの、どこか他の誰かの人生を生きているような気分だった。

その日の放課後、何も特別な出来事がないだろうと思っていた光太郎に、突如として訪れる出来事があった。教室の窓から見える夕焼けが美しくて、友達と並んで帰り道を歩いている時、突然、耳元に響いた。「明日の朝、駅前で事故が起きる。」その声は、頭の中に突然、ずきりと鳴り響いた音だった。

光太郎は足を止め、周囲を見回したが、誰も話していない。耳鳴りか何かかと思い、頭を振って無理にその声を無視しようとしたが、それはどこかで聞いたことのないような、冷たい響きで、まるでどこからか直接届いたような感覚が残った。彼は自分を戒めるように、そのまま歩き出したが、心の中でその言葉が何度も反響していた。

次の日、いつも通り駅前を通り過ぎようとしたその瞬間、光太郎はふと目の前に停車中の車が急発進しようとしているのを目にした。その車の前方に一人の歩行者が立ち止まっており、車が歩行者に向かって突進していくのが見えた。まさに昨日耳にした声と同じ状況だと気づいた瞬間、光太郎は胸の中で冷や汗が流れるのを感じた。

その瞬間、彼は反射的に体を動かし、歩行者の方に向かって声を上げた。「止まれ!危ない!」と、思わず叫んでいた。車の運転手は急ブレーキを踏んだが、間一髪で衝突を避けることができた。周りの人々が驚き、誰かが「すごい!」と叫んでいた。その時、光太郎は自分の手が震えているのに気づいた。自分があの声を聞いたのは、偶然ではなかったのだ。未来を知ってしまった彼は、何もできないはずの自分が、突然大きな力を持ってしまったことに混乱していた。

その後、彼はその出来事がただの偶然だと思いたかったが、次第に、予知の声が何度も彼に届くようになった。光太郎は、それが何か特別な力だとは考えなかった。ただ、いつも通りの自分が聞いてしまった、予期せぬ声にすぎないと思っていた。しかし、その出来事をきっかけに、彼の世界は急激に変わり始めた。平凡だったはずの日常が、まるで違う色を帯びて、光太郎に次々と予知の力をもたらしていくことになるのだった。

予知の始まり

放課後、光太郎は友達の佐藤と美咲と一緒に学校を後にして、いつものように賑やかに帰路につきながら歩いていた。佐藤が冗談を言い、美咲がそれに笑いながら反論する。普段通りの何でもない日常だった。光太郎も何気なく歩きながら、ふと空を見上げた。空は雲一つなく、夕日がオレンジ色に染まっていた。少し心地よい風が吹いて、彼はつい深呼吸をしてその風を楽しんでいた。

だが、突然その日常が壊れた。

足を止めた瞬間、耳の中に不安定で重い声が響いた。「明日の朝、駅前で事故が起きる」と。その声は、どこからともなく聞こえてきたようだったが、どこか遠くから伝わってくるような、何とも不自然で違和感のある音だった。最初は驚いてその場に立ち止まるも、光太郎はすぐに「ただの幻聴だろう」と自分を納得させようとした。しかし、その声が脳裏に強くこびりつき、心の中で何度も繰り返し響いていた。まるでその声が、何か大切なことを伝えようとしているように感じられた。

「明日の朝、駅前で事故が起きる。」その言葉が、頭の中でこだました。

光太郎はその声が何なのか分からなかった。少しの間、立ち尽くしていたが、友達が彼を呼ぶ声で我に返った。「光太郎、どうしたんだ?早く帰ろうぜ!」

「う、うん、今行くよ。」光太郎は何もなかったかのように答えて、歩き続けた。けれど、頭の中でその言葉が消えることはなかった。

次の日、光太郎はいつも通りの朝を迎え、学校に向かって歩いていた。ふと、昨日の出来事が思い出され、その声がまた頭に浮かんだ。「明日の朝、駅前で事故が起きる。」

光太郎はその時、無意識に足を速めた。駅前まであと少しというところで、彼はその瞬間を目撃した。信号が青になったにもかかわらず、歩行者の一人が急いで横断歩道を渡ろうとしていた。その時、車が交差点に差し掛かり、歩行者に向かって猛スピードで近づいてきた。運転手は慌てた様子でブレーキを踏み、ギリギリで車が止まった。歩行者は目の前で立ち止まり、冷や汗をかきながら車の前を通り過ぎた。もし、ほんの一瞬でも遅かったら、事故になっていただろう。

その瞬間、光太郎は心の中で何かがはっきりと理解できた。昨日聞いた声、それがただの幻聴ではなかったことを、彼は確信した。そして、何も考えずに反射的に手を挙げて歩行者に向かって叫んだ。「止まれ!危ない!」

驚いた歩行者が立ち止まり、運転手も慌てて車を完全に止めた。光太郎の心臓は激しく鼓動を打ち、体が震えるのを感じた。周りの人々が一斉に振り向き、その出来事に驚いている様子だった。一人の男性が光太郎に近づき、声をかけた。「君、すごいな!今、あの車を止めたんだろう?」

光太郎はただ黙って頷くことしかできなかった。自分が何をしたのか、今ひとつ理解できていなかったからだ。しかし、心の中でその声が再び響いた。「君がしたのは、ただの反応ではない。君がその瞬間に選んだ行動が未来を変えたんだ。」光太郎はその言葉を感じ取ると同時に、未来についての未知の感覚が胸を突き刺した。

その日から、光太郎の世界は少しずつ変わり始めた。彼の周りで起こる出来事が、何も知らない他人から見ても、まるで予知していたかのように思えるようになった。町の人々は、光太郎のことを「未来の声を聞く少年」として噂し始め、次第にその力が彼の生活にどんどん影響を及ぼすようになっていった。だが、光太郎自身はその力をどう受け入れ、どう向き合えばいいのか、まったく分からなかった。

「未来の声」の力を試す

光太郎の「未来の声」は次第にその力を増していき、彼の耳に届く予知は日常生活の中で次々と起こる出来事を正確に告げるようになった。最初は些細なことから始まったが、次第にその予知が現実となるたびに、彼の周囲の人々は驚きとともに彼を注目し、次第にその力に頼るようになっていった。

ある日、光太郎は学校の試験前日、教科書を見返している最中に、ふと耳の中で声が響いた。「明日の試験の国語の問題、三番に誤植がある。」光太郎は一瞬耳を疑ったが、その声は確かに明確で、しっかりと彼の心に残った。次の日、試験の国語の問題用紙を見た光太郎は、その声の通り、三番の問題に明らかな誤植を発見した。それも、語句のスペルミスとともに、文脈に合わない言葉が使われていることに気づいた。光太郎はすぐにそのことを試験監督に伝え、問題が訂正されることとなった。

その結果、試験問題を訂正してもらったクラスの全員が高得点を取ることができた。みんな喜びの声を上げ、光太郎は一躍ヒーローになった。特に友達の佐藤や美咲は、「光太郎すげえ!」と手を叩いて称賛した。その後、光太郎は学校のどの教科でも試験で高得点を取り続けることができ、彼の評判は一層高まった。

また別の日、光太郎はクラスメイトの佐藤が風邪を引いて体調が悪くなることを予知した。学校の帰り道、佐藤は顔色が悪く、風邪を引き始めた様子だった。光太郎はその時、「明日の朝、君はもっとひどくなる。すぐに病院に行くんだ。」と強く言い、佐藤を病院に連れて行った。すると、佐藤はその後すぐに処方された薬で回復し、大事に至ることなく風邪を早期に治すことができた。もしも病院に行くのを遅らせていたら、高熱や喉の炎症で大事になっていたかもしれなかった。佐藤は後で感謝の言葉を光太郎に伝え、「お前、ほんとにすごいな」と目を輝かせて言った。

町の人々は「未来の声を聞く少年」として光太郎の存在を知り、次第に彼の周りに人が集まり始めた。人々は、困ったときや危険を感じた時に、光太郎に相談するようになった。彼は町のヒーローとして、次々に現れる困難に立ち向かっていった。事故を防いだり、誰かの健康を守ったり、光太郎の予知が町を救う場面が続くたびに、その評判は広がり、光太郎自身も次第にその力を使うことに慣れていった。

しかし、次第にその力が光太郎にとって重荷に感じられるようになった。最初は無邪気に使っていた予知の力が、だんだんと彼の心に疑念をもたらすようになった。例えば、ある日、光太郎はまたしても予知の声を聞いた。「あの店の前で、明日、誰かが財布を落とすだろう。」その声に従って、光太郎はその場所に向かった。すると、案の定、財布が落ちているのを見つけた。光太郎は財布を拾って、周囲を見渡したが、誰がその財布を落としたのか分からない。彼はその財布を交番に届けるべきか、それとも誰かの手に渡すべきか、迷った。

さらに、その力を使うことで、他人の運命を無意識に操作しているのではないか、という恐れが胸の中で膨らんでいった。予知の声に従って行動することで、彼はどこかで他人の選択肢を奪っているのではないかと思い始めた。例えば、佐藤に病院に行くように促したことで、彼が本来自分で判断して行動する機会を奪っているのではないか。あるいは、試験の誤植を修正したことで、試験を受ける他の生徒たちの公平性を損なっているのではないか。光太郎はそのことが次第に自分の心を重くし、予知の力を使うことに対して不安と恐怖を感じるようになった。

光太郎は自分の行動がもたらす結果を常に気にするようになり、予知の声を聞くたびに、それが本当に「正しいこと」なのかを考えなければならないと感じるようになった。その力が人々に良い影響を与えている一方で、彼の心は次第に疑念と恐れに支配されていった。

――続く――

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