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バズった二人の未来
あらすじ
青木一翔(あおき かずと)は平凡な大学生で、SNSはただ見るだけの存在だった。そんな彼が友人との「メントスコーラ爆発チャレンジ」を動画に収め、SNSに投稿したことから彼の運命が変わる。動画が爆発的にバズり、注目を集めることになった一翔は、大学内で知られる存在となるが、次第に注目されることに対して不安を感じ始める。
一方、白石沙良(しらいし さら)は、10万人以上の登録者を持つ人気ユーチューバー。完璧な自己表現を求め、プレッシャーと戦っていた。そんな彼女が偶然見た一翔の素朴で自然体な動画に心を打たれる。二人は、動画コラボをすることに決め、意気投合するが、コラボ動画が公開されると、視聴者は彼らを「カップルユーチューバー」として盛り上がり、沙良は過去の炎上経験が蘇り、不安を抱え始める。
一翔は次々とオファーを受け、人気ユーチューバーとして成り上がっていくが、商業的な側面が強くなり、批判も増え始める。一方、沙良は「輝く女性」というイメージに縛られ、自分を見失いかけていた。そして、コラボ動画に関連する発言で炎上が起こり、誹謗中傷が二人に襲いかかる。二人はそれぞれ、ネットの反響と自分との向き合い方に葛藤し、次第に心の中に空洞を感じるようになる。
成功と批判が交錯する中、彼らは自分らしさをどう取り戻すかを模索し、再び相手と向き合いながら新たな道を歩み始める。
序章:バズった日常
青木一翔(あおきかずと)は平凡な大学生だった。毎日講義を受けて、コンビニで買ったパンをかじりながら友人たちとふざけ合う、そんなありふれた日々を過ごしていた。一翔は目立つことが苦手で、SNSもほとんど見る専門。だが、ある日、ふとした衝動でスマホを手に取り、動画を撮影した。それは友人と遊び半分でやった「メントスコーラ爆発チャレンジ」だった。
部屋の中で起きた大惨事に、みんなで大笑い。何か面白いことを共有したいと思った一翔は、その動画をSNSに投稿した。それがすべての始まりだった。翌朝、いつも通りスマホを手に取った一翔は目を疑った。「いいね」の通知が何十件も表示され、再生回数が異常な勢いで伸びている。
「マジかよ……」
画面に映る数字は、100、500、1000と目を離す間もなく増え続ける。投稿されたコメントも、
「クソ笑ったwww」
「なんでこんなにバカバカしいのに癖になるんだ?」
「次は何やるの?」
と、楽しげなものばかり。心がじわじわと暖かくなる感覚を覚え、一翔は小さくガッツポーズをした。友人たちも驚きながら大はしゃぎし、「次の動画はもっと面白いの撮ろうぜ!」と盛り上がった。
数日後、再生回数は100万回を突破。あの動画がここまで注目を集めるなんて、思ってもみなかった。いつしか大学内でも「おい、一翔!動画見たぞ!」と声をかけられるようになり、カフェで注文していると「あなた、あのメントスコーラの人ですよね?」と店員に微笑まれることも増えた。最初は浮かれていた一翔だったが、注目が増えるたびに、ふとした違和感も覚えるようになった。「こんな風に知られるのって、いいことばかりなのかな……?」
そんな中、対照的な場所で、白石沙良(しらいしさら)は新しい動画の撮影に没頭していた。彼女はすでに10万人以上の登録者を持つ成功したユーチューバーであり、毎週のように高評価の嵐を巻き起こしている。テーマは「輝く女性」。料理、ファッション、自己啓発――すべての動画は緻密に計算され、編集された完璧な作品だった。
しかし、カメラの前で笑顔を浮かべる沙良の心の中は、重いプレッシャーで満たされていた。「次はもっとクオリティを上げなきゃ……」と、常に自分に言い聞かせていた。視聴者の期待に応え続けることは、彼女にとって誇りであると同時に重荷でもあった。
「完璧じゃなきゃ意味がない」
そう信じていた沙良の目に、ある日ふと流れてきたのが、一翔の動画だった。画質も荒く、内容も単純そのもの。しかし、不思議なほど楽しそうな空気感に沙良は一瞬引き込まれた。
「これでバズるんだ……」
沙良は画面の向こうで笑い転げる一翔たちを眺めながら、小さくため息をついた。その一方で、自分の動画のコメント欄には「美しすぎる」「さすが沙良さん!」と称賛の声が並ぶ。しかし、その言葉の一つ一つが、彼女には遠い世界のものに思えた。
やがて、一翔と沙良の道が交わることになる。偶然とも必然とも言える運命に引き寄せられた二人が、それぞれの価値観や葛藤を通して、新しい「自分らしさ」を見つけていく物語が、ここから始まる――。
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