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撮影者の代償②
第5章: 衝撃の一瞬
浩一は、金属の物体が後ろから頭部に直撃するその瞬間、全身に激しい痛みが走った。耳鳴りが響き、視界が瞬時にぼやけ、すぐに意識が薄れていく。倒れ込んだ瞬間、アスファルトの冷たさが顔に伝わり、硬い地面が頭を支えた。彼の手からカメラが落ち、カメラのレンズが地面にぶつかり、ガシャッと音を立てて回転しながら滑った。その音が、まるで自分の運命を告げる鐘の音のように響いた。
周囲の混乱した声が耳に入ってきた。叫び声や足音、慌てた人々の声が重なり合い、浩一はその中でまるで他人のように、ただ意識を失っていった。体の動きが鈍く、手足を動かす力が湧いてこない。視界がさらに暗くなる中で、浩一はただ一つ、自分が完全に“自分”を失いつつある感覚に襲われていた。
「これが…終わりなのか?」
その瞬間、彼の脳裏に過去の出来事が一気に駆け巡った。無数の映像、撮りたいと思ってきた数々の瞬間、そしてその全てを映し出すために犠牲にしてきたもの。数えきれないほどの人々の痛み、恐怖を捉え、彼はそれらを映像として「作品」に変えてきた。だが今、自分自身がその中に加わることになるとは、浩一の心には強烈な違和感が広がっていた。
意識が途切れ途切れになりながらも、浩一はふと気づいた。目の前に映るのは、無意識のうちに録画を続けるカメラのレンズだ。そのレンズは、落ちた場所から微動だにせず、映像を捉え続けていた。撮影は止まることなく続いていたのだ。だが、その映像がもはや意味を持たなくなっていることに、浩一は気づくことができなかった。彼にとって、撮影の目的は今や他の何ものにも変えられない「衝撃的な瞬間」を追い求めることだった。しかし、今やその瞬間は自分自身がその渦中にいるという事実であり、映像のために命を賭けてきた自分が、ただの“被写体”になってしまった。
「これは…お前の番だ」
浩一の意識が遠のく中で、まるで誰かがその言葉を耳元で囁いたように感じた。だが、その声は誰のものでもない。ただただ、彼の心の中で響いていただけだろう。その言葉は彼にとって、長い間求め続けてきた答えのように感じられた。「自分が撮る側であり続けること」は、すでに過去の話だった。今、目の前にある現実は、彼が今後も背負い続けることになる新たな事実だった。
その時、彼の体がやっと反応を見せた。手がかすかに動き、カメラが再び地面を揺らし、レンズが彼を捉えたまま映像を続けている。その映像に、彼自身が出てきたことに、彼は完全に無感覚になっていた。命の危険を感じることもなく、ただ自分の意識がどんどん薄れていくのを感じるのみだった。
周囲では、すでに警察や救急隊員が到着し、混乱した群衆を押しのけながら浩一の元に駆けつけていた。だがその時、浩一はもう、彼らの存在さえもほとんど感じ取れない状態だった。すべてが遠く、静かに流れ去っていくように感じられた。
そして、カメラが捉え続けるその“最後の映像”は、浩一の意識が完全に途切れる前の瞬間のものだった。それは、無数の混乱した足音の中で一度も停止することなく、彼が完全に倒れ込む瞬間を捉えていた。全てが終わった後も、映像は無情にも回り続け、彼が撮影してきた世界の中心に、浩一自身が存在していることを示し続けていた。
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