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後悔の航路
あらすじ
16世紀、スペインの大航海時代。若き船乗りフランシスコ・ラミレスは、新たな航海に出る準備を進めていた。彼の心を捉えていたのは、裕福な商人の娘イサベル・デ・アロンソだった。イサベルは、フランシスコの航海を支援するスポンサーであり、彼にとって未来への希望そのものだった。しかし、イサベルの心には別の人物、若き貴族ドン・アルフォンソが存在しており、フランシスコの告白を拒絶してしまう。
フランシスコは失恋し、心の中で未練を抱えながらも航海を開始。しかし、彼は航海を通じて名声を得て、新大陸の発見や貿易の成功を重ねるものの、イサベルへの思いは消えなかった。そんな中、イサベルからの手紙を受け取る。それは、ドン・アルフォンソに裏切られ、彼女がフランシスコに対して後悔の念を抱いているという告白だった。再び会いたいと願うイサベルの思いを知ったフランシスコは、急遽帰国を決意する。
だが、帰国した時、イサベルはすでにドン・アルフォンソとの結婚を発表しており、フランシスコはその光景に深く傷つく。イサベルもまた、再会を果たすべきか悩んでいたが、結局二人は再び顔を合わせることなく、時は流れていく。
それぞれが別々の道を歩む中で、二人の心には永遠に消えない後悔が残る。フランシスコは引退し、イサベルは家庭を持ちながらもフランシスコを思い続ける。大航海時代の壮大な冒険の中で、彼らは最も大きな冒険、すなわち「心の中の後悔」を乗り越えることができなかった。
第1章:航海の始まり
16世紀、スペイン。大航海時代が最盛期を迎え、世界は未知の地へと広がっていった。貿易の道が開かれ、探検の船が次々と新たな大陸を発見し、征服の波が広がっていく。その中で、ひときわ目を引く若き船乗りがいた。フランシスコ・ラミレスは、その冒険心と勇気で名を馳せる男だった。彼は、これから出発する大航海の準備に、すべてのエネルギーを注いでいた。風を感じることができる彼のような男にとって、海はただの水の塊ではなく、自由を象徴するものだった。
フランシスコが目指すのは、未知の大陸。新世界の交易路を開き、名を上げること。しかし、その忙しい日々の中で、彼の心にはある女性が重くのしかかっていた。それは、イサベル・デ・アロンソという若き商人の娘であった。
イサベルは、スペインでも名の知れた裕福な商人家に生まれ育った美しい女性で、彼女の家族はフランシスコの航海のスポンサーであり、その支援を受けて航海が成功すれば、大きな報酬が得られることは間違いなかった。イサベル自身も商才に長け、家業を継いでいくことが期待されていた。
だが、フランシスコが最も心を惹かれていたのは、彼女のその才覚や美貌だけではなかった。イサベルの瞳には、どこか遠くを見つめるような静かな悲しみが漂っていた。彼はそれを感じ取り、次第に彼女に強く引き寄せられていった。
数ヶ月前、航海のための契約が結ばれる前の晩、フランシスコはイサベルの家を訪れた。家族が食卓を囲んでいる中、彼は彼女と初めて向かい合い、言葉を交わした。彼女の言葉は穏やかで、時に賢明で、時に冗談を交えていたが、どこか遠くのことを考えているような表情が隠しきれなかった。フランシスコはその目に、彼女が心から自由を求めていることを感じ取った。
「あなたが出発する日が近づいているわね」とイサベルが言った。彼女の声には、さりげないが確かな期待が込められていた。「あなたの航海が成功すれば、私たちにも大きな利益があるわ。私たち家族はそのことを誇りに思う。」
フランシスコは少し照れくさそうに笑った。「ありがとう、イサベル。でも、あなたがそのために大きな犠牲を払ってくれるのだとしたら、僕は……」
言葉を詰まらせ、彼は思わず目をそらした。彼の心には別の思いが渦巻いていた。それは、彼が常に胸の奥に秘めていた、誰にも言えない想いだった。彼はもう一度、彼女に告白したいと思っていた。だが、その瞬間、彼は自分の立場をしっかりと認識する。
イサベルには心の中で別の人物がいたのだ。彼女の瞳が一瞬、別の方向に向かうとき、フランシスコはその視線の先に誰かを感じ取った。それは若き貴族、ドン・アルフォンソだった。アルフォンソはイサベルの家族とも関わりが深く、彼女と婚約を交わす可能性がある人物として、常にその影が見え隠れしていた。
「ドン・アルフォンソ?」フランシスコが、思わず名前を口にした。イサベルはその瞬間、目を細めたが、すぐにその表情を隠した。
「はい、ドン・アルフォンソ。彼は家族にとって重要な人物です。」イサベルは微笑んだが、その微笑みはどこか悲しげだった。
フランシスコはその言葉を胸に刻み込んだ。彼はイサベルがアルフォンソに心を奪われていることを理解していた。それでもなお、彼は彼女に自分の気持ちを伝えずにはいられなかった。その夜、彼の心は決まった。彼女に告白し、彼女がどう答えるかを聞くことこそが、自分の航海における最初の冒険だと。
けれども、フランシスコが心の中でどれだけ彼女を思っていても、イサベルには別の選択肢があった。ドン・アルフォンソの影は、フランシスコがこれから向かう広大な海のように、彼にとっては越えられない壁であった。
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