ネクサスの残響
あらすじ
朝のラッシュアワーが突如として混乱に包まれた。電車が停止し、通信が途絶える中、日本中が異常事態に陥る。正体不明の組織「ネクサス」が姿を現し、政府の無力さを突きつけるかのように一連の破壊活動を展開。首都東京では東京タワーの崩壊が人々に恐怖を植え付けた。
公安部の神谷凛は、ネクサスの謎を解明すべく奔走するが、次々に新たな危機が発生。ネクサスのリーダー藤川壮馬は政府の腐敗を暴露し、新たな秩序を目指していた。しかし、彼の過去には家族を失った悲劇が隠されており、その正義感は歪んでいた。
真鍋真央と娘の結衣は、避難所での混乱を乗り越えながら、偶然にもネクサスの隠れ拠点を発見。真央の行動が事態を転換する手掛かりとなる。
凛と藤川が直接対峙する中、政府のAI「ケイロン」が藤川の計画を暴露。社会全体が揺らぐ中で、凛は正義の本質を問い直し、次なる戦いへの備えを決意する。
第1章: 混乱の序曲
朝のラッシュアワーは、いつもと変わらない喧騒で始まった。ビジネスマンたちはスマホを手に電車に揺られ、学生たちは受験勉強の参考書を開く。だが、その日、東京を含む日本の主要都市は一瞬で混沌に陥った。
午前8時30分、各地の鉄道が一斉に停止した。アナウンスは一切なく、駅員たちは対応に追われ、構内は不安と怒りの声で満たされていく。バスもまた動かず、信号機さえも停止していた。スマートフォンの通信も途絶え、人々は情報の欠如に苛立ちながらも、次第に広がる異常事態の兆候を感じ取っていった。
霞が関の首相官邸では、緊急対策会議が開かれていた。状況の全容を掴めないまま、首相は国民への声明を急ぐよう指示を出した。官僚たちは慌ただしく動き回り、テレビ局との連携を試みるが、まさにその瞬間、全てのチャンネルが突如として「ネクサス」を名乗る組織の映像に切り替わった。
「国民の皆さん、私たちはネクサス。これは序章に過ぎません。あなたたちが信じる平和と秩序、それがどれほど脆いものかを示すために…」
画面に映る仮面を被った人物が静かに語りかける。背景には、彼らのシンボルと思われる不気味な円環のロゴが浮かんでいた。
公安部の司令室では、神谷凛が召集を受け、慌ただしく席に着いた。大画面モニターには、ネクサスの声明映像が繰り返し流れ、通信の痕跡を辿るエージェントたちが懸命にキーボードを叩いていた。凛は内心の動揺を抑えつつ、指示を求める。
「状況は?」
「ネクサスという名称以外、詳細は不明。声明が流れる直前、複数の爆破予告が各地に送信されていた形跡があります。」
一方、東京郊外に住む真鍋真央は、娘の結衣と共に混乱の中で避難手段を探していた。家族連絡網も機能せず、ニュースも確認できない状況に、不安が募るばかりだった。近所のスーパーマーケットでは暴徒化した群衆が物資を奪い合い、道路は放置された車で埋め尽くされていた。
「結衣、しっかり私の手を握って。絶対に離れないで。」
母親としての本能だけが真央を支えていた。その時、遠くで爆発音が響いた。東京タワー方向から立ち昇る黒煙が、街の空を覆い尽くす。
東京タワーの崩壊は、すべての混乱にとどめを刺す出来事となった。SNSに投稿された映像は瞬く間に広がり、無力感と恐怖が人々を支配する。真央は心臓の高鳴りを抑えながら結衣を抱き寄せ、必死に避難場所を探した。
その頃、司令室では、凛が東京タワー爆発の映像を目の当たりにし、歯を食いしばる。
「ネクサス…一体、何が目的だ?」
答えの見えない疑問が渦巻く中、事態はさらに深刻さを増していくのだった。
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