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メディアの闇 〜崩壊するテレビ帝国~③

第9章:内部崩壊

—「もう誰もこの会社を守れない」—

東都テレビの終焉は、静かに、しかし確実に始まった。

鳥山一樹と望月結衣が公開した**「東都テレビの闇」**と題された告発動画は、想像を超えるスピードで拡散された。

公開から1時間で50万再生、翌日には1000万再生を突破。

SNS上では怒りと衝撃の声があふれた。

「これ、もう犯罪レベルだろ……」
「テレビ業界ってこんなに腐ってたのか?」
「スポンサーはどう責任を取るつもり?」

テレビのニュース番組でも、この騒動を無視しきれなくなり、民放各局が取り上げざるを得なくなった。

そして――東都テレビの株価は、大暴落した。

前日まで1株2500円だった株価は、翌日の市場が開くと同時に1300円まで急落。

その影響は凄まじく、スポンサー企業は次々と契約解除を発表。

大手企業A社:「弊社は本件と無関係であり、東都テレビとの契約を終了します。」
飲料メーカーB社:「社会的責任を考慮し、今後の対応を検討中。」
不動産会社C社:「弊社のブランドイメージを守るため、契約更新はしません。」

スポンサーの撤退は、局にとって致命的だった。

広告収入のほとんどが消え、番組制作費は削られ、予定されていた新番組は軒並み中止。

東都テレビの崩壊は、もう誰にも止められなかった。

「社長……このままでは、本当に会社が潰れます!」

役員会議室の空気は重苦しかった。

会議の席には、社長・天野剛志と、役員たちが顔をそろえていた。

全員の表情は、暗く沈んでいる。

「視聴者の信用は完全に失われました。スポンサーも撤退。広告収入がなくなれば、会社は1年も持ちません!」

「社長、このままでは……」

天野は、腕を組み、何も言わなかった。

怒りに震えながら、静かに言葉を吐き出す。

「……村井はどうなった?」

「辞表を提出しました。」

「……クズめ。」

天野は低く呟いた。

村井修一は、全責任を押し付けられる形で、局を去った。

だが、それだけでは済まされない。

告発動画の影響で、検察が動き出し、局幹部や関係者の事情聴取が始まろうとしていた。

「……今さら誰かを切ったところで、もう意味はない。」

天野は、机を拳で叩いた。

「クソッ……誰がこんなことを……!」

役員たちは、顔を見合わせる。

「社長、もう……辞任するしかありません。」

その言葉に、天野はゆっくりと顔を上げた。

「……辞任?」

「もはや、社長が残ることで会社に利益はありません。むしろ、社長がいることで、さらに批判が集まります。」

「つまり……俺を生贄にするということか?」

誰も、何も言わなかった。

その沈黙こそが、答えだった。

天野は、奥歯を噛みしめた。

「……ふざけるな。」

しかし、その日の午後――

天野剛志、社長辞任。

そのニュースが速報で流れた。

東都テレビの"帝王"は、ついにその座を追われた。

天野の辞任が決まった日、局内は完全に混乱に陥った。

ニュース制作部では、プロデューサーやディレクターたちが互いに責任をなすりつけ合い、廊下では怒鳴り声が響いていた。

「お前、知ってたんだろ!? 女子アナたちが接待させられてたことを!」

「知らない! 俺は何も知らなかった!」

「ふざけるな! みんな知ってたくせに、今さら"関係ない"は通じないぞ!」

局内は、"沈黙"から"暴露"へと一気に変わった。

「俺も聞いたことはある。でも、どうしようもなかった……」

「俺たちが沈黙したから、こんなことになったんだ。」

今さら、遅すぎる後悔だった。

「……もう、会社としての機能は終わってるな。」

鳥山一樹は、局の廊下を歩きながら呟いた。

局内は、崩壊寸前の建物のように、ひび割れた空気が漂っている。

ニュース制作部の記者たちは、東都テレビの"闇"を暴く特集を作るべきか悩んでいた。

「俺たちは、今まで何をしていたんだ……」

プロデューサーの一人が、苦しげに呟く。

「なあ、俺たちの番組で、本当のことを報道できないか?」

「……無理だ。そんなことをしたら、局は完全に終わる。」

「でも、もう終わってるだろ?」

「……そう、かもな。」

もはや、誰もこの会社を守ろうとしていなかった。

その夜、局の前には報道陣が殺到していた。

「東都テレビの崩壊が、現実味を帯びてきました!」

「社員の大量退職が始まっており、運営の継続が難しいとの声も……」

カメラのフラッシュが光る中、一人の男が局の玄関から出てきた。

天野剛志。

記者たちが一斉にマイクを向ける。

「天野さん、今回の事件について、どうお考えですか?」

「女子アナの接待は、本当に局の指示だったのですか?」

天野は、帽子を深く被り、何も言わずに車に乗り込んだ。

その姿は、かつての"絶対権力者"の姿とは程遠かった。

車が走り去ると、記者たちの間から静かな声が漏れた。

「……東都テレビは、もう終わりだな。」

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