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銃声の中で
あらすじ
2030年、日本は銃規制を緩和し、銃社会へと変貌を遂げる。都市部では警察の取り締まりが強化される一方、田舎町では銃の浸透が進み、無秩序な社会が形成されつつあった。山間部の赤坂町で、横山一郎が警察官・山本貴夫に発砲し、銃撃事件が発生。事件を調査する青年・純一は、町の裏社会に絡む不正と暴力の存在を突き止める。実力者・佐藤康夫との対立が深まる中、純一は銃撃戦を繰り広げ、康夫を暴露。しかし町は壊滅的な状況に陥り、銃社会の後遺症が残る。
事件後、純一は銃文化の変革を試みるが、町民の反発に直面する。それでも、少しずつ町に希望の光が差し、暴力に頼らない新たな未来が模索されていく。
1. 序章: 静かな村
2030年、未来の日本。銃規制が緩和され、ついに一般市民にも銃所持が許可された。この決定は、政府によって発表された当初から賛否両論を巻き起こしていた。支持派は「自衛のため」として銃の所持を歓迎し、反対派は「暴力の増加を招くだけだ」と懸念の声を上げた。だが、政治家たちは銃所持の自由化を推し進め、ついに法律は成立した。
それから数年後、日本全土に変化が訪れた。銃が普及し、各家庭に普通に銃が置かれるようになった。防犯のため、家の中には複数の銃が置かれ、商店や町の広場にも警戒するために持ち歩かれるようになった。最初のうちは、銃の所持者が自己防衛の意識から冷静に扱っていたが、やがてその使用がエスカレートし、無差別な銃撃事件が頻発し始めた。
東京や大阪などの大都市では、警察と政府の強化した取り締まりが功を奏し、表面的には平穏を保っていた。しかし、その背後では、銃を持つことが日常になり、犯罪者たちが堂々と街に出歩くようになった。そして、それが田舎の小さな町にも波及していった。銃社会の影響が最も顕著に現れたのが、山間部の小さな町、赤坂町であった。
赤坂町は、かつては山や川に囲まれた静かな田舎町で、農業と漁業で生計を立てる人々がほとんどだった。ここでは、銃を所持すること自体が極めて珍しく、銃に触れることさえなかった。しかし、銃規制緩和後、町民たちは政府の指導に従って次々と銃を手に入れた。最初は、地元の農家たちが自衛のために銃を手にし、山に出る際にはクマやイノシシを狩るために使用していた。しかし、次第にその銃が他の目的にも使われ始める。
若者たちの間で「大人としての証」として銃を所持することが流行し、銃を持つことが誇りとされ、誰もが銃を携帯する時代が到来した。町内では、「銃を持っているか?」という会話が頻繁に交わされるようになり、それが一種のステータスになった。町のバーでは、銃を見せびらかしながら談笑する姿が普通の光景となり、銃声が空気を切り裂くことも珍しくなくなった。
だが、その陰で次第に不安な気配が広がっていった。銃を持つことで町民たちは「自衛」の意識が強くなったが、それと同時に他者への信頼が薄れ、誰もが警戒心を抱くようになった。何か小さなトラブルが起きるたびに、銃を持つ者同士の対立が激化した。店の物が盗まれた、道で軽い衝突があった。どんな些細なことでも、銃を使って解決しようとする者が現れた。
その結果、赤坂町の雰囲気は次第に冷徹で不穏なものに変わり、住民たちは恐怖を抱きながら日常を送るようになった。近隣の町との交流も途絶え、赤坂町だけが独自の「銃社会」と化していた。
そして、その瞬間が訪れる。町内のスーパーの駐車場で、予期せぬ事件が起きた。町役場で働く純一は、その日もいつも通り、銃所持に関する市民からの苦情を受け付けていた。町の住民である横山一郎が突然、銃を持ってスーパーに現れ、無差別に発砲し始めたのだ。
町内で起きたこの事件は、瞬く間に町全体を震撼させ、近隣の町にも波紋を広げていった。純一は、何が起こったのかを解明しようと動き出す。しかし、銃が普及した社会では、真実を追い求めることが次第に危険になり、純一は自身の命をかけて町の闇と向き合わせられることになる。
赤坂町は、銃という「力」に支配された不安定な社会へと突入し、その後の運命を決定づける事件が続発していく。
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