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美の檻①
あらすじ
若菜は自分の容姿に対する強いコンプレックスを抱え、小学生の頃から鏡を見るたびにため息をついていた。特に一重瞼と低い鼻が気になり、周囲からのからかいやいじめがその悩みを深めていく。中学時代も状況は変わらず、メイクやファッションに無関心で、容姿に劣等感を持ち続ける。大人になって都会で接客業を始めるも、同僚の美咲との容姿差に悩み、整形を考えるようになる。美咲の言葉「人生が変わる」に引き寄せられ、若菜は整形の決意を固め、無料カウンセリングに申し込む。
若菜はクリニックでのカウンセリングを受け、医師から自信を与えられ、二重瞼と鼻の手術を決意する。手術当日、彼女は不安と期待の中で手術を受け、術後は腫れと痛みに耐えながらも、結果に希望を抱く。しかし、術後の自分の顔に違和感を感じ、再度の不安が芽生える。
手術後、若菜の外見は劇的に変化し、人間関係も改善され、男性からの関心も増える。しかし、鏡を見ているうちに再び完璧を求める気持ちが強くなり、顎の手術を決意。その後も肌の治療や脂肪吸引を繰り返し、整形が日常化していく。初めは満足感を得るが、新たな不満が次々と現れ、他人の評価に過剰に反応するようになり、自己満足を求め続ける生活が始まる。
第1章 鏡の中のため息
若菜(わかな)は、小学生の頃から自分の顔が嫌いだった。特に一重瞼と低い鼻が嫌で、鏡を見ればため息が出る。クラスの友達と並ぶたび、自分だけが「不細工」に見えてしまう感覚が拭えなかった。
「若菜ちゃん、なんか眠そうな目してるね」
それは、悪意のないつもりで放たれた同級生の言葉だった。しかし幼い若菜にはその一言が鋭い刃となり、心に刺さった。次第に、もっと直接的な言葉やからかいが始まる。
「パンダみたいな目だね!」
「鼻ぺちゃさん、こんにちは!」
笑い声に包まれる教室の中で、若菜は机に顔を伏せて耐えるしかなかった。誰にも相談できないまま、彼女の心の中には「私は醜い」という思いが深く根付いていった。
中学に進学すると、状況はさらに悪化した。周囲の女子たちはおしゃれに興味を持ち始め、雑誌を見ながら流行のメイクやファッションの話をしていた。しかし、若菜はそういった話題に入れない。メイクを試してみても、一重瞼が「可愛い」どころか「かえって変に見える」と思い、鏡を見るのも怖くなった。
「あの子って地味よね」と陰口を聞いたとき、若菜は何も言えず、ただ心の中で自分を責めた。地味で、つまらなくて、醜い――そう思い込む日々が続いた。
大人になった若菜は、地元を離れて都会で就職し、接客業に就いた。だが、それでもコンプレックスは消えなかった。職場では、明るく華やかな同僚たちが眩しく見えた。中でも、同期の美咲(みさき)はその容姿で周囲を惹きつけ、客からも同僚からも「可愛い」「美人だ」と賞賛されることが多かった。若菜は笑顔でそれに同調しながらも、自分の中の劣等感が膨れ上がるのを抑えきれなかった。
ある日、ランチの時間に美咲が言った言葉が若菜の心に深く響いた。
「実は私、目の整形してるんだ。高校生のときに二重にしたの。最初は怖かったけど、やって正解!人生変わったって感じ!」
「人生が変わる」。その言葉は若菜の中で何度も反響した。美咲のように整形をすれば、自分も「普通の人」になれるのではないか――そんな思いが頭をよぎる。
その夜、若菜は鏡の前で自分の顔をじっと見つめた。
「もし目がぱっちりしてて、鼻がもう少し高かったら……きっと私も笑顔になれるはず」
スマホで「整形」「ビフォーアフター」といったキーワードを検索し、数えきれないほどの症例写真を見た。どれも術後の女性たちが満足そうに笑っている。若菜は心を掴まれた。
だが、すぐに頭をよぎるのは不安や罪悪感だった。
「もし失敗したらどうしよう……」
「整形なんて、自分を偽るようで恥ずかしい……」
その葛藤は数週間続いた。しかし、心の中のもう一つの声が若菜を突き動かしていった。
「何も変わらないまま生きるのは嫌だ。このままじゃ、ずっと私は私を嫌いなままだ」
若菜は意を決して、クリニックのホームページを開き、無料カウンセリングの予約フォームに入力した。送信ボタンを押した瞬間、胸の奥で何かが動いた。希望と不安が入り混じった感情が彼女を支配していた。
「これで、変われるのかな……」
彼女は自分に問いかけながら、鏡の前で最後にそっとつぶやいた。
「さようなら、今の私」。
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