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星屑の咆哮 -アストレイナーの軌跡-第2章:敵と味方の狭間①
第5話:レジスタンスの砦
1. 「アクシオン」の到着と歓迎
宇宙の闇にぽっかりと浮かぶ独立コロニー「アクシオン」。遠くから見るとその姿は、ひび割れた球体に無数の金属製のパネルが縫い付けられているようだった。長年にわたり地球政府軍の圧力に耐え、攻撃を受けても修復を繰り返してきたこのコロニーは、傷だらけでありながらも強靭な存在感を放っていた。
「ここが……アクシオンか。」
カイはアストレイナーのコックピットから外を眺めながら呟いた。ボロボロになったモビルスーツの動力が停止し、静かにコロニーの格納区画へ降り立つ。着地と共に、避難民を乗せたシャトルが次々とアクシオンに入港し、救助の手が差し伸べられていく。
「これでひとまず安心ね……。」
アヤがコックピットから降り、息を吐くように呟いた。その横顔には、安心と疲労の入り混じった表情が浮かんでいた。
待機していた整備員や医療スタッフが次々とシャトルやアストレイナーに駆け寄る中、一人の男が堂々とした足取りで二人の元へ歩み寄る。
エリオス・ミクモ――アヤの父であり、レジスタンスの指導者。長身で引き締まった体躯に、鋭い眼光を宿した威厳のある男だった。
「よくぞここまでたどり着いてくれた、アヤ。そして……君がアストレイナーのパイロットか。」
その声には感謝と期待が入り混じっていた。
カイは緊張した面持ちで口を開く。
「カイです。ナギサ・カイ。」
エリオスの視線が、アストレイナーの機体を見上げる。彼の目には、単なる機械への興味以上に、その力を託されたカイという存在に対する複雑な感情が宿っていた。
「君には、このコロニーにとって重要な役割を果たしてもらうことになるだろう。」
その言葉には、重い責任が込められていた。カイは無意識に拳を握りしめる。アヤはエリオスの顔を見つめ、心の中で父の真意を測りかねていた。
2. レジスタンスの「正義」
歓迎式が終わった後、エリオスはカイたちを連れてコロニーの内部を案内した。アクシオンの内部は一見すると平和そのもので、地球政府の支配を逃れてきた住民たちが協力し合い、再び日常を築こうとしていた。子どもたちが笑い声を上げて駆け回り、大人たちは互いに励まし合いながら暮らしている。
「これがアクシオンか……。」
カイはその光景に目を奪われた。崩壊したネメシスの姿とは対照的で、ここには希望が息づいているように見えた。しかし、それは表面的なものに過ぎなかった。
格納庫の奥へ案内されたカイは、そこで目にした光景に言葉を失った。地球政府軍から奪取したモビルスーツが次々と改造され、武器が山積みにされている。工場のような整備場では、整然と並ぶ武装が次々と搬出されていた。
「……これ、全部?」
カイが声を漏らすと、アヤが小さく頷いた。
「これが、父さんたちのやり方よ。」
さらにエリオスが語るのは、地球政府軍への大規模な反撃計画だった。その中には、敵のスパイ網を一掃するという作戦も含まれていたが、それは同時に地球政府側に協力している可能性がある民間人をも巻き込む内容だった。
「これって……民間人だって犠牲になるんじゃないか?」
カイは口を開いた。
エリオスは表情を変えずに答える。
「地球政府の手段がどれほど非道か、君も知っているはずだ。奴らはコロニーの独立を力で押し潰すためなら、民間人であろうと平気で犠牲にする。それに対抗するには、我々も相応の手段を取らねばならない。」
その言葉には冷静さがあったが、同時に冷徹さも含まれていた。
カイは返す言葉を失った。確かにエリオスの言うことは正論かもしれない。しかし、彼の中でその「正義」は何か違うと感じられた。
「俺は本当に、このやり方で良いのか……?」
心の奥底で生まれた疑問が、カイの胸を重くする。
3. アヤの葛藤
その夜、カイは宿舎代わりに与えられた小さな部屋で、外をぼんやりと眺めていた。ドーム越しに見える星々は美しいが、その静けさは心の安らぎを与えてはくれなかった。
コンコン――。
ノックの音がして、アヤが部屋に入ってきた。カイは振り返り、彼女の顔を見つめる。
「寝てないの?」
「いや……色々考えててさ。」
カイの返事に、アヤは小さく微笑み、隣の椅子に腰を下ろした。
「……アヤ、君は父さんのやり方に納得してるのか?」
静かに問いかけるカイ。アヤは少し目を伏せ、ため息をついた。
「正直……わからない。でもね、私には父さんが正しいように思える時もあるんだ。だって、私たちのコロニーを守るためには、地球政府に立ち向かわなきゃいけないから。」
その言葉には、尊敬と迷いの入り混じった感情がにじんでいた。
「でも……」
アヤは言葉を切り、真剣な眼差しでカイを見つめる。
「もしあの時、あんたが戦ってくれなかったら、私たちは今ここにいない。それが事実だよ。」
カイはアヤの言葉を受け止め、目を閉じた。彼の中で、守るべきもののために戦った自分の選択が本当に正しかったのか、疑問が渦巻いていた。
「アヤ、俺にはまだわからないよ。戦って、人を守ることと、同時に誰かを傷つけること……それが本当に正しいのかどうか。」
「それでも、戦うしかない時があるんだよ。」
アヤの声は寂しげだった。彼女自身もまた、戦うことの矛盾と正義の間で揺れている。
「でも、カイ。迷うことは悪いことじゃない。私は、迷いながらでも前に進むあんたを信じてる。」
アヤの言葉に、カイは少しだけ心が軽くなった気がした。
4. 新たな戦いへの準備
翌朝、レジスタンスの会議室には再び緊張が走っていた。地球政府軍がアクシオンを包囲しつつあるという情報がもたらされ、反撃の準備が進められていた。
「カイ、次は俺たちがアクシオンを守る番だ。」
エリオスの言葉に、カイは自分の使命を再確認する。たとえ迷いがあったとしても、今できることをやらなければならない――その想いが彼を奮い立たせた。
「……わかりました。俺にできることをやります。」
彼の答えに、エリオスは満足そうに頷いた。そしてアヤも、そっと微笑みながらカイの肩を叩いた。
「行こう、カイ。これからも一緒に戦うんだから。」
二人はアストレイナーと共に、新たな戦いへ向かう準備を整え始めた。
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