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世界を変えた値引きの力①
あらすじ
田中悠子はスーパーの平凡な店員だが、驚異的な値引き交渉力を持つ女性。彼女は日常の買い物でその特技を活かしていた。しかし、ある日、世界的な価格暴落現象が発生し、悠子は異常な値引きがただの偶然ではないと気づく。調査を始めた彼女は、世界中の市場を裏から操る巨大財閥「アセリアングループ」の存在にたどり着く。
世界を巡りながら真相を探る中、悠子はアセリアングループの陰謀を暴こうとするが、次第に孤立し、脅威にさらされる。それでも、真実を求める決意を固めた彼女は、ついにスイスのアルプスにある秘密施設への潜入を決意する。そこで待ち受ける最後の試練とは――。
第1章: 「値引きの達人、田中悠子」
田中悠子は、普通のスーパーで働く、ごく平凡な40代の女性だ。毎日変わらぬ制服を着て、レジの前に立つその姿は、まるで他の店員と変わらない。しかし、悠子には誰にも真似できない特技があった。それは、どんな商品でも、どんなサービスでも、必ずディスカウントを引き出す能力だ。
悠子がその才能に気づいたのは、かつて若かった頃。大学を卒業したての頃、アルバイト先で値引き交渉を繰り返しているうちに、彼女はある法則に気づく。それは、単なる交渉ではなく、相手の心の中に潜む「値段に対する感覚」を巧みに操る方法だった。相手が感じている「適正価格」と、実際の「売り値」のギャップを見抜き、そこに潜む微細な隙間を突く。そして、悠子はその感覚を磨き、日々の生活に活かすようになった。
スーパーでは、ちょっとした買い物でも悠子の技が光る。例えば、古くなった野菜が安くなっていると、店員に「これ、少し傷んでるけど大丈夫ですか?」と声をかけるだけで、ほんの少しの値引きを引き出す。あるいは、セール品に対して「これ、他の店ではもう少し安くなっているんですよね?」と言えば、店側もついサービス価格を提示してしまう。その方法は、まるで魔法のようにスムーズで、周囲の人々を驚かせた。
悠子は、自分の特技を「仕事」としては使わず、日常生活の中でさりげなく活用していた。普段の生活の中で、小さな節約を積み重ねることで、悠子は「スーパーの女王」として周囲に一目置かれる存在になっていた。しかし、彼女はその技を誇示することはなく、周囲と同じように平穏な日々を送り続けていた。無駄に目立つことは嫌いで、できるだけ穏やかな生活を大切にしていた。
それでも、誰もが驚くべき瞬間がある。ある日、悠子は同僚の佐藤に「これ、ちょっと高くない?」と小声で言いながら、近くのレジに並ぶと、わずかに値引きされた商品が次々と手に取られていく。佐藤は、悠子がレジの前で交渉する姿を見て、「あの人、何をやっているんだろう?」と目を丸くするばかりだった。しかし、悠子にとっては、ただの日常の一部に過ぎなかった。
彼女の周りには、この「値引き術」に関する噂も広まり、近所の人々からは「田中さん、また値引きしてきたの?」と冗談交じりに言われることもあった。それでも悠子は、普段通りにレジの仕事をこなし、決して特別な存在だとは思われたくなかった。ただ、少し得をした気分になることが、何よりも心地よかったのだ。
だが、悠子の平穏な日常は、突然崩れ始める。ある日、スーパーに納品されるはずの新商品が届かないという事態が発生。その原因を探る中で、悠子は思わぬ事実にたどり着く。それは、価格の乱高下とともに、世界中で似たような異常が起きていることを示唆する兆候だった。最初は、単なる一時的な問題だと思っていた悠子だが、次第にその規模が拡大し、何か大きな陰謀が進行していることに気づき始める。
悠子は、自分の特技が何か大きな変革のきっかけになることを感じ、動き出す決意を固める。しかし、彼女の「値引き術」が試されるのは、これから先の予想を超えた壮大な冒険の始まりに過ぎなかった。
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